美顔ローラーの熟女と初夢〜真夜中の訪問者”その９２”

　”ただ今､電話が混み合っています”
の毎度お馴染みのメッセージには､見てて吐き気がする。　
　こんな原始的なウソをついてまで売りたいか？せめて､”オペレーターが混雑してます。サイトでのご注文をお願いします”としたらどうだ。
　ターゲットを(メールを打てない？)中高年層に絞るという貧相な戦略がよーく見て取れる。因みに､今見たら”WEBでも注文を受け付けてます”とあるから､反省はしてるようだ。

煩いだけのショップチャンネル　

　BSの深夜のショップチャンネルほど､ウンザリするものはない。
　映画を見終わった後､TVを消し忘れて寝たせいか､中年の女の甲高い声が延々と響いてくる。
　年明けて2日目というのに､もう新春セールの売り込みかって感じである。
　眠たい目をこすりながら､TVを消そうとした。しかし､そこには意外と(美熟女にも思えなくもない)大人し目の中年女が映し出されていた。
　最近のショップチャンネルは､”年増･デカ声･厚化粧･厚かましい”の4刀流のナビ女が目立つ。
　そこまでしてガラクタを売りたいか！と思う程の陳腐な美容製品を並べ立て､自分たちと同じかそれ以上の古い世代に売りつけようと必死の形相をさらけ出す。

　｢煩いだけのジャパネット｣でも書いたが､全てにおいて限度というものがある。
　ネット上のイタズラな書き込みや度が過ぎたネット販売､過度で過激な動画配信に､その質の悪さにウンザリのユーチューバー群。
　BSの大半を占めるショップ番組には､最初から食傷気味であった。
　しかし､私が目にした美顔ローラーを頬に当てる中年女は､意外と魅惑的にも思えた。
　勿論､厚化粧のオバサンである事には間違いない。が､声は小さく厚かましくもない。かと言って､(多少は控えめだが)そこそこのセックスアピールも忘れてはいない。
　私は控えめな女性が好きだ。同じオバサンでも､ガツガツしない系が好きだ。
　女性の社会進出が当り前の時代､自らの容姿や能力を派手にアピールする事は現代の生存戦略の1つではある。しかし何でもそうだが､度が過ぎると全ては無駄に帰す。

　ジャパネットを筆頭に､殆どが”ゴリ押し系”のショップチャンネルに衰洛した今､オバ様ナビゲーターもガツガツ系に成り下がる。アリゲーターという凶暴なワニが地球上には長らく生息するが､彼女たちも負けてはいない。まるで､(無知な消費者を丸ごと飲み込む)大きなワニ口をした”オバゲーター”だとしたら。

クラブのママ

　先で述べた美顔ローラーの女は､”おっとり系の美熟女？”とネット上では噂されてるようである。
　確かに､言われればそう見えなくもない。しかし夢に出てきた時の彼女は､クラブのママであった。
　勿論､夢の中でも美顔ローラーを頬に当ててた訳じゃない。
　私は不思議と､その中年女に見とれていた。
　ママにしては､(その年齢に見合った)ごく自然体で控えめだったし､客の落とすカネが全てといったガツガツ風でもなかった。

　何を話したのか､一切記憶にはない。
　しかし女は､深刻そうな表情を時折浮かべていた。相談に乗ろうかとも思ったが､ママにちょっかいを出す(ガラの悪い)常連客があまりに煩くしつこい。
　流石に気まずくなった私は､素早く会計を済まし､店を出た。
　ママは私の後をついてきた。
　女は背後から私に近づくと､半ば強引に私の腕を引っ張り､顔を近づけ唇を合わせようとする(いや､その様に思えた)。
　私は少し怖くなり､自らの湧き上がりつつある欲情を抑え込んだ。
　女は高級そうなバッグから財布を取り出すと､万札が何枚か入った封筒を手渡すではないか？
　”こんなカネをどうして？”
　”とにかく貰って”
　”でも”
　”お願い､貰って頂戴”

　女はそれからマンションらしき部屋の鍵を渡した。鍵には暗証番号が書かれていた。
　彼女は何事もなかったかの様に､くるりと背中を向け､店の中へと姿を消す。

　私は心配になった。
　封筒を開けると､私が支払った飲み代も含め､万札が5枚ほど入ってるではないか。
　”なぜこんな事を？
　それに住所が判らなければ､部屋の鍵を貰っても仕方がないじゃないか？
　こんな女と付き合ってたら､命が幾つあっても足りない”
　そう思いながら家路につこうと､タクシーを呼ぶ。
　

タクシー内での会話

　運転手は､心配そうに私を見つめている。
　”顔色が悪いんですが､何か嫌な事でもあったんですか？”
　私は一部始終を運転手に話した。
　”それはママがSOSを出してる証拠ですよ”
　”なぜそれが解るんですか？”
　”だって､鍵には部屋番号が記してあるじゃないですか”
　”ええ､これは暗証番号じゃ？”
　”お客さんもウブだね(笑)。今どきの高級マンションは､オートロックで虹彩か指紋認証です。暗証番号なんて・・・”
　”でも､何で私なんかを頼りにするんです？もっと他に頼りになる男なんて沢山いそうじゃないですか？”
　”女が選んだのは､アナタなんですよ”
　”単なる偶然かもしれない。それに一時の気まぐれかも・・・”
　”女が困ってる時に助けるのが､男というもんです”
　”でも困ってるなら､困ってると言うでしょ？”

　運転手はタバコを取り出した。
　”お客さんもウブだね(笑)。今の時代<困ってるから助けて>なんて猫なで声で語りかけ様ものなら､それこそ詐欺ですよ”
　私は改めて渡された鍵を見た。よく見るとマンションのマークらしきものが刻印されてはいる。
　”相手がヤ○ザだったらどうするんですか？詐欺よりもずっと怖い”
　”今どき､ヤ○ザをタイトロープにするクラブのママなんか､どこにもいませんよ。落ちぶれたホステスだってそんな無茶はしません”
　”でもなぜ､私なんだろ？カネも力も地位もないのに・・・そういうのは見た目ですぐに判るでしょ？”　

　運転手は優雅にタバコを蒸していた。
　”女の五感ですよ。男にはない独特の霊感です”
　”子宮が私を欲していた？と”
　運転手は大笑いした。
　”ガッハッハ・・・そいつは面白い。アンタは最高に愉快な客だ。流石に負けちゃいないね”
　”冗談言わないでくださいよ。こっちは真剣なんすから”

　タクシーは､マンションらしき所の前で停まる。
　”多分ここだと思うね。大体において飲み屋のママたちは､このマンションに住んでんだよ。間違いない”
　”なぜ判るんです？”
　”おっとり系でエロい熟女と言えば､何度か乗せた事あるから”
　私は仕方なくタクシーを降りた。
　”私に万が一の事があった時は電話しますから､番号を教えて下さい。それくらいのワガママは許してください”
　運転手は名刺を渡して､夜の街に消えていった。

　高級そうなマンションの前で私はひとり佇んでいる。
　”嫌な熟女に引っかかったもんだ。厚化粧を引っ張がしたら､ボロボロの肌をしたオバケに決まってる”
　時間を確認しようとスマホを取り出そうとした時､(運良く？)夢から覚めた。

最後に〜美顔ローラーと初夢

　初夢にしては､中途な出来だったが､今日紹介した美顔ローラーの女性は､不思議と私の印象に残ってはいた。それはおっとり系だからとか､美熟女だからというものでもない。
　勿論､私は彼女のスッピンすら知らない。しかし､ガツガツと自分とモノを売り込もうとしない(その控えめな)仕草に､微妙な何かを感じとっていた。
　ただ､その控えめさと矛盾するような厚化粧に､某らの矛盾を感じてたのも事実である。

　美顔ローラーと言えば､淡谷のり子を真っ先に思い出すが(笑)､今や熟女の必須アイテムとなりつつある。
　しかし何でもそうだが､やりすぎは(医学的に効果が認められていない)美顔ローラーも例外ではない。(やりすぎると)肌の弾力を潰し､更にメラニン色素を増やし､老化と劣化を加速させるらしい。
　今は化粧の技術が格段に進み､年をとっても若顔メイクは不可能じゃない。しかし､見た目の若さに拘る事が老化と劣化に結びつくのなら､これほどの矛盾もない。

　夢に出てきた熟女も､その典型だったように思う。
　確かに､彼女はSOSを出してたのかもしれない。しかしそれは､(美顔ローラーのやりすぎで劣化した)肌が助けを求めてたのだとしたら？
　厚化粧で有名だった八代亜紀も､今は自然なメイクで(多少は)復活した感がある。
　夜の女みたいな厚化粧はエロ爺の欲情を満たすが､今や美容の必須アイテムになりつつある美顔ローラーも(厚化粧と同じく)熟女の天敵となる。

　そういう私は､昔も今も肌の劣化や老化はそれほどは感じない。勿論､厚化粧も美顔ローラーとも無縁だが､肉と油をよく摂るからだろうか。
　深夜のショップチャンネルでは､いい歳したオバサンが(パテ埋めした様な)分厚いメイクを施し､目一杯甲高い声を張り上げ､ズケズケと物を売りつける。
　学が教養がないのか？知識や知恵がないのか？それとも､品格も品相も失ったか？
　グロテスク女に成り果てたナビゲーターに強欲が棲み付いてる間は､老化と劣化は更に加速するだけである。　

　初夢が厚化粧の熟女のSOSとは､新年早々の私も舐められたもんだ。