Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

私が、生きる肌

2013-02-27 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 2012年/スペイン 監督/ペドロ・アルモドヴァル
(DVDにて鑑賞)


「久しぶりにアルモドヴァル節全開!」

いやはやすっごいトンデモ話で、非常に面白かったです。
ここのところ、「ボルヴェール」など比較的真っ当なストーリーが多かったアルモドヴァルですが、
久しぶりに奇天烈な映像と物語が交錯して、アルモドヴァルワールドここにあり!という感じ。

全身タイツの謎のオンナが、なぜ監禁されているのかというサスペンスなのですが、
物語の途中からそれ以外にもこの女性は何者なのか?という推理を余儀なくされます。
それが、まさか!あの人だったとは!どうしたら、こういうとんでもないストーリーが思いつくのでしょうか。
アルモドバルの頭の中身を見てみたい。

屋敷に侵入したトラの着ぐるみを来た男が女の部屋を探し回るシーンなんて
ヒッチコックばりにかっこいいんですけれども、
演出のカッコ良さに対して、しっぽがブリブリしてヒゲメイクまでしている着ぐるみ男というギャップ感。
これがたまりません。

倒錯したエロチシズムと奇天烈なストーリー展開、しかしながらカメラワークや演出は一級品。
誰にも真似できないアルモドヴァルの作風が凝縮された1本ですね。

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

2013-02-26 | 外国映画(ま行)
★★★ 2011年/イギリス 監督/フィリダ・ロイド
(WOWOWにて鑑賞)

「漫然とした映画」

「働きマン」としては非常に食いつきたい素材にも関わらず、
何でこういう調理にしちゃったかなあ、もったいないという印象。
男社会で首相にまでのぼりつめた女性なら、相当の苦労があったんだろうと想像できるのですが、
映画ではその辺りの描写が非常に中途半端です。
主人公と共に男どもを蹴散らしてやろうとやる気満々だったのにな(笑)。
最後までとても退屈でした。

認知症になったマーガレットの意識のように過去と現在を行ったり来たりするわけですが、
その演出が緊張感を生んでいるかというとそういうこともない。
全く絞りどころがないんですよね。
女性の出世話なのか、認知症の悲しさなのか、イギリスの政治映画なのか、
いろんなパーツが漫然と並んでるだけです。

死んでしまった夫が亡霊のように出てくるのは面白いです。
死んだ人にずっと話しかけるのね。
そこには、認知症を患ってしまった女性の悲哀が感じられます。
でも、そこからどう広げるかってことが大事でねえ。脚本が全然ダメですね。

午後の曳航

2013-02-25 | 外国映画(か行)
★★★ 1976年/イギリス 監督/ルイス・ジョン・カーリノ
(WOWOWにて鑑賞)


「憧れが憎しみに変わる」


少年特有の性への矛盾と葛藤を描く本作。
いかにも三島的な耽美な作風が見られるんですけど、
このムードにノレるかどうかってのが、ポイントですねえ。
少年と母親のふたりが憧れる船乗り。この3人の関係性だけだとノレなかったと思うのですが、
主人公の少年とその友人が夜な夜な集まる秘密結社のくだりが案外面白いと思えました。
冒頭、エロ本を持ち出してみんながのぞき合って「スゲー!」とかやってるシーンがあって、
こりゃ期待できないなと思うのですが、リーダー格である少年のエキセントリックぶり、
猫をつかまえて解体したりとだんだんエスカレートするに連れて、
少年達の歪んだ精神性が浮き彫りになっていきます。

幼い頃父を亡くした少年は、母を虜にする船乗りに強い憧れを抱きますが、
丘に上がる決心をしたことで、それは大きな失望へと変わります。
失望を超えて、自分に対する裏切りと捉える。
しかし、ラストの恐ろしい行動へ駆り立てるのは間違いなく秘密結社の存在、
とりわけ彼らが信奉するリーダー格の少年がいるからです。
そういう意味でひとりの少年の葛藤よりも、少年の集団心理の恐ろしさの方が
私には感じられました。


おとなのけんか

2013-02-24 | 外国映画(あ行)
★★★★ 2011年/アメリカ 監督/ロマン・ポランスキー


「他人のケンカ」


(映画館にて鑑賞)

映画館で見たにも関わらず、wowowで放送していたのをまた見てしまいました。
ホント、他人のケンカを見てるのっておもしろいわあ。
特にジョディ・フォスターがキレまくるのを見て、ニヤニヤしてしまう私。
他人には触れられたくない心の奥底にあるものをツンと付かれて、つい本性が剥き出しになってしまう。
その様子を見ているのが実に面白い。
いい年した大人が口角泡飛ばして言い合いするなんてみっともない、と思っている方はこの映画はまず面白くないでしょう。
気分が悪くなるだけです。
私なんか、ケンカは酒のつまみにもなる、と思うタイプですからね。
友人と彼氏が目の前でケンカを始めると、仲介に入るどころか、もっとやれやれ~!とはやし立てたりして。
だいぶ人間がねじ曲がっているんだろうか?(笑)

それに、子どものケンカは実体験があるので、序盤から「あるある」の連続。
うちの場合、息子が滑り台から突き飛ばされて頬を縫うなんてことがありました。
そこに双方の親の意見とか持ち出すと実にややこしい事態になるというのは肌で知っている。
そういう経験のある親御さんは多いと思う。
そこで浮き彫りになる男親と女親の子育て感の違い!
最初はそれが論点ではないはずなのに、嗚呼!いつのまにやら夫婦喧嘩。あるよねー。

この喧嘩のキモと言えるのは、双方が大げんかしてメチャクチャになった後、
ジョディ・フォスターがポロリとこぼした「寛容な心で迎えようと努力したのに」という言葉に集約されていると思う。
「寛容でありたい」というのは、もちろん素晴らしい心がけです。
でも、そのために隠された本意、押し込めた感情っていうのは、些細なことで表に現れてしまうってこと。
他にも、正義感の違いとか職業差別とか、あらゆるいざこざがてんこ盛り。
でも、当の子どもたちは…というエンディングのオチも巧い。
人間の心の狭さとか、ひがみ根性をここまで次から次へとテンポ良く見せられると笑うしかありません。
ある意味、そこにポランスキー監督の懐の深さを感じてしまう。
私はスカッとしました。ストレス発散。一度これくらい毒を吐いてみたいもんです。


ゴーストライター

2013-02-23 | 外国映画(か行)
★★★★☆ 2010年/フランス・ドイツ・イギリス 監督/ロマン・ポランスキー
(WOWOWにて鑑賞)



「おとなのたしなみ」


全てが上質。大人が嗜む逸品、という感じですねえ。
ジャケットに「知りすぎた男」というヒッチコックの名作のタイトルが入ってますけど、
先日見たペドロ・アルモドヴァルといい、
ヒッチコックの作風をさらに高めて極上の作品に仕上げている映画に出会うとなぜこんなに嬉しくなるのでしょう?

そして、サスペンス気分を盛り上げる音楽がすばらしい。
とても優雅で美しい音楽。
気分も盛り上がります。

謎解き自体はたいしたことないし、殺された男のカーナビがそのままになってるとか、
サスペンス軸で考えると穴はいっぱいあるんですが、それがどうした、ということです。
この上質な雰囲気を楽しめばそれで充分映画の醍醐味味わいました。
ありがとうございますという感じ。

巻き込まれていく男を演じるユアン・マクレガーははまり役。
見るからにいい人そうで、純真そうで、頭も切れるし、でもどこか抜けてるみたいな。
そんなユアンが演じる主人公。
エンドロールで「Ghost」とクレジットされるのも粋ですねえ。

マリーゴールド・ホテルで会いましょう

2013-02-12 | 外国映画(ま行)
★★★★ 2011年/イギリス・アメリカ 監督/ジョン・マッデン
(映画館にて鑑賞)

「やっぱジュディ・デンチ」

いろんな事情を抱えるお年寄りが集まって起きる人間模様。
昨今シニア映画が大盛況なもんで、よくあるパターンと言えばよくあるパターン。
実子との亀裂や老いらくの恋、青春時代の捜し物。
使い回しのネタなんだけど、意外とこれが楽しかった。
やはり主人公がジュディ・デンチというのが大きいのだろうか。
彼女の演技が観客を引き込むというか。

ジュディ以外のビル・ナイ、トム・ウィルキンソン、マギー・スミスなどさすがの役者陣の演技に
引っ張られて最後まで楽しく鑑賞。
全てを捨ててイギリスからはるばるインドになってきたのに、
何もかも裏切られて落胆する面々が再び何かを探し始める。
そんなに簡単にいくものかな?という反面、
なるようになるさ、人生自分の気持ち次第という前向きな気持ちにさせてくれる。
素直に鑑賞するのが得策かと。

ルルドの泉で

2013-02-11 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 2008年/フランス 監督/ジェシカ・ハウスナー


「ねたみ、そねみのチラリズム」



(ネタバレ)
あんまりいい評を聞かなかったんだけど、いやあ、これ好きだわあ。私の好み。
監督のジェシカ・ハウスナーはミヒャエル・ハネケに師事していると後でわかり、
思わずなるほど!と膝を打ってしまった。

奇跡を起こすと言われるルルドの泉ツアーに参加するのは、誰しも大きな不幸を背負った人たちばかり。
そんなメンバーの中であまり信心深いとも思えないクリスティーヌに奇跡が起きる。

なぜ、彼女なの!?私の方がもっと信心深いのに。
なぜ、彼女なの!?私の方がもっと辛い人生を送っているのに。

共に参加している人々のねたみ根性がチラッ、チラッと浮かび上がってくる。
最初は奇跡を起こすルルドツアーに参加する人たちの信仰心を描こうとしているのかなと思わせておいて、
この映画が言いたいことはそっちなのか?というこの意外性。
演出的にはそうした周囲の人々の反応をことさら際立たせては描いていない。
こういう人間の醜い感情が私たちの心に刺さってくるのは、前半部から続く非常に美しい映像の積み重ねがあるからだ。
映画の冒頭、整然と並ぶ大食堂の食卓の上に少しずつ食事がサーブされ、
真っ赤な服装の看護婦たちがテーブルに付く映像なんかとてもキレイ。
その後も鮮やかなブルーが差し色になっているインテリアなどのホテルの描写など、
コントラストの効いた美しい映像が続く。
だからこそ、人間の心の醜さがどす黒く浮かび上がる。

そのやり方はあざといと言われるものかも知れないんだけど、私はこういうの好き。
この映画が好き、って言っちゃうと、性格悪いって言ってるような気がしなくもないんだけど。。。

007 スカイフォール

2013-02-10 | 外国映画(さ行)
★★★★ 2012年/イギリス・アメリカ 監督/サム・メンデス
(映画館にて鑑賞)


「お仕事です!」


Mとシルヴァ、Mとボンドの関係性。
両者の関係性が非常に対照的に描かれていることが本作のもっとも大きなモチーフであろうと思われるのだが、
シルヴァがMに対して母性を求めたのに対して、
ボンドとMの関係は「父」と「息子」のようであるとのレビューも読んだ。
なるほど、母の愛に飢えたシルヴァと崖から子を突き落とすライオンのごとき父性を求めるボンド。
Mというひとりの人物の中に「母」と「父」の側面を与えた物語とも言えなくもない。
が、しかし。この展開は何だか深読みすぎな気がするというか、
女性上司が出てくるとどうしてもそこに「母性」という考えを割り込ませてしまうやり方には、
何だかもやもやが残ってしまうのだ。
むしろ、私は、Mを上司、スパイを部下とする仕事論として捉えた方が、個人的にはすっきりする。
ダブルオーの仕事も命もすべて自分の責任として収める「M」という上司をとことん信頼し、
そのオーダーに応えようとするボンド。
逆恨みに転じたシルヴァは上司の命の中に「温情」や自分に対する「えこひいき」のような感情を持ってたのではないか。
Mにしても、ボンドにしても「だって、お仕事ですから!」という割り切りの元で成り立っている信頼関係というのかなあ。
そういうのが非常に清々しく感じましたね。
仕事に命を賭けるって、ちょっと危ない精神構造かも知れんのだけど。私は結構感情移入しちゃいます。

あと、この映画は車好きのためのSM映画でもありますね。
のっけからレンジローバーのドアミラーをわざとつぶし、
新車のワーゲンをユンボでつぶし、
アストンマーチンめった撃ちでフィニッシュ。
車が傷つく度に悶絶しました。

CUT

2013-02-09 | 外国映画(か行)
★★★ 2011年/フランス 監督/アミール・ナデリ
(WOWOWにて鑑賞)


「ボクは映画のためなら死ねる!」



「愛と誠」の岩清水くんを思い出してしまうような、映画愛への猪突猛進ぶり。
かといって、岩清水くんみたく笑えるかというと全くそんなことはなく、いたってまじめな映画なのであります。
あまりにまじめに映画愛を語りすぎなので、どうもこの世界に入り込めない。
この世界に入り込む隙間がない。そんな感じでした。

「クソみたいな映画を垂れ流しするシネコン!」というストレートなアジテーション。
こういうやり方は、私は全然嫌いではないです。
結構、汗臭いの好きです。若松孝二の映画とか好きだし。
だのに、この映画は楽しめなかったなあ。
やっぱりイラン人監督が日本で撮ってるところの違和感が先立ってしまうんだよなあ。
ヤクザの描写とかさ。

一発殴られるごとに、TOP映画100のカウントダウン。
これもさあ、まじめにカウントダウンしてるから面白くもなんともないの。
映画バカ一代みたいな主人公にしてくれたら良かったのになあ。
映画の存在そのものがまじめすぎる。

エマ

2013-02-08 | 外国映画(あ行)
★★★☆ 1996年/イギリス 監督/ダグラス・マクグラス
(WOWOWにて鑑賞)


「アホみたいにカワイイ!を連発するしかない」

とにかくグウィネス・パルトローがカワイイ!
そして、グウィネスの衣裳とヘアスタイルがカワイイ!
出てきたドレスを一つ一つ取り出して解説したいくらいの衝動にかられます。
そして、そのドレスに合わせたヘアアレンジがこれまたどれもこれもカワイイのよ!
この映画のスタイリストさんは凄いわ。
ヘアアレンジで言えば、リボンや帽子などの装飾ももちろんだけど、
グウィネスの金髪そのものを活かしたアレンジのバリエーションがハンパないの。
ヘアスタイリストさんも必見じゃないでしょうか。
(まあ、日本人の固い黒髪じゃあんな風にならんのでしょうが)

以前「ブーリン家の姉妹」のレビューで、イギリスの貴族の衣裳はフランスに比べて質素でつまらん、
ということを書いたんですけど、この映画を見るとその意見を撤回しなきゃいけないなあ。
それとも、この映画の衣裳が特別かわいすぎるのか。

エマは裕福な家庭の娘で、誰に対してもかなり上から目線。
親友にプロポーズした男が農家の息子だとわかり、あからさまに身分違いみたいなことを言う。
なんか鼻持ちならない、イヤな子なのよ、エマって子は(笑)。
ハタチそこそこのくせに、年上でもちょっと身分の低い貧しい人には態度がでかかったり。

ああ、なのに、なのに。
見ていて全然嫌な気分にならないのよねえー。
これぞ、ジェーン・オースティンの世界!
ジェーン・オースティンの他の映画でも書いたけど、そういう鼻持ちならない女の子を
周囲の人々がとても穏やかに温かく見守っている。
エマを諫めても、エマを嫌いになったり、陰口をたたいたりするような人はいない。
そういう人間模様を見ているのが実に楽しい。ほっこりする。
ささくれた心に染み渡ります。



フリークス

2013-02-07 | 外国映画(は行)
★★★★☆ 1932年/アメリカ 監督/トッド・ブラウニング


「美しい者と醜い者」


ずいぶん昔に映画館で見た記憶があるのですが、DVDで見られるようになりました。
奇形・異形のサーカス団の彼らをほとんど好奇心で見たいと思ってしまう自分自身に嫌悪感を抱いてしまう。
そういう装置としての映画。その存在には大いなる意味があると思います。

奇形の彼らを見てみたいという好奇心は、
サーカスの花形クレオパトラが小人を見下し、騙し、殺して金を奪ってやろうという感情にいつ転じるとも限らない。
私たちはすべてクレオが持つ醜さの芽を心のうちに持っている。
そして、クレオの態度が何より一変するのは、結婚式の宴で「これで君も僕たちの仲間だ」と言われるシーン。

見下し、騙すということ以上に彼らと同じだと言われて激高する。
健常な人々が持つフリークスたちへの差別心を見事に描き出します。

一方、本作に登場する奇形の俳優達の演技力にも感嘆してしまう。
特に、小人の婚約者を演じる女性。
「彼は騙されているの」と嘆き、悲しむ金髪の彼女からは品性が漂い、また美しく、
まるでグレタ・ガルボを彷彿とさせるのです。

見世物としての出演ではなく、見下される者を演じる純粋な役者として彼らの存在がある。
それが非常に感動的な映画でもあります。

イブの総て

2013-02-06 | 外国映画(あ行)
★★★★☆ 1950年/アメリカ 監督/ジョセフ・L.マンキーウィッツ
(DVDにて鑑賞)


「その女はイブだ」


「何がジェーンに起こったか」がすばらしかったので、ベティ・デイビスを見たくて再見。
あちらの意地悪っぷりがハンパなかったので、こちらのベティが可愛く見えてしまうのでした。

計算高い女というのは、いつの時代にも、どの場所にもいるもので、
私はそういう女たちとはなるべく関わらないよう気をつけている。
だから、そのためのアンテナは常に敏感に保っているつもりだ。
例えば、私が日頃「この女優は嫌い」と名指しで言っているのは「そいつはイブだ」と感じているからである。
そんなアンテナに本作のアン・バクスターはビンビン反応した。
それはこの作品の内容を知っていたからでは決してない。彼女の視線やしゃべり方がそうさせるのである。
最初に身の上話を話すシーンから、イブ探しにやっきな私みたいなオンナには「こりゃあ芝居だな」と思わせる芝居なんである。
初見の時は思わなかったけれど、アン・バクスターってうまい女優なんだなあと見直した。
特に声の出し方だろうか。あの猫なで声のおっとりした口調は「象徴としてのイブ」以外、何ものでもない。

女が女を騙して、利用して、のし上がる。
それは女同士の醜い戦いのようであって、結局どの女も男の庇護のもとでしか生きていけない事実をこの映画は突きつけている。
友人のカレンはそもそも売れっ子脚本家の夫の傘の下にいるし、大女優マーゴは結婚することで心の安寧を取り戻すし、
イブだって批評家のアディソンの後押しでスターになるのだ。
全ての女はそのことを知っている。人生なんて、男次第。それも、また「ひとつの」真理だと。
だから、イブは永遠に生まれ続けることを示唆するラストシーンは、男の傲慢な視点とも言えないだろうか。
オンナはみんなイブになりたがるなんて思ってもらっちゃ、困るんだ。

何がジェーンに起ったか?

2013-02-05 | 外国映画(な行)
★★★★★ 1962年/アメリカ 監督/ロバート・アルドリッチ


「こわれた女ほど恐ろしいものはない」


(DVDにて鑑賞)
映画を見て身震いがしたのは久しぶりです。
ホラーのジャンルでない作品でこれほど恐ろしい思いをしたのは初めてかも知れません。
ジョン・カサヴェテス「こわれゆく女」でジーナ・ローランズが見せた静かな狂気とは真逆。
ベティ・デイビスが見せる激しい狂気は彼女の生き霊が自分にも乗り移ってくるのではないかというほど恐ろしい。
下品で、意地悪で、浴びるように酒を飲む。そして、若作りに化粧した顔の醜悪さ。
ここまでさらけ出すベティ・デイビスに圧倒されない人はいないでしょう。

幼い頃歌っていた歌がレコードから流れてきて、ふと昔の子どもの頃に戻ってしまうジェーン。
その瞬間のベティ・デイビスの表情もすばらしいのですが、
醜い老女がスポットライトを浴びたかのように立ち止まり恍惚の表情をみせる、
その様子を正面から切り取るロバート・アルドリッチの演出も容赦がありません。
前半部に妹は演技が下手とこきおろされるシーンがありますが、
あれは実際のベティ・デイビスの出演作品を使っているというではありませんか。その徹底ぶりに驚きます。
また一番最初のカットでびっくり箱からピエロが出てくるのですが、このイントロも作品のテーマを表していて巧いです。

一方、人のいい姉を演じるジョーン・クロフォード。
冒頭、売れっ子の姉を憎々しく見つめるシーンがあるが(ここは子役)、
ジョーン・クロフォードにバトンタッチしてからは車椅子生活になっても姉を思いやる可憐な妹がそこにいる。
自動車事故を挟んだ姉妹のコントラストが見事で、まんまと観客も監督の罠にはめられてゆくのです。

そしてタイトルが示すとおり、何がジェーンに起こったのか。
事故が起きたシーンの思わせぶりなカット、そして妹の仕打ちにより追い込まれていく姉。
一体どんな結末が待っているのかと、ラスト30分は自分の心臓の鼓動が聞こえるほど興奮しました。
そして、浜辺でアイスクリームを買う老いたジェーン。
そう、彼女はアイスクリームを欲しがっていた。
劇場の出口で父親を罵倒し、アイスクリームをせがんだ時の小さなジェーンはあんなに憎らしかったのに、
今は全ての重荷を下ろしたかのように安心しきって微笑む老女のジェーンがいる。見事なラストシーンでした。

ここからは余談ですが、不仲であったベティ・デイビスとジョーン・クロフォード。
アカデミー賞主演女優賞にベティ・デイビスがノミネートされたのが不満だったジョーン・クロフォードは
他作品でノミネートされたものの当日舞台で参加できないアン・バンクロフトの代理人として出席。
結果、アン・バンクロフトが受賞し、代理人のジョーン・クロフォードは隣に座ったベティ・デイビスの肩をそっと叩いてから、
舞台に上がってスピーチをしたというではありませんか。
映画そのままに大女優の場外乱闘が続くというのも傑作のなせる技だと思います。




ヤング≒アダルト

2013-02-04 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 2011年/アメリカ 監督/ジェイソン・ライトマン


「まったく嫌いになれない、むしろ」



「37歳」という年齢を考えると、この勘違いっぷりはかなーりイタイのかも知れないけど、
私はメイビスのことが全く嫌いにはなれません。むしろ、はっきりしている分、わかりやすいオンナだと思う。
近くにいたら「アンタ、バカじゃないの!?」とはっきり言ってあげるんだけど。
でもって、そういう率直な交流が気持ちいい友達になれるかもしれん、と思ったり。あのオタクの彼みたいにさ。
元カノにベイビーの写真を送りつけたり、かわいそうと言ってわざわざパーティに呼びよせる人もどうかと思う。
しかもさ、バディの妻がやってるバンド、すっげえ下手じゃん。
よくあのレベルでライブとかするよな、なーんて、私もすっかりプチ・メイビスになって見てました(笑)。

メイビスが外出着のまま、ベッドに突っ伏して寝ているカットが何度も出てくるんだけど、これ、凄い好き。
独身オンナの成れの果てみたいでさ。
正直、こんな風にベッドに突っ伏して朝まで眠りこけたいと思うもん。結婚したら、こんなことできないもん。
で、翌日ショップで買い物しているシーンに移ると、メイビスの見た目がさ、
「ベッドに突っ伏して寝る」→「シャワーも浴びずに、化粧も落とさずに服だけ着替えて出てきた」って風貌なのよ。
まぶたの下に落ちたアイシャドウが付いていて、汚いファンデが残ってて、髪はくしゃくしゃで。
これもね、ある意味、憧れなの。こんな風になーんも気にせず、出歩いてみたいもんだわ。

とまあ、女性なら大なり小なり、その生き方に自分を重ねて見てしまう作品だと思う。
それくらい、シャーリーズ・セロンのなりきりぶりがハマっているし、演出がうまい。
冒頭、macbookのパッド部分が薄汚れているカットが一瞬映るんだけど、これでメイビスの生活ぶりがわかる。
こういう細かい性格描写があちこちにちりばめられていて、おもしろい。元カレがくれたパーカーの匂い嗅ぐ。はは。わかる。
いちばん強烈なのは、やっぱ、ヌーブラだよね。これ、見せられると男の人はヘコむだろうなあ(笑)。

結局、人間ってないものねだりだし、他人と自分の人生を比較して落ち込んだり、あがったりするもの。
それに気づいて、我が道を行く決意をするメイビス。
それで、ええんかい!とツッコミを入れながら迎えるエンディングはそれはそれで清々しい。
また、ラストのパーティシーンでメイビスはある秘密をゲストの前でぶちまける。
この告白はその後(演出上は)さらっとスルーされているのだけど、
なんで彼女が故郷で無茶苦茶なふるまいをして、元カレにこだわったのかが、よおくわかる。
オンナならわかる。メールの添付写真が封印した記憶をツンと刺したんだよ。
だから、フロントグリルがボロボロのミニで走り去るメイビスにがんばれ、と声をかけたくなった。

ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女

2013-02-03 | 外国映画(ま行)
★★★☆ 2009年/スウェーデン  監督/ニールス・アルデン・オプレヴ
(DVDにて鑑賞)


「ミカエル、普通のおっさんやんか」


フィンチャーによるリメイク版を先に見てしまったのがいけなかった。
ミカエル、イケてないただのオッサンやん。ダニエル・クレイグと色気が違いすぎるぜ。
そこで、すでにテンション下がり気味。
ヴァンゲル一家の黒い闇もオリジナルの方が描き込まれているという評が多かったんですけど、
それほどでもないんじゃ?という印象。
むしろ、デヴィッド・フィンチャーのリメイク力をまざまざと感じさせられました。
スウェーデンの孤島という舞台設定ですが、
フィンチャー版はミカエルが初めて島に入るときに、びゅーびゅーと横殴りの雪を降らせているんですね。
これは後でCGで入れたらしいんですけど、孤島に漂う不穏な空気、悪い予感、そういったものが立ちこめている。
リズベットがミカエルの調査報告を言うシーンでも、フィンチャー版ではミカエルのある性癖が暴露されるんですね。
これは、男に陵辱され続けたリズベットがミカエルに好感を持つきっかけなのかも知れないという伏線なのですが、
それもオリジナル版にはありませんでした。
オリジナルの原作も映画版もすでにヒット済みという中でフィンチャーが加えた彼なりの味付けをみると、
やっぱ観客を惹きつけるテクニックがあるなあと感心。
リズベットを演じるノオミ・ラパスですが、オリジナルの方が迫力アリと聞いていましたがさすがにそこに異論はありません。
しかし、これまたフィンチャー版のルーニー・マーラは線が細い分、余計に痛々しさが感じられてこっちの方が私は好みかも。
というわけで、オリジナルの感想になっていなくてすみません。