マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




 先月末、パリ郊外のセーヌ・サン・ドニSeine-Saint-Denis県モンフェルメイユMontfermeil、人口2万4000人)の街で、昨年秋以来となる都市暴動事件が発生。100人あまりの若者らが町長宅に投石したり、治安部隊との衝突で車両12台が放火され13人が逮捕される等していますが、この衝突事件を一挙に忘れさせるほどの大ニュースが、今フランスで流れています。

 ニュースの素は、仏社会党唯一の女性大統領候補にして、ポワトゥー・シャロント(Poitou-Charentes)州議会議長(民選知事に相当)のセゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal)女史。先週水曜日(5月31日)にセーヌ・サン・ドニ県の街ボンディ(Bondy)入りしたロワイヤル氏は、「我々は今までと違ったやり方、より大規模な施策で、暴力・非行問題に終止符を打たなければならない」「現在のニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)内相の治安対策は失敗しており、より厳格な他の政策にとってかわる必要がある」としてドミニク・ド=ヴィルパン政権の内政を批判。その上で、「公正な秩序(ordre juste)」と「安定した安全(sécurité durable)」を確保するために、「非行を犯した小学生以上の子供の親を『親の学校』へ通学させ、親の成績に応じて政府支給の家族(子女養育)手当も額を見直す」「秩序を乱す一部の生徒を地域の寄宿舎に強制編入させ、一般学校における非行拡大を防止」「新任の体育教師らを元にした、風紀を取り締まる『学校後見人』を各学級に1人ずつ配置(但し警察官は導入せず)」「1校あたりの生徒数を、400~500に制限」「16歳以上で初犯の少年少女を、軍隊式の枠組み(un service a encadrement militaire)に強制編入して人道支援活動、職業教育(運転免許取得等)や市民教育を実施(刑務所に入れるのは最悪の選択で、チャンスをもう一度与えるべき)」という一連の政策を発表したのでした。

 この発表は、2007年の大統領選挙にむけたロワイヤル氏の政治綱領と目されており、それだけに大きな注目を浴びています。元来、仏社会党は治安対策を最も苦手としてきましたが、「徴兵制度の廃止(2001年)は誤りだった」と言ってはばからないロワイヤル氏にタブーは無いようで、今回の「ロワイヤル節」も左派からは驚きと反発を以って迎えられました。例えば社会党の有力国民議院議員ドミニク・シュトロス=カン(Dominique Strauss-Kahn)元経済・金融・産業大臣は「この国にサルコジは既に1人いる。2人はいらない」と揶揄したのをはじめ、その側近のジャン=クリストフ・カンバデリ(Jean-Christophe Cambadélis)国民議院議員(パリ選出)は「ロワイヤル氏は今回ちょっと逸脱してしまった」「軍隊式の枠組みによる治安対策など、『公正な秩序(l'ordre juste)』ではなくて『秩序しかない(juste l'ordre)』」「サルコジ式の政策など社会党として受け入れられない」等として強く反発。左派系環境政党「緑の党」も「セゴレン流(ségolisme)はサルコジ流(sarkozysme)そっくり」と批判を強め、また別の議員は「セゴレン流(ségolisme)はセ・ゴール主義(sé-gaulisme。ド・ゴール主義とかけている)だ」「選挙目当てのエスカレーションは止めて欲しい」と反対しています。

 他方、与党側も、ここぞとばかりにロワイヤル批判を展開。与党「国民運動連合」(UMP)総裁でもあるサルコジ内相は、「ロワイヤルさん、あなたは正しい道をあるいている。そのままこちらまで歩み寄ってみては?」「大変残念なのは、そんなあなたが我々のこれまでの提案する政策を全て却下し、予算に反対票を投じてきたこと」と皮肉を交えて論評。フランソワ・オランド(François Hollande)仏社会党首席書記(実はロワイヤル氏の内縁の夫)に対しても「がんばって党内の連帯を維持して下さいな、それだけ分裂していては大変でしょう」と余裕の「サルコジ節」コメントでした。他の与党議員も「保守反動じゃなくて社会反動だ」「コピーは原版を上回れない(ロワイヤル氏の政策がサルコジ内相の強硬策に類似していることを指して)」「下手な贋作」「与党丸呑み作戦」等と揶揄しています。

 もっとも、渦中のロワイヤル氏周辺には、同氏の政策を支持する社会党議員も数人いる模様。内縁の夫のオランド首席書記も、「社会党員は、仏国民に左派もまた有効な治安対策を打ち出せることを占めさなければならない」として「生徒数1000人以上の学校の削減、非行少年らの集中教育施設への送致」といったアイディアは「承認できる」と発言(但し、軍隊を利用した再教育制度には反対)。「いずれにせよ、彼女の提案は本当の議論の呼び水になった」として徐々に支持を広げている側面もあります。

 但し、「ロワイヤル節」が既存の与党支持層まで広がるかどうかは微妙で、私の友人などは「サルコジ内相の言うとおり。彼女は有言実行してこなかったではないか。何故これまで沈黙を守って反対ばかりしていたのか」と言っていたのが印象的でした。



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