マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)東京の私鉄の混雑(写真は東急東横線)

 最近、日本の鉄道事業者は、通勤列車を中心に、挙って「女性専用車両」を導入しています。かつて、一部の(旧)国鉄線にも「女性専用車両」が存在し、その後、通勤列車の混雑激化に伴って廃止されてきた経緯がありますが(ちなみに、国鉄京浜東北線の専用車両は、1973年にシルバーシートの新設と引き換えに廃止)、近年、人口の自然減少に伴う混雑緩和と、女性の社会進出に伴う列車内での痴漢犯罪の増加を背景に、「女性専用車両」導入の動きが復活。2001年3月に京王電鉄京王本線で時間を限って導入されたのがきっかけで、現在では関東、関西を中心に多くの鉄道事業者が通勤電車について導入している他、一部の長距離列車や長距離バス事業者も女性専用座席を導入しています。

(写真)女性専用車の表示(東京地下鉄東西線)。「女性専用車は、女性のお客様のほか、小学生以下のお客様、お身体の不自由なお客様とその介護者の方もご乗車いただけます。」という説明は後付けで追加されたものであり、同じ東西線でも直通してくる東葉高速鉄道の車両にはその説明は無い。

 「痴漢被害から逃れられる」「痴漢冤罪被害に遭わなくて済む」ということで男女双方から賛成論も多いこの「女性専用車両」ですが、他方で、「連結位置によっては、ラッシュ時に一般車輌が混雑する」(特に、2~6両編成の列車が多い地方都市では問題があり、例えば神戸電鉄は、4両編成中1両を女性専用車両としていたが、批判を受けて2004年6月1日に廃止。また、2両編成中1両を女性専用車両としていた高松琴平電鉄も、2002年に廃止)「痴漢対策は鉄道事業者の口実であり、専用車は車内混雑が緩和されるため、事実上の女性客サービスになっている」「痴漢対策を理由とした女性専用車両の設定は、男性を総体として痴漢犯罪者予備軍と看做すものであり、違法な性的差別(又は特定の集団に対する憎悪を表明する行為)」という強い批判もあり、「女性専用車両に反対する会」なる団体もあるとか。
 各鉄道事業者の説明では、「女性専用車両」はあくまで乗客の任意の協力によるものであって、鉄道営業法や輸送約款上の義務ではない(つまり、「携帯電話をマナーモードにする」といったマナーの呼びかけに類するものとの位置づけ)とされているそうですが、実際には、専用車両には各所にステッカーが貼られ、乗車している女性の圧力?もあって、「マナー違反」はほとんど見られないようです。

 個人的には、「女性専用車」の設置は何となく不公平感・被差別感を感じるので抵抗がありますが(痴漢被害者の女性はお気の毒だとは思うが)、それ以上に疑問を感じるのが、「女性専用車」と「優先席」の関係です。

(写真)優先席の例(東京地下鉄)

 かつては「シルバーシート」と呼ばれていた「優先席」は(ちなみに、旧国鉄が「シルバーシート」と命名したのは、(私がそう誤解していたように)「銀髪」の高齢者の方を優先するという意味ではなく、単に国鉄の座席の布地で銀色が余っていたから、だそうです。国鉄時代、布地は青色が基本でしたが、東海道新幹線用0系電車の普通車については青色部分と銀色部分があり、その銀色部分に使われていた布地を流用して「シルバーシート」を作ったとか。)、最近では高齢者以外の対象者(妊産婦、障害者、負傷者等)も含まれるために単に「優先席」「優先座席」「おもいやりぞーん」「(昔のまま)シルバーシート」とも呼ばれていますが、無論これも鉄道事業者が乗客に優先をお願いする「マナーの呼びかけ」であり、強制力がある訳ではありません。また、携帯電話機の普及に伴って、優先席の周辺では、心臓ペースメーカー等の電子医療機器を使用している乗客への配慮から、携帯電話機の電源を落とすよう呼びかけがなされています。私などは、「優先席」とはいえ、実際に障害者や高齢者の乗客が着座中の乗客(優先席非対象者)に座席を譲るよう求めることは困難なので、そもそも優先席に着席すること自体遠慮していますが、実際のところ、「優先席」が一般客室の中に孤立しているためか、都内で鉄道利用時に観察していても、「優先」着席者が付近に居ても譲るような雰囲気がほとんど無く、中には健康そうな若者(男女を問わない)が「優先席」を無視して座っていたり、寝て気づかないフリをしたりしていることもあります(但し、札幌市営地下鉄ではこれを「専用席」と称しており、その分空席が確保されているとか。)。

(写真)優先席の案内。マークは「シルバーシート」時代と同じ。(東京地下鉄)

 そもそも、同じ任意の協力を呼びかけるにしても、「専用」のほうが「優先」よりも規制の度合いが強い訳ですが、「女性専用車」の場合は、1両まるごとを専用としているため極めて高い実効性が確保されているのに、「優先席」については、「対象者の着席が優先である=対象者がいないときは着席してもいい」ということで、極めて低い実効性しか確保されていないのが実情です。加えて、「交通弱者」という意味では、従来から概ね「優先席」の対象となっている高齢者、障害者、妊産婦、傷病者に加えて、小さい子供連れの乗客もまた「交通弱者」であり、優先席に優先着席させるほどの対応は必要ないにせよ、ベビーカーを伴っての乗降にはそれなりの配慮が求められてしかるべきであるように思われます。最近でこそベビーカーの車内持込が認められるようになり、また交通バリアフリー法(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律、平成12年法律第68号)の施行に伴い駅構内のエレベーターも増設されましたが、これが禁止されていた時代に若い親がどのようにして乳幼児と外出していたのか、全く想像もつきません。
 その結果、朝夕のラッシュ時には、優先席対象者や小さい子供をつれた「交通弱者」は外出もままならず、「施設上のバリアフリー」が進んでも「社会的なバリアフリー」が進まない状態となっています。実は、「女性専用車」の中には、小学生以下の男性乗客や男性障害者とその男性介助者の乗車は認められているものが多いのですが、実際には、「女性専用」という案内に圧倒?されて、あまりよく知られていません。
 なお、これは鉄道車両の話ではありませんが、駅構内にあるエレベーターの扱いも、再検討を要するように思われます。最近、交通バリアフリー法によって新設された駅エレベーターには、一応「車椅子、ベビーカーの方を優先して下さい」との「お願い」が張り出されていますが、実際には、高齢者やベビーカーに混じって健常者が多く乗ろうとしており(特に、東京、新宿、渋谷といった大きなターミナル駅や、エスカレーターが長く改札口まで遠い地下鉄駅)、そのために本来優先されるべき人が待たざるを得ないという状況になっているところがあります。無論、健常者といっても、大きな荷物を抱えてエスカレーターでの移動が危険な場合は当然エレベーターを使ってもよいものですが、結局これも「専用」ではなく「優先」としているが故の問題と言えます。

(写真)エレベーターで障害者や高齢者を優先するよう「お願い」する張り紙。

 しかしながら、そもそも優先的な扱いがなされるべきはこれら「交通弱者」のはずで、現在の制度では残念ながらその点が全く省みられていません。無論、「高齢者や妊産婦、障害者はどの車両に乗車したとしても座席を譲るべきであり、特定の車両や座席を設けて専用・優先とするのは却って一般車両でのマナー低下に繋がる」という「理想論」もありますが、そうした「理想論」に基づいて「優先席」を廃止(「全ての座席が優先席である」という考え方)した阪急電鉄、神戸電鉄、能勢電鉄、横浜市営地下鉄のうち、阪急系3社(阪急、神鉄、能勢電は、その後、再検討の上「優先席」を復活させた経緯もあります。

(写真)優先席付近での携帯電話の使用自粛を呼びかけるシール(東京地下鉄)

 そこで、私が提案したいのが、従来の「女性専用車」を廃止して新たに「バリアフリー車両」(又は「交通弱者車両」)を新設することです。「バリアフリー車両」は、10両編成以上の列車なら1両、8両編成以下なら半室程度とし、車イスやベビーカーを駐車する場所(固定するためのベルトを用意するほか、駐車スペースのうち車イス1台ぶんについては立ち席としての立ち入りも禁止)とともに、クロスシート形式で座席やチャイルドシートを設置。床面には視覚障害者用タイルを貼り、つり革や手すりも増設します。無論、「バリアフリー車両」内における携帯電話機の使用は禁止(喫煙については「禁煙」と明確に「禁止」しているのであるから、携帯電話機を使った通話についても、「ご遠慮下さい」ではなく「禁止」という強い表現を使ってよいはず。)で、電源を切らなければなりません。
 この車両が利用できるのは原則として従来の「優先席」対象者及び乳幼児とその親(自力では歩けないためベビーカーの使用が不可避な赤ちゃん。ベビーカーを利用していても自分である程度の時間立てる子供は対象外だが、子供が複数いる家族のうちで対象者にはならない子供については例外)とし、車両はあくまで対象者「専用」としてそれ以外の乗客の立ち入りを禁止にします。介助者や子供の親であって健常者である者については、座席に着席はできますが、高齢者や妊産婦が乗車してきたときは席を必ず譲らなければならないようにします。ラッシュによる混雑が激しい、あるいは女性乗客の痴漢被害が統計的に際立って多い路線については、専用車を更に半室構造に分割し、ラッシュ時間帯に限って、車両の半分について女性の乗車・入室は可(ただし、座席はあくまで「バリアフリー車両」対象者専用とし、これに該当しない女性健常者の着席は不可。男性であっても「バリアフリー車両」対象者は入室可)としますが、それでも残る半室は対象者専用を維持。ラッシュ時間帯でも、車イスやベビーカーの利用者が気兼ねなく乗車し、また高齢者の乗客が着席できる車両とします。また、早朝・深夜の時間帯で赤ちゃん連れの乗客が少ない場合は、半室については男性・女性を問わず健常者の入室を可としてもよいかもしれませんが、その場合であっても健常者が座席に着くことは禁止にしておきます。そして、以上の禁止事項については、乗車マナーとしての鉄道事業者からの「お願い」ではなく、鉄道運輸約款上、非対象者たる乗客は、通常の乗車券を以ってしては当該車両に立ち入れないこととし、法的裏づけを与えます。

 無論、こうして新設した「バリアフリー車両」は、朝夕のラッシュ時にはガラガラになるところもあるかもしれません。しかし、逆にこうした車両を設置しなければ、混雑そのものがバリアーとなっている現在、上記のような「交通弱者」が鉄道を利用することがそもそもできなくなってしまう以上、「バリアフリー車両」新設に伴う混雑については、他の一般の乗客にはある程度受忍してもらうほかありません。そもそも健常者というのは、自分自身に障害が無いのでバリアフリーにも無頓着になりがちですが、人は誰でも小さいころは赤ちゃんであった訳ですし、年をとれば高齢者に、また誰でも人生の途中で大きなケガをすれば障害者になり得ます。あるいは子供が生まれて、急遽ベビーカーが手放せなくなるかもしれません。その意味では、誰もが潜在的には「バリアフリー車両」の利用者になり得る訳で、決して一部の乗客だけを特別扱いしている訳ではありません(その点、「女性専用車」については、男性として生まれた乗客は、障害者かその介助者にでもならない限り、どうあがいても利用する機会がありません)。

 優先されるべきものを優先し、同時に一般車両でのマナー改善を広報する、そうした2正面作戦こそ鉄道事業者に求められていることであると思います。



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コメント
 
 
 
Unknown (反対派)
2009-08-16 21:05:04
女性専用車両の問題を指摘した動画を発見しました。
男性を侮辱した差別が発生しており、かなり問題みたいですね。

http://www.youtube.com/watch?v=NY8aKB_rI4E
 
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