マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)ほぼ全駅にエレベーターが設置されたリヨンの地下鉄(写真はA号線の終点「ロロン・ボヌヴェー」駅)。

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3.専用運転が必要なエレベーター

 駅のエレベーターに関するこの窓口担当者の後ろ向きの対応も、気になるところです。
 そもそも、駅のエレベーターは、先述の「交通バリアフリー法」制定の前後に急速に普及しましたが、JR東日本のような大企業であっても、一つのプラットホームにエレベーターは1基だけ。その結果、山手線を例にとれば、鶯谷や目白といった乗降客数が(山手線としては)比較的少ない駅でも、東京、池袋、新宿、渋谷のように乗降客数がかなり多い駅でも、ホームあたりのエレベーターの数は同となり、新宿、渋谷といった大きな駅では、それだけ「交通弱者」やマナー違反の健常者の利用が多くなります。これに対して、現在大手の鉄道事業者が行っていることといえば、「交通弱者」優先を呼びかける駅長名の張り紙を貼るぐらいであり、事実上、「何も対策をとっていない訳ではない。」というアリバイ作り以上のものにはなっていません。

(写真)エレベーターで障害者や高齢者を優先するよう「お願い」する張り紙。アリバイ作り以上のものになっていない。

 無論、理想としては、全ての駅に交通弱者(及び大きな荷物を持っていてエスカレーターを利用できない健常者)「専用」エレベーターが設置され、かつ、全ての駅で「専用」運転違反の乗客を監視するため、駅員や警備員を配置することが必要ですが、それが仮に現実的ではないとしても、エレベーターの位置づけを「優先」から「専用」に変え、東京、池袋、品川、新宿、渋谷といった大きな駅において駅員や警備員を配置すれば、「エレベーターは交通弱者専用」という認識が高まり、結果としてその他の小さな駅のエレベーターでのマナー違反も抑制できます(例えば、埼京線南古谷駅にも、上り線にはエレベーターがありますが、これについても新宿駅と同様の対応が絶対必要というわけではありません。)。
 ちなみに、東日本旅客鉄道(JR東日本)のホームページによれば、首都圏の山手線内の駅では、御茶ノ水駅にエスカレーター、エレベーターがともになく(車椅子階段昇降機のみあり。ちなみに身障者対応トイレもなし。駅の改築が予定されながら、周辺地権者との交渉が停滞しているため。)、新大久保、大久保、田端の各駅にも、エスカレーター、エレベーター、身障者対応トイレのいずれもありません(田端駅には、車椅子用階段昇降機はあり。)。これらの駅は、構造上、あるいはエレベーターを設置しづらいのかもしれませんが、主要駅であるので、ぜひ早急にエレベーターの新設を行っていただきたいものです(車椅子用階段昇降機では、ベビーカーの利用者は利用しづらい。)。

(写真)優先席の例(東京地下鉄)

4.ベビーカー利用不可という困難

 この他にも、窓口担当者の反応の中で違和感を感じたところがあります。
 例えば、ベビーカーの利用については、「混雑時には、ベビーカーについては折りたたんで頂き、幼児は保護者が抱きかかえて頂くほかない。」ということでしたが、果たしてこうした対応が現実に可能なのものなのか、大いに疑問です。実際、赤ちゃん連れのお母さんのお出かけの場合、お母さんは、単に子供をベビーカーに乗せているだけでなく、子供に関係した様々な物(赤ちゃんがぐずったときのおもちゃ、おやつ、哺乳瓶、粉ミルク、お湯を入れた小型ポット、ミネラルウォーター、おむつ、お尻拭き(ウェットティッシュ)、予備の着替え等)を持っています。たとえダッコ紐を使って赤子をダッコしたとしても、これに加えて上記の赤ちゃんグッズを持つのは負担であり、ましてやこれに加えて何か別の荷物を持つことは困難で、ベビーカーが使えないとなると、混雑時には、赤ちゃん連れのお母さんは、事実上鉄道が全く利用できなくなります
 こうして、小さい子供を連れたお母さんが鉄道から排除されるとどうなるか。こうなると、お母さんとしては、自家用車を購入して移動を専ら自動車に頼るか、そもそも鉄道に乗って外出することもなくなります。その結果、鉄道を利用しようという気持ちが、お母さんのみならず、そうしたお母さんによって育てられた子供からも生まれず、人々の鉄道離れが進む結果となります。加えて、そもそもこうした「子連れのお母さん」に優しくない社会の中では、いかに税制上の、あるいは金銭的な支援をしたとしても、いわゆる「少子化対策」が進むとは思えません。

5.おわりに

 思えば、つい最近まで欧州に住んでいた際、ベビーカーで鉄道を利用すると、大抵の乗客がそうした子連れの親に優しく、「ベビーカーを利用している分、他の乗客は迷惑している。」といった印象は全く受けませんでした。無論、例えばフランスでも、リヨンの地下鉄では最近の突貫工事でエレベーターが多数整備されたものの(その結果、C号線の「Croix-Paquet」駅を除いては、リヨン公共鉄道の全ての地下鉄、トラム、バス、ケーブルカーが車椅子対応となりました。)、パリの地下鉄は依然としてエレベーターはおろかエスカレーターすら少ないなど、依然としてバリアフリーとは程遠い状態です。しかし、そうしたハードウェア上のバリアフリーとは別に、乗客の気持ちというソフト面でのバリアフリーは、むしろ日本のほうがまだまだ遅れているように思われます
 人は誰でも一瞬で「交通強者」から「交通弱者」に転落する危険性がある訳で、各鉄道事業者には、設備を整える「機会のバリアフリー」のみならず、結果として「交通弱者」を含む全ての人が快適に鉄道を利用できる「結果のバリアフリー」を目指して欲しいと思います。



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