八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

Coincidence5

2023-01-25 08:00:00 | Coincidence(完)

 

 

本夕より支社長は、ネジ工場の牧野社長と会う約束でございました。

あいにく牧野社長は体調を崩された為、日を改めてもらいたいと、社の方に連絡があったのですが…。

残念ながら、こちらとは入れ違いになってしまいました。

 

電話連絡をして下さった牧野社長のお嬢様の牧野つくしさんは、入れ違いになったと察知し、わざわざ料亭まで謝りに来て下さりました。

実は牧野社長のお嬢様でいらっしゃる牧野つくしさんは、弊社の従業員であります。

 

申し遅れました。

私、道明寺ホールディングス日本支社:道明寺支社長の秘書を務めております西田と申します。

 

電話連絡だけでなく、自ら出向いて謝罪をしてくださった牧野さんですが…。

その誠意が、女性嫌いの支社長に通用するかどうかを心配しておりました。

 

軽くあしらった後に悪態をつき、直ぐにでも部屋から出てくる。

と、隣室で予測しておりました。

 

が、それなのに!

予定通り会食が始まったのでございます。

 

支社長が女性と二人で食事をなさるなんて、青天の霹靂でございます。

何が起こったのだろうかと心配していると─────。

 

女将から、信じられない言葉を聞くことになったのです。

「初めて左手のサインが出ました。」と…。

 

左手のサイン。

それは、料理をゆっくり出すようにの合図でございます。

 

このような料亭では、顧客のサインに応じてくださります。

支社長は基本、早く終わらせることに重点を置かれていました。

 

暫くすると、もっと信じられないことが起こりました。

隣室から楽しそうな話し声が聞こえてきたのです。

 

盗み聞きをしていたのではございません。

お二人の声が、漏れ聞こえただけです。

もっと聞こえるようにと、私は隣室と隔てている襖の隣へと移動しました。

 

「私の父は、何よりもネジが大好きなんです。」

牧野さんの声です。

 

「螺旋状になっているショートパスタのフジッリ(スピラーレ)のサラダを食べると、うちの父は『ネジに申し訳ない。』なんて言って謝りだすんですよね。」

再び、牧野さんの声です。

 

「チョロギや巻貝を見ると『自然界の回転に勝つような、綺麗なネジを作りたい。』なんて空に向かって叫びだしたりするんですよね。」

三度、牧野さんの声です。

 

牧野さん!

司様が、女性と初めて二人きりで食事をしているのです!

ご自分のお父様の話ばかりしないで、もう少し気の利いた話をしてください。

 

そして、司様!

牧野さんばかりに話をさせないで、ご自分からも少しは話してくださいっ!

私は、こんなことを心の中で唱えました。

 

そしたらどうでしょう。

「うおっ!」

「きゃっ!」

と、言う声が同時に聞こえたのです。

 

私も司様と同じく『うおっ! 』です。

隣室で何が起こったのでしょうか?

 

司様が牧野さんを押し倒した。

なんてことになっていたら、どうしましょうか?

 

いや。

それは、ありませんね。

二人は同時に驚いた。

 

何が起こったのか、次の反応で判断しないといけません。

この襖がマジックミラーだと、二人の様子を見ることが出来たのですが…。

こう思った時です。

 

「すみませんっ。大丈夫でしたか?あっ、濡れてしまいましたね。本当にすみません。」

焦ったような牧野さんの声が、ハッキリと聞こえてきました。

 

と同時に、司様の笑い声が聞こえてきたのです。

そして、

「お前、本当に下手だなぁ。」

このような司様の声がしました。

 

「はい…。本当にすみません。ジャケット、大丈夫ですか?これで、拭いてください。」

申し訳なさそうな牧野さんの声も、聞こえてきました。

 

どうやら、牧野さんが司様に酌をした際に飲み物を溢してしまい、司様のスーツが濡れてしまったようですね。

そして、牧野さんが司様にハンカチを渡した。

 

「おぅ。サンキュー。これから、特訓な。」

嬉しそうな司様の声が聞こえます。

 

「ビールの後は、日本酒の特訓だからな。」

坊ちゃんは、ちゃっかり次の約束までしていらっしゃいます。

 

 

帰り際。

牧野さんは当然のように電車で帰ろうとされたのですが…。

案の定、司様が大反対され「絶対に送る。」と言い出しました。

 

残念なことにこの料亭からだと、道明寺邸と牧野さんの家は逆方向。

牧野さんもそこに気付いているらしく、

「道明寺支社長に遠回りしてもらうのは、申し訳ないので…。」

と辞退されておられます。

 

ですが、このような時間に、女性一人で帰らせるのは心配です。

私は、牧野さんにはタクシーを手配しました。

そんな私を、ジト目で睨んでくる司様。

 

少しでも一緒に牧野さんと過ごしたかったのでしょうか?

それとも、牧野さんのお宅を知りたかったのでしょうか?

どちらにしても、このような司様の行動は初めてです。

 

私はジャケットからスマホを取りだし、ある方にメールを送信しました。

【司様に初恋の兆し】

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。