マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)ベルギーの代表的な肉牛「ベルギー青白種」(Blue Blanc Belge)

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 日本でこれだけ和牛、それも黒毛和種が珍重されているのは、一説によると、日本の食文化に牛肉食が庶民の食卓にも本格的に普及したのが明治以降で、開港場の外国人居留者からの文化的影響もあり、「すきやき」ないし「牛鍋」が誕生。これが広まっていく際、醤油と砂糖ベースのタレにはなるべく脂肪分の多い牛肉のほうが美味しく感じられたため、「霜降り肉」がより美味しいものと観念されるようになったそうです。牛自体は、弥生時代の稲作伝来とともに日本にも導入されたのですが、これは専ら使役するためのもので、牛肉を食べる習慣が一般化したのはやはり明治以後のことで、江戸時代ですら、牛肉食はむしろタブーだったとか。
 
当時、政府は、日本古来の肉牛に輸入した欧米の牛を掛け合わせ品種改良を実施。以後、黒毛和種は、「気高」系、「田尻」系、「菊美」系、「茂金」系、「藤良」系、「栄光」系、「岩田」系等のいくつかの系統に分かれて交配されています(系統を超えた交配もあるようです。)。

(写真)フランスの代表的な肉牛、リモージュ種(上)とシャロレー種(下)

 実際、日本における牛肉の格付けは、以前書いたように、1975年に発足した特例民法法人(社団法人)「日本食肉格付協会」が実施しており、「歩留等級」と「肉質等級」の2つの指標を用いています。このうち「歩留等級」(上から順に、A、B、C)は、つまるところ一頭の牛から(正確には、「一頭の牛の枝肉(肉牛から皮や頭、4本の足、内臓を取り除いた、肉と骨の状態)」から)どれだけ肉がとれるのかという格付けで、「肉質等級」は、「脂肪交雑」、「肉の色沢」、「肉の締まり及びきめ」、「脂肪の色沢と質」の4項目について1~5の数字で格付けするもの(5が最上位)で、4項目中で最も低い数値の等級を以って肉質等級が決定されます。従って、例えば仮に「脂肪の交雑」が「5」であっても「肉の色沢」が「2」なら全体としての等級は「2」ですし、極端な話、「脂肪の交雑」以外の3項目が「5」でも、「脂肪の交雑」が「1」なら、理論上、全体としては「1」等級の扱いになる訳です(そこで、和牛を専門的に扱う肉屋さんや焼き肉店は、脂肪分の多い「A5」ランク、「A4」ランクの肉を売りものにしています。)。いずれにせよ、重要なのは、日本の和牛は、「肉質等級」、中でも「脂肪交雑」が多いほど、「肉質がよい」との前提で取引がされているということで、格付けが上だから直ちに消費者としても美味しく感じる、ということにはならない、ということです(食べる人の好みによる)。

(写真)シャロレー種の故郷、シャロールの町。人口約3000人で、市街地をスモンス川が流れる。

 これに対して、例えばヨーロッパでは、1981年4月28日の欧州経済共同体理事会規則第1208号(Council Regulation (EEC) No 1208/81)「牛の成獣の枝肉の格付のための共同体尺度を定める理事会規則」(Council Regulation determining the Community scale for the classification of carcasses of adult bovine animals)により(「欧州経済共同体」(EEC)は、1981年当時「欧州共同体」(EC)と総称される欧州統合のための国際機関の一つで、後に2009年に正式に廃止されて「欧州連合」(EU)となるまで、存続)、「肉質」と「脂肪分」を判定基準としており、「肉質」(conformation)は「E」「U」「R」「O」「P」の5段階評価(「E」が最良)、「脂肪分」は1~5の5段階評価で5が脂肪分過多、1が脂肪分過少です(ちなみに、欧州では、牛肉の等級の判定が機械化されつつあり、ある程度客観的に格付けができるそうです。)。いずれにせよ、ここで興味深いのは、日本の格付けが「歩留まり」と「肉質」を判定し、「脂肪分」は「肉質」判定の一部になっているのに対し、欧州の格付けでは、「肉質」と「脂肪分」が別々の判定になっているということです(歩留まりについては、別に基準があるのかもしれませんが。)。

(写真)放牧されるシャロレー種(上)と、高速道路で見た肉牛輸送車(下)。リモージュとシャロールの間を結ぶフランス国道N145号線ー79号線(ともに欧州道路E62号線に指定)はフランスの二大肉牛産地を結ぶ自動車専用道路で、道路左右に畜産農家があり、さながら「肉牛街道」の様相を呈する。

 そして、欧州の消費者は、脂肪分の多さ(霜降りの度合い)を、それほど重視していません。例えば、フランスの非営利法人・食肉情報センター「(Centre d'Information des Viandes、CIV)では、フランスの消費者にとっては「E3」グレードの牛肉が最も好まれる、と解説しています。そこで、フランスで多く飼育されている肉牛は、シャロレー(シャロール)(Charolais)種(ブルゴーニュ(Bourgogne)州ソーヌ・エ・ロワール(Saône-et-Loire)県(県庁所在地は白ワインで有名なマコン))のシャロール(Charolles)が原産の肉牛)、リムザン(リモージュ)(Limousin)種(リムザン(Limousin)州上ヴィエンヌ(Haute-Vienne)県の州庁・県庁所在地リモージュ(Limoges)が原産)、アキテーヌ褐色種(Blonde d'Aquitaine)(アキテーヌ地方原産)ですが、いずれも筋肉質の赤身が多く、脂肪分が少ないことで知られています(それどころか、フランスでは、ハンバーグ用のひき肉について、「筋肉質100%」を示すラベルまである。)。このリムザン種とシャロレー種は、フランス以外の欧州各国やアメリカでも生産され、特にアメリカでは、イギリス原産のアンガス種やヘレフォード種、短角種(ショートホーン)と並んで、多く生産されているそうです。

(写真)リモージュ市内(上)と、リモージュ牛のステーキ(下)。ステーキを食べたお店は、「ル・ヴェルサイユ」(Le Versailles )という、市内でも著名な仏料理店(住所:20 place d'Aine, Limoges、仏国内電話:05-5534-1339、予算:20~40ユーロ)。

 以上、いろいろと書いてきましたが、実際のところ、個人的には、霜降りが多い黒毛和牛も、また、赤身の深い味わいを楽しめるフランス牛も、ともに大好きなので、日ごろは、黒毛和種のほかに、ときどき日本短角種も食べています。今後、宮崎の種牛がどうなっていくのかはまだ分かりませんが、消費者としても、政府や県の支援が十分になされ、都道府県や畜産農家による和牛改良・育成の伝統が続くことを願ってやみません
 

 



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