象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

冷静な判断を下した12人の陪審員たち〜カイル・リッテンハウスのケース

2021年12月24日 05時37分59秒 | 映画&ドラマ

 リッテンハウス氏が、彼に襲いかかった3人に発砲し、うち2人を殺害した行為が正当防衛ではないと証明するのは、(裁判で提示された事実からは)極めて困難だった。
 この事件は、彼が17歳だった昨年夏にケノーシャのダウンタウンでの(警官の暴力に対する)抗議デモの無秩序化したシーンの中で起きた。
 カイル・リッテンハウス被告の事件と裁判は、米国の政治が如何に2極化してるかを示した。しかし、ウィスコンシン州ケノーシャの裁判所で開かれた同被告の殺人罪を問う裁判で、12人の陪審員が19日、”全員一致で無罪の評決を下した”事は、基本的な事実で合意できる事を証明した。
 以下、「抗議デモ参加者を死傷させた被告は無罪」から抜粋です。

 同氏と被害者らの諍いはビデオに写されていた。ジョセフ・ローゼンバウムは駐車場を横切って逃げるリッテンハウスを走って追いかけた。駐車された車列の所まで追い詰められたリッテンハウスは、自らが手にしていたライフル銃を奪い取ろうとしたローゼンバウムに向け発砲する。
 リッテンハウスと他の1人の証人によれば、ローゼンバウムは事件発生前のこの日夜、同氏に対し”殺してやる”と脅していたという。
 リッテンハウスはその後、警察隊の列の方へ逃げようとした際に群衆に押されて倒れた。そして1人の男性が同氏の顔を蹴ろうとし、他の1人がスケートボードで殴りかかろうとし、更にもう1人が同氏に近づいて拳銃を手にした際に、同氏は再び発砲した。


有罪から無罪へ

 検察は、リッテンハウス氏が暴力を誘発した”カオス・ツーリスト(混乱を楽しみにやってくる人)だ”と述べた。しかし、彼は父が住むケノーシャでライフガードとして働いていたのだ。
 自分の所有でない武器を持って暴動の場に姿を現す事がいかに悪い判断だったとしても、彼の意図は事業所の前に立って監視し、応急処置を施す事にあった。
 こうした事全てが公開の裁判で明らかになる中で、検察は主張に苦しむ。
 有罪評決を支持してた専門家らは(弁護側を贔屓したとして)ケノーシャ郡のシュローダー判事を非難。シュローダー判事の本当の非難の元は、公正な裁判を可能にする為に慎重に措置を検討した事だった。
 検察が黙秘権の行使に関し、リッテンハウス氏に質問する事に同判事が警告を発したのは、全く適切だったのである。 

 この裁判は終盤には、再び検察有利の方向に傾いた様に見えた。検察はドローンから撮影した映像の重要性を強調し、リッテンハウス氏が追いかけられ走り出す前に武器を構えていたと主張。
 しかし、弁護側は弁論を終えるまでにフル解像度の映像を得られそうになく、粗い映像を精査してもらう機会を逸してしまう。
 これは、陪審団が有罪評決を出してたなら、審理無効の根拠になり得るもので、事実この映像は検察の最終弁論のカギであった。しかし、ケノーシャの住民から無作為に選出された女性7人と男性5人の陪審団は12日午前、評決で合意した。
 彼らの政治的立場は様々な筈だが(2020年の選挙で投票先はほぼ2分)、彼らは弁護側がしっかりと反論する機会がなかったドローン映像を証拠として見たにも拘らず、誰もリッテンハウス氏を有罪とは判断しなかったのだ。

 一方、民主党および進歩派メディアはこの発砲事件を臆面もなくミスリードし、おまけに司法制度を傷付けている。
 下院司法委員会のジェロルド・ナドラー委員長は、この評決について”司法上の誤審”であり、”司法省による連邦法上の見直しを正当化するものだ”とツイッターに投稿した。
 司法省はメリック・ガーランド司法長官の下で益々政治色を強めている。司法省がリッテンハウス氏を告発する理由を探し出す目的の為に連邦法をくまなく調べるような事はあってはならないのだ。

 一方で他の政治家らは、評決を人種的な観点から批判していた。しかし、リッテンハウスが撃った人物は(当初は黒人だと思われてたが)いずれも白人だった。
 こうした政治家の糾弾こそが、そもそもこの発砲事件のきっかけとなったとも言える。暴力的な抗議行動が容認される、或いは政治的指導者がそれをけしかける様な場合、人々は自分たちを守る為に行動する。
 バイデン大統領は昨年、リッテンハウス氏に白人至上主義者のレッテルを張ったが、少なくとも19日には”評決を尊重する”とし、平静を呼び掛けた。しかし、バイデンは根拠を示す事なしに”評決は腹立たしく、懸念させるものだ”とも付け加えた。
 リッテンハウス氏の有罪を想定した著名人らの行為は見苦しいものだった。事実、ソーシャルメディアのプラットフォームも同氏を擁護する投稿を検閲した。
 しかし、エリートらによる政治的に偏った市民運動に対し、証拠に真摯に耳を傾け、尊敬に値する評決に達した”有名ではない”12人のウィスコンシン州民の行動は称賛すべきものだった。
 以上、WallStreetJournalからでした。


正当防衛という名の殺人

 銃社会の矛盾をさらけ出すような事件でもある。今回のカイル・リッテンハウスの件は明らかに”正当防衛による殺人”である。
 しかしメディアや著名人は、政治的に偏った市民運動に煽られ、有罪を主張していた。
 これが日本だったら、(2人を殺した)リッテンハウスは最悪、終身刑だったかもしれない。

 私は死刑制度に(基本的にだが)賛成である。故に、こうした殺人をめぐる最終判決は厳密に慎重に、かつ冷静に行われる必要がある。
 銃社会の矛盾と言ったが、もしリッテンハウスが店の前でライフルを構えてなかったら、3人の白人男に襲われ、大怪我をしてたか又は殺されてたかもしれない。
 銃がなくても人は簡単に死ぬ。それでもアメリカは(スマホを手にする様に)銃を所持(容認)する。

 私だって(”殺すぞ”と脅され)命の危機を感じたら、銃を相手に向け発砲するだろう。しかし、心臓や頭を狙うんじゃなく、脚や腕といった致命傷にならない所を撃つという冷静さを持ち合わせてるだろうか?
 若干17歳のリッテンハウスには、そんな余裕がある筈もない。結果的に青年を襲った3人の白人うち2人(うち1人は銃を所持)を(正当防衛という理由で)ライフルで殺した訳だが、殺人の動機が全くなかったと言えば、嘘になるかもしれない。
 私は銃を持った事もないし、実際に撃った事もない。勿論、人を殺した事もない。殴った事はあるが、明らかに手加減はした。
 銃には手加減がない。頭や心臓に命中すれば即死である。故に、襲ってきた相手の命だけは救おうと思えば、冷静に急所を外すしかない。しかし、こういうのは訓練しないと出来ないのは確かだろう。

 もし私がリッテンハウスだったら、物騒な広場の店の前で敢えて(父親の)ライフルを構えただろうか?17歳の自分にそんな勇気があったろうか?ライフルがあったからこそ、その勇気が生まれたのかもしれない。
 もしこれが日本だったら、”殺す”と脅された時点で警察に通報するであろうか。
 リッテンハウスに殺害の動機がなかったとしても、ライフルの引き金を引けば(或いは、引き金に指を掛ければ)、殺害の確率はずっと高くなる。殺害の意識が全くなかったとしても、ライフルを手にするだけで相手を殺す確率は高くなる。

 いつも思うのだが、アメリカっていう国は殺人を簡単に考える悪い癖がある。まるで西部劇みたいに、殺された奴らを悪者と決めつけ、殺した側を英雄視する。
 今回の件は、リッテンハウスは殺人で有罪に傾きかけたが、12人の冷静な陪審員たちの判断のお陰で無罪を勝ち取る。
 弁護側と泣きつくシーンは印象深かったが、まるで出来の悪い西部劇を見てる様な後味の悪い錯覚に陥った。
 確かに、12人の冷静な陪審員たちの判断は褒められるべきだが、リッテンハウスの行動は過激白人たちの暴動を更に煽りかねないものであり、褒められたとはいい難い。


「ロープ」(1948)

 ヒッチコック映画の「ロープ」は非常に見応えがあった。
 1924年に実際に起きた少年の誘拐殺人事件”レオポルドとローブ事件”を元にした、ワンカットのみで作られた作品である。
 2人に殺人の動機はなく、自分たちがずば抜けて秀れてる事を試す”ニーチェの理論”を(完全犯罪を通じて)実践しただけだった。たったそれだけの理由で青年を殺したのだ。
 2人はもっとスリルを味わう為に、被害者の父や恋人、被害者の叔母や大学教授らを招いてパーティを催す。死体入りのチェストの上にごちそうを並べたり、殺人に使ったロープで本を縛って父親に贈ったりと優越感を味わっていた。
 しかし最後には、”優秀な人は劣っている人に何をしてもいいんだ”と、ニーチェの超人理論を誤解して自分が優秀だと自慢するブランドンに対し、ルパートは”何の権利で自分を優秀だと言うんだ?”と怒りを露わにする。
 こうして2人の拙い(完全)犯罪は、もろくも崩れさる。

 つまり、アメリカでは人を殺すという行為はこんな風に単純に捉えられてるのである。まるで死刑執行人が殺人犯をギロチンで処刑するかのように・・・
 アメリカという国は、虫けらを殺すかの如く大量殺戮をしばし行使する。或いは、ゲーム感覚で凶悪な連続殺害を犯す。優越を味わう為に自己満足の為に人を殺す。
 そこには”ロープ事件”と同様に理由はない。まさに、”理由なき殺人”が当たり前の様に行われている。

 しかし、死刑執行が稀なケースの様に、殺人も特別なものでなければならない。日常茶飯事の様に殺人事件が起き、毎日の様に死刑執行が行われては、死刑制度の意味も大義もなくなる。
 死刑制度は(丸腰の)国民を守る為のもので、単に殺人犯を殺す手段でもない筈だ。大切な命を奪われた遺族の中には、(人道的な立場からか)死刑制度に疑問を抱く人も少なからず存在する。勿論、冤罪による無実の死刑囚も存在する。
 しかし、死刑制度に代わる有効な手段が存在しない限りは、死刑制度反対を訴えても根拠も説得力も乏しく、ただただ虚しく響くだけであろうか。

 まるで、カイル・リッテンハウスの逆転無罪判決が、虚しく我々の心を何の感心も感動もなく通過していったように・・・



4 コメント

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白人至上主義 (UNICORN)
2021-12-24 07:24:19
一時は黒人を殺害した白人至上主義者と徹底的に叩かれました。
バイデン率いる民主党もこの事件を利用して有利に大統領選を進めました。
トランプとしてはこの敵は討ちたいでしょうから、今回のリッテンハウス事件は次の大統領選では大きなカードになるかもしれない。
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UNICORNさん (象が転んだ)
2021-12-24 09:16:41
確かに、ここに来てバイデン政権は失速気味ですから、でもお互いに年齢が・・・
いっその事、南アメリカと北アメリカで分裂してくれた方がアメリカ弱体化の為には都合がいいんですが。

しかし、次の大統領選挙も昨年同様に盛り上がりに書けるでしょうね。
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ヒッチコックの名作 (HooRoo)
2021-12-25 06:52:51
リッテンハウスの無罪判決から
正当防衛の是非を経由してヒッチコック監督のロープに結びつく展開は流石よね(^^♪

そして最後には死刑制度の是非にまで強引に持っていく
まるでヒッチコック顔負けの転んだ劇場ってとこかな^_^
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Hooさん (象が転んだ)
2021-12-25 10:02:58
ずっと前に書いた記事なんですが。
丁度「ロープ」を見た時に、いいタイミングだと思って投稿しました。
流れ的には悪くはないんですが、死刑制度の是非については曖昧にしてます。
ただ、アメリカではリッテンハウス事件は結構な火種に繋がる様な気がしますね。
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