マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




その1へ戻る

 さて、左右の有力候補2人ですが、現在のところ、与党UMPのサルコジ内相が優位に立ち続けており、ロワイヤル元環境相は苦戦しています。

 当初は、社会党内で有力な候補が複数現れ、予備選挙(primaire)が開催されたこともあり、世論の注目は社会党に集中。中でも治安問題等これまで社会党が不得意だった分野で歯に衣着せぬ強硬論を主張するロワイヤル元環境相に人気が集まりました。「(支持率の)数字だけでは大統領候補にはなれぬ。政策綱領(progamme)が必要」と高をくくっていた他の社会党内候補も、ロワイヤル元環境相が「サルコジ内相に勝てる候補」として急速に台頭するに及び、本格的な選挙運動を展開。それでも支持を広げるロワイヤル元環境相の前に、一度出馬を表明したジョスパン元首相ジャック・ラング(Jack LANG)元文相身内から「出馬を取りやめるべき」等と言われて結局不出馬に追い込まれる等、ロワイヤル候補の優位が一気に固まり出しました(ロワイヤル候補の内縁の夫であるフランソワ・オランド社会党首席書記は、野党第一党党首でありながら早くから立候補を断念)。この点、当時の仏社会党の状況は、昨年の自由民主党総裁選挙で、4大候補と言われた中で福田元官房長官が不出馬を宣言したり、党内大派閥が安倍現総理支持に回った状況と、似てなくもありません。
 結果、2006年11月16日に行われた党員投票で、ロワイヤル元環境相が60.60%の票を獲得。ドミニク・シュトロス=カン(Dominique STRAUSS-KAHN)元経済相(20.81%)、ローラン・ファビウス(Laurent FABIUS)元首相(18.59%)を破って社会党初の女性大統領候補となりました。
 
 無論、こうした社会党予備選挙の盛り上がりに対して、与党UMP内部でも予備選挙を求める意見が出され、実際にもミッシェル・アリヨ=マリーMichele ALLIOT-MARIE国防相(女性)が出馬に意欲を示していました。同国防相は2006年12月1日には独自の政党「柏」(Le Cheneを創設し、着々と出馬環境を整備(新党設立はUMP離党を考えてのこととされており、実際にも同年12月27日には、「UMPの基盤的、財政的は必ずしも当てにしていない」と発言)。これに対して、無投票での指名を狙うサルコジ内相による調整は、党大会2日前の1月12日まで続きました。
 しかし、UMP党内での討論集会で国防相のパフォーマンスがいまいちだったこともあり、最終的に1月14日にパリのヴェルサイユ門展示場で開催されたUMP党大会では、アリヨ=マリー国防相自身が登壇してサルコジ支持を表明。党員投票では圧倒的多数(投票者数の98.1%)でサルコジ内相の候補指名が承認されました。
 もっとも、当初からライバル視されていたシラク大統領派のドミニク・ド・ヴィルパンDominique DE VILLEPIN首相は、昨年の新社会人雇用契約(CPE)導入問題で蹉跌をきたして以来、事実上候補とは看做されず、実際にもUMP党大会には短時間顔を出したのみで、演説もせずに退場していました。

 ところが、こうして左右双方の有力候補が出揃った段階で、ロワイヤル元環境相の立場が徐々に弱体化。圧倒的多数で社会党予備選挙を制したとはいえ、予備選挙で生じた亀裂の拡大を恐れて「社会党としての連帯」を強く打ち出したロワイヤル候補ですが、それが却ってロワイヤル女史の独自性を薄めた観もあり、注目度も下がり気味になりました。
 加えて、ロワイヤル元環境相は、予備選挙直後はこれといった政権公約を示さず、「参加型討論」(debat participatif)という党員集会を回っては専ら国民の意見を吸収するとの立場をとったため、1月14日に明確な政権綱領を発表したサルコジ内相に比べて見劣りがしてしまいました。2月11日、ようやく「参加型討論」を終えたロワイヤル元環境相も「大統領公約」と称する100項目の政策綱領を発表しましたが、内容的には、ごく一部(治安、教育問題など)でロワイヤル色が出された他は、専ら公的支援の強化や労働者の権利擁護といった典型的な社会党的公約が並び、「労働を再評価する」といった哲学に裏打ちされたサルコジ内相の斬新な立候補演説からすると、旧態然とした印象を与えてしまいました(実際にも、財政制度に関する公約については、ロワイヤル候補は予備選挙で闘ったシュトロス=カーン元経済相に立案を丸投げしていました)。

 しかも、悪いことに、「ロワイヤル元環境相の政策横領には予算的裏づけが無い」等と与党UMP側が批判する中、ロワイヤル陣営の政策綱領の予算上の計画を立てていたエリック・ベッソン(Eric BESSON)社会党経済担当全国書記が、選挙運動への不満を理由に陣営から離脱、更には離党を表明。背景には、ロワイヤル陣営の中での社会党系のスタッフとロワイヤル元環境相直属の支持団体「未来への欲望」の間の軋轢があったとされ、自陣内の分裂をさらけ出してしまいました(その後、社会党陣営は2月21日になって具体的な数字を公表)。1月中旬には、総額60万ユーロ(約9000万円)以上の資産を持つ者に課税される富裕税Impot sur la Fortune, ISF)の問題に関連し、ロワイヤル候補は不動産3件などの資産合計がISFの課税対象を上回ると報じられ、「弱者の見方」としての社会党候補のイメージにも傷が付きました。

 更に、ロワイヤル候補自身の失言も目立ちました。当初こそサルコジ候補の内相兼職(内相は我が国総務省と同様、選挙の施行に関与している他、警察組織を管理しており、特にロワイヤル氏の環境担当顧問ブリュノ・レベル氏の身元調査を内務省国家警察総合情報局(DCRG)に命じたのではないか、との疑惑が浮上)を批判していましたが、コルシカ独立容認発言問題(仏人芸人のジェラルド・ダーアン(Gerald DAHAN)氏が独立問題を抱えるジャン・シャレスト(Jean CHAREST)カナダ・ケベック州首相のふりをしてロワイヤル元環境相に電話し、コルシカ独立問題について質問したところ、ロワイヤル候補が「フランス国民は(独立に)反対しないだろう」と発言した問題)、原子力潜水艦問題(仏ラジオの収録中、「フランスは何隻の戦略ミサイル原潜を保有していますか」との質問に「1隻」と誤答し、しかもアナウンサーが「7隻ですよね」と訪ねると「7隻です」と更に誤答した事件。本当は4隻が正解)では失敗を重ね、大統領候補としての知識不足を露呈しました。

 現在、サルコジ内相が33%前後の支持率を堅調に確保しているのに対し、ロワイヤル元環境相は26%前後と低迷中(昨年11月ごろはサルコジ内相に匹敵していた)。第二回投票での支持率でもサルコジ内相に常に数ポイントの差を付けられており、サルコジ優勢は動かないようです。もっとも、そのサルコジ内相も、バイルーUDF総裁との関係では第二回投票で負けるとの予想も出ており、引き続き厳しい選挙戦を強いられそうです。

 



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« 箱猫(マオ) 仏大統領選挙... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。