マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)利用者が集中する駅のエレベーター(JR東日本・東京駅の中央線ホーム下)。利用者は多いが数は1ホームに1基しかない。

1.はじめに

 以前、鉄道事業者の女性専用車と優先席に関する記事(本来、優先度が高いはずの優先席対象者にこそ「専用車」を設けるべき、との趣旨)を掲載しましたが、これについて先日、首都圏のある大手鉄道事業者(民営鉄道。もっとも、旧国鉄も旧営団地下鉄も民営化された現在、首都圏において「公営鉄道」と呼べるのは、都営地下鉄・都電、ゆりかもめ、日暮里・舎人ライナーぐらいのものですが。)の「お客様相談窓口」に相談したところ、窓口の担当者の反応は、次のようなものでした。

1.御意見については承ったが、女性専用車については多くのお客様から賛成意見を頂いているので「専用車」を設置しやすいが、「交通弱者専用車」については、そうした強い意見が無い。混雑時には、ベビーカーについては折りたたんで頂き、幼児は保護者が抱きかかえて頂くほかない。

2.女性専用車は、お体の不自由な男性のお客様とその介助者についても乗車が可能であり、敢えてこれ以外に「交通弱者専用車」が必要であるとも思われない。

3.女性専用車は、あくまでお客様のご協力をお願いするというものであり、法的根拠を以って女性以外のお客様の乗車を禁じるものではなく、その点では「優先席」と変わりない。

4.駅エレベーターを交通弱者「優先」ではなく「専用」にすべきとの点については、全ての駅のエレベーターに駅員や警備員を配置し、「専用」の趣旨に反してエレベーターを利用しようとするお客様を排除するというのは現実的ではない。

5.いずれにせよ、鉄道事業者としては、今後とも、お客様のマナー向上に向けて呼びかけを続けていく。

 読者の皆さんは、上記の窓口担当者の反応を見て、どのように思われるでしょうか。

(写真)東京地下鉄副都心線(西早稲田駅)。

2.「多数決」では決められない交通弱者対策

 窓口担当者の反応の中で、私が最も違和感を感じたのは、鉄道事業者とはいえ、民営鉄道の場合、乗客の大多数を占める健常者の旅客の要望に左右され、少数の交通弱者の意見は反映されにくい、という点です。無論、この担当者はそのような回答を直裁にしている訳ではありませんが、「女性専用車」が「多くのお客様から賛成意見を頂いている」から設置できたということからすれば、「交通弱者専用車」は、他の(健常者の)乗客からの理解が得られないから導入しづらい、ということになります。
 しかし、こうした対応では、人数的には少数にならざるを得ない交通弱者の意向については、その意向が全く反映されないということとなり、的な性格を有する鉄道の有り方としては、問題があります。そもそも、鉄道事業者は、一般的な民間企業とは異なり、交通事業者というその特性上極めて公共性が高い業種であり、それ故に各種の法令でも一般企業とは異なる扱いがなされています。その営業については国土交通省が所管する「鉄道事業法」(昭和61年法律第92号)に詳細な定めがあるほか、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化に関する法律」(平成18年法律第91号。いわゆる「交通バリアフリー法」)においても特別の責務を有するものとされ、これを受けて最近は駅のバリアフリー化が進んでいます(しかし、逆に言えば、「交通バリアフリー法」が国によって制定されるまでは、鉄道事業者による自発的なバリアフリー化はあまり進んでいなかったということでもあります。)。これは、鉄道というものが、特に大都市において、社会生活を行う上で欠くことのできない基盤的資源だからであり、特に自ら自家用車を運転できない交通弱者については、鉄道やタクシーが唯一の移動手段となるからにほかなりません(この内、タクシーについては、価格の面で鉄道より遥かに高価であり、日常的に気軽に利用できるものではありません。)。「交通弱者専用車」や「交通弱者専用エレベーター」が存在しないということは、こうした「交通弱者」が外出できず、彼らから移動の自由そのものを奪うに等しく、更には、健常者と同等の社会生活を営む可能性を奪うものですらあります。例えば、車椅子で移動する障害者の方が、健常者と同様の仕事に就きたいと考えているとき、当人が、他の従業員と同じ時刻、即ち朝のラッシュ時に鉄道を利用して通勤・出社できないということであれば、ただでさえ「障害」というハンディキャップを抱えているのに、これに輪をかけて不利な立場に立たせることになり、就職、自立が一層難しいということになりかねません。そしてこうした「交通弱者専用車」の必要性は、専ら健常者からの要望をもとに設定された「女性専用車」の必要性をも上回るものであるはずです。ラッシュ時であっても、車椅子やベビーカーでも乗車しやすいような「交通弱者専用車」ないし「専用区画」が、例え他の健常者たる乗客が乗車できる車両が混雑することになろうとも必要な所以です。付言すれば、こうした措置を更に実際的にするためには、エレベーターの出口から「交通弱者専用車」の乗り口まで、ホーム上に「車椅子通路」をペイントで設定し、通路上は立ち止まることを禁止する必要もあります。

 ちなみに、鉄道事業者側は、「女性専用車は男性の身体障害者でも利用可能。」と回答していますが、実際にはそうした制度であることはほとんど知られておらず、また障害者に至らないような移動制約者(赤ちゃんなど)については対象となっていないので、「交通弱者」対策としては不十分であることは明らかです(例えば、東京地下鉄などは、急遽、「女性専用車」という張り紙の下に、男性障害者とその介助者や小学生以下の男性も乗車できる旨を記したシールを追加していますが、目立たない上に、直通運転で地下鉄線内に乗り入れてくる他社の車両には追加シールが貼られていないケースも散見されます。)。しかも、女性専用車といえども通勤時間帯はガラガラという訳ではないので、車椅子等の利用者については、依然として利用しづらいままです。

(写真)女性専用車の表示(東京地下鉄東西線)。「女性専用車は、女性のお客様のほか、小学生以下のお客様、お身体の不自由なお客様とその介護者の方もご乗車いただけます。」という説明は後付けで追加されたものであり、同じ東西線でも直通してくる東葉高速鉄道の車両にはその説明は無い。

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