2011年9月18日(日)
#185 やくしまるえつこメトロオーケストラ「ノルニル」(スターチャイルド)
#185 やくしまるえつこメトロオーケストラ「ノルニル」(スターチャイルド)

やくしまるえつこの、この10月5日発売予定の第5弾シングルより。やくしまる自身の作品(ティカ・α名義)。
天才、すなわち天賦の才能とは何か。その定義は極めて困難であるが、筆者は経験的にこういう自説を持っている。「天才とは名状しがたいものである」と。
容易に言葉によって説明が可能なものは、ごくごく並みの才能であって、天賦の才能ではない。ことに芸術においては。
そういう意味で天才はごく稀にしか発見されえないのだが、筆者的に「このひとはもしかしたら、天才なのかもしれない」と最近(椎名林檎以来ひさしぶりに)思っているのが、やくしまるえつこなのだ。
年齢、出身地等、そのプライベートな情報がほぼ完全に非公開なアーティスト。年齢は5年のキャリアのわりには、まだかなり若いようだ。
恥ずかしながら筆者は、彼女について最近まで「不思議ちゃん系シンガー」「アイドルもどきのアーティスト」程度の認識しかなかった。その往年のビッグ・アイドルを連想させる芸名と、フレンチ・ポップス風のウィスパー・ボイスから、どうしてもそういう先入観を持たざるをえなかったのである。
しかし、ここのところ、彼女の活躍ぶりは目覚ましい。いくつもの主宰/客演ユニットに参加。坂本龍一、鈴木慶一、近田春夫、高橋幸宏、砂原良徳(まりん)、光嶋誠(BOSE)といった錚々たるベテラン・ミュージシャンたちがこぞってコラボレーションを申し出てくるといった人気ぶりなのだ。まさに「小蹊を成す」が如き状態。
単に彼女が可愛いとかいったレベルで説明出来ることではない。「才能は才能を知る」。明らかにそういうことなんだと思う。
論より証拠。まずはこの7月からの深夜アニメ「輪(まわ)るピングドラム」オープニングテーマ「ノルニル」を聴いて欲しい。アニメオープニング用のショート・バージョンながら、その異才ぶりは十分に感じとってもらえると思う。
冒頭からのフレンチ・ロリータなささやき歌唱でずっと通すかと思いきや、サビ直前で急激な昂りを見せ、あとは雪崩のようにサビへと突入。序破急、1分半の見事なドラマを作り上げている。
その独自の(としかいいようのない)言語感覚といい、特異なメロディのセンスといい、まぎれもなくワン・アンド・オンリーな世界を持っているのだ。
しかもそれらすべてを自分自身がディレクトし、プロデュースしているというところが、他のアイドルとアーティストの境界線上にある女性シンガーとの決定的相違点だと思う。
プロ・ミュージシャンが注目する特別な才能、やくしまるえつこ。一般リスナーもこれからは目を離せないね。いやマジで。