(写真)高級和牛の肉(記事の内容とは直接関係ありません)
ここ最近、食品偽装問題がニュースを賑わせています。
一口に「食品偽装問題」といっても2つの類型があって、一つは、本来安い値段でしか売れない商品をブランド品と偽って販売し、利益を得るケース(いわば「格上げ」するケース)。二つ目は、本来の品質に満たない原材料や本来であれば使用が禁止されている成分を使って加工食品を製造する、消費期限が切れたものを再販売する等、食品の安全そのものが問題となるケースで、前者については、魚沼産コシヒカリ偽装表示事件(2004年。新潟県・魚沼産コシヒカリでないものがコシヒカリとして販売されていた事件)、讃岐うどん偽装表示事件(2004年。讃岐うどんが、香川県産の小麦粉を使用していないのに「Kブランド」として販売されていた事件)、アサリ不当表示事件(2005年。中国、北朝鮮で採取されたアサリを国内産と表示して販売していた事件)、産地品種銘柄米偽造事件(2006年。大阪府東大阪市の「日本ライス」が、産地品種銘柄米と偽ってくず米を販売していた事件)、比内鶏偽装事件(2007年。鶏卸業者の「比内鶏社」が、卵を埋めなくなった鶏を「比内地鶏」と偽って販売していた事件。)、船場吉兆事件(2007年~2008年。大阪の高級料亭「船場吉兆」が、店内で出す食事や贈答品に使用する牛肉の産地を偽ったり、一度使った食材を再利用していた問題。)、タイ産チリメンジャコ偽装事件(2008年6月。大阪市の水産卸売り業者「大水」のせり人と仲卸業者「竹村商店」が、タイ産チリメンジャコを「淡路産」と産地偽装し、別の業者に販売した事件。)、中国産魚類偽装事件(2008年6月。広島県福山市の水産卸売会社「クラハシ」が、中国産のハモとヨロイイタチウオを約2年間にわたり長崎県産と偽って別の業者らに販売していた事件。ハモは中国船籍の漁船が九州で水揚げしたものだったが、JAS法では外国船籍船の水揚げは外国産と表示する義務がある。)、飛騨牛偽装事件(2008年6月。岐阜県養老町の食肉卸売会社「丸明」(まるあき)が、規格より低い品質の牛肉をブランド牛「飛騨牛」として販売していた問題。当初、吉田明一社長は組織ぐるみでの偽装を否定していたが、結局最後は自分の指示であったことを認めた)、そして7月3日に強制捜査が行われたウナギ偽装事件(大阪市の海産物輸入販売会社「魚秀」(うおひで)と神戸市の水産物卸売業者「神港魚類」(しんこうぎょるい)(マルハニチロホールディングスの子会社)が、中国産ウナギを「愛知県三河一色産」と偽装表示していた問題)があります。
また、後者については、ミートホープ加工肉偽装事件(2007年。北海道の肉類加工会社「ミートホープ」が、牛挽肉に鶏肉や豚肉などの異物を混入させたにも関わらず牛挽肉と偽って販売していた事件)、船場吉兆事件の一部(期限切れの食品販売)が該当すると言えます。更に、被害者が一般消費者ではなく国(農林水産省)という意味で特殊な事例として、雪印による牛肉偽装事件(2001年。牛海面状脳症(狂牛病、BSE)の国内感染事例の発見後、農林水産省が国産牛肉買取事業を実施したところ、雪印食品(関西ミートセンター)が外国産の牛肉をパッケージを取り替えて国産と偽り、農林水産省に買い取り費用を不正請求していた事件。雪印食品と取引があった西宮冷蔵が告発し発覚。雪印食品は2005年に会社解散により消滅)、日本ハム、ハンナンによるBSE牛肉偽装事件(2004年。雪印食品同様、大手の牛肉卸業者が、国の買取事業を悪用し、米国産の牛肉を国産と偽って国から補助金を詐取した事件。)もありました。
こうした事件のうち、後者の類型については、消費者として偽装や不正を見分けることは難しく、農林水産省や地方公共団体担当部局による監視、内部告発等を組み合わせて取り締まるほかに、有効な対策は無さそうです。しかし、前者の類型となると、無論偽装を行った業者自体に非があることは明らかですが、我々消費者としても、立ち止まって考え直してみるべき点があるのではないでしょうか。
例えば、3日に家宅捜索が行われたウナギ偽装事件に関連した報道によれば、現在日本で流通しているウナギのうち、本当に国産であるのは約2割だそうで、他は全て中国(中華人民共和国)産・台湾(中華民国)産だそうです。しかしながら、実際にスーパーのウナギ売り場で目に付くのは国産ウナギばかり。確固たる証拠は無いものの、世の中に流通している「国産ウナギ」の中には、明らかに外国産のものが混じっている可能性が高そうです。それでも消費者が「国産」を求めるのは、有毒ギョーザ事件で中国製食品に対する信頼度が下がったこと、しかも右事件の捜査に中国当局が熱心ではなく、真相が究明されないまま事実上幕引きされてしまったことから、中国製食品に不安を感じているからに他なりません。ただ、その一方で、「国産のほうが中国産より高いのだから、美味いはず」といった先入観にとらわれて、味を追求する観点から国産を買い求めている人も多いものと思われます。
こうした傾向は、ブランド牛などの高級食材について一層強まり、食品のブランド化によって固定客を掴み、小売価格を上げたい生産者側の思惑もあって、過度なブランド信仰が蔓延しているように思えてなりません。そもそも食べ物であれば、「美味しいものが美味しい」というあたりまえの基準で消費者としても十分判断ができる訳で、生産者や小売業者の宣伝文句に幻惑されずに買い物をすればそれで足りる話です。無論、消費者としても常に食品の品質と味に関する情報を十分持っている訳ではないので、ある程度は生産地名やブランド名を参考にする訳ですが、「○○牛だから無条件に美味しい」のではなく、「○○牛だと美味しい可能性がある」といった程度に留め、「○○牛だから多少高い価格設定でもよい」と安易に財布の紐を緩めないようにしたほうが、最終的には「美味いもの」に辿り着けるような気がします。無論、逆にそれが本当に「美味いもの」であれば、生産者に対して敬意を表するという観点からも、適切な対価を払うのに躊躇すべきではありませんが。
また、ブランド食品の中には外部団体が格付けを行っているところもありますが、この格付けについても、正しい意味を理解した上で参考情報として活用しないと、逆に格付けに翻弄されることになります。例えば、牛肉の格付けは1975年に発足した社団法人・日本食肉格付協会が実施しているもので、牛枝肉の格付けには「歩留等級」と「肉質等級」があり、このうち「歩留等級」(上から順に、A、B、C)は、一頭の牛からどれだけ肉がとれるのかという格付けで、畜産農家等にとっては関心事項であっても最終的に肉を口にする我々消費者にはあまり関係の無い格付けです(もっとも、「C」ランクの牛を飼育しても元が取れないので、実際には「C」ランクの肉は多くない由)。これに対して、「肉質等級」は、「脂肪交雑」、「肉の色沢」、「肉の締まり及びきめ」、「脂肪の色沢と質」の4項目について1~5の数字で格付けするもの(5が最上位)で、4項目中で最も低い数値の等級を以って肉質等級が決定されます(飛騨牛偽装事件では、本来3~5等級の牛しか名乗れない「飛騨牛」を、1~2等級の肉にも使用していた。ちなみに、1~2等級の肉は「飛騨和牛」と名乗れる)。従って、例えば仮に「脂肪の交雑」が「5」であっても「肉の色沢」が「2」なら全体としての等級は「2」ですし、極端な話、「脂肪の交雑」以外の3項目が「5」でも、「脂肪の交雑」が「1」なら、理論上、全体としては「1」等級の扱いになる訳です(そういう事例が実際にあるのかどうかは知りませんが・・・)。よく、焼肉屋さんなどで「A5」の最高級肉を使用していることをウリにしているお店がありますが、「A2」の肉でも、肉質等級の中で脂肪交雑については「5」の評価であれば、「霜降り」という観点からは「A5」相当のお肉ということができます。
ちなみに、上記「肉質等級」で数字が多いほど上位と書きましたが、例えば「脂肪交雑」については、数字が大きければ大きいほど脂身が多いということになり、これは「霜降り肉」が珍重される日本では該当しますが、赤身肉のほうが珍重される欧州では通用しません。換言すれば、「脂身が多いほど美味しい」と考える立場からは、脂肪交雑の等級が高いほど「美味しい」ということになりますが、これも最終的には本人の好みであって、数字が大きければ自動的に美味しいということにはならない訳です。
そもそも食品偽装事件というものは、消費者が自分の能力を超えて不自然に高い品質の食品を買い求めようとするところに、販売側・生産側が漬け込んで発生するもの。その意味では、お客の「不真面目さ」に漬け込んで食品の使い回しが行われていた「船場吉兆」事件と問題は同根です。偽装とは、つまるところ生産者が消費者を舐めているということであり、であるならば我々消費者としては、単にルール違反をした生産者を批判するだけでなく、舐められないよう自衛策を講じることが必要なのではないでしょうか。