
先日書いた、”ニュートンの苦悩とロマン”でも少し触れたましたが。
ゴットフリート•ライプニッツ(独)とアイザック•ニュートン(英)は、実際にどちらがいち早く微積分を確立したのか?
この論争には今もって明確な決着はついておらず、ライプニッツは積分から論を構築し、ニュートンは微分から論を構築している事だけが判明してる。
しかし、微積分の教科書でニュートンの名を目にする事は殆どない。今や微積分の関数で目にする記号は、その殆どがライプニッツが記述したものである。
事実、ニュートンが確立した微積分は、結果的にはライプニッツと殆ど同じにもかかわらず、評価されたのは英国内に留まった。
一方、ライプニッツの微積分は当時から広くヨーロッパの数学者に採用され、その実績は強く支持された。
でも何故?これ程までに差が開いたのか?
ニュートンとライプニッツの研究の違い
ニュートンは、積の微分法則や高階微分の記法、テイラー級数や解析関数といった概念を数理物理学の問題を解くのに使った。
ニュートンは、微積分の解析的手法を使い、天体の軌道や運動の法則などについて「自然哲学の数学的諸原理(1687)」(写真)の中で論じた。
またそれとは別に、関数の級数展開を発展させ、テイラー級数の原理を理解していたとされる。
ニュートンはそれを出版する際、当時の数学用語に合わせ、微分計算を幾何学的主題に置き換え、非難を受けない様にした。
当時はまだ微分法は、まともな数学とは見なされていなかったからだ。
そこでライプニッツは、これらの考え方を体系化し、微分積分学を厳密な学問として確立させた。お陰で当時は、”ニュートンの盗作だ”と非難された。
ライプニッツは、連続性の概念を元に数の無限分割から微分法を独自に思いついた。極小の量を操作する規則を規定し、高次の導関数の計算を可能としたのだ。
ライプニッツより10年ほど前に、力学的な観点から微分法を発見したニュートンとは異なり、形式主義に拘ったライプニッツは、微積分の概念を記号で表す事に力点を置いた。
2人に共通する微積分に関する基本的洞察は、微分と積分の法則や高次の導関数、それに多項式級数を近似する記法である。勿論ニュートンの時代には、微積分学の基本定理は既に知られてはいた。
事実、定積分の計算は、ケプラーがワインの樽の体積測定からヒントを得て、一般図形の面積計算を理論化した事に始まる。これにより、曲線に囲まれた図形の面積は曲線が関数表示できれば、その面積を求める事が可能になったのだ。
大論争に発展した論点とは
故に、”ニュートンが微積分を発見した”とよく誤解されるが、厳密に言えば、どちらがいち早く微積分を確立し、より解り易く世に広めたのか?が肝心の大論争の論点となる。
そして、ニュートンとライプニッツがそれぞれの成果を出版した時、どちら(の国が)が賞賛に値するのか?という大きな論争が発生した。
2人の歴史をそのまま辿ると、成果を得たのはニュートンが先だが、出版はライプニッツが先だという事になる。
事実、ライプニッツは1684年に、「極大と極小に関する新しい方法」を出版し、その中で微分法を発表した。1686年には「深遠な幾何学」を出版し積分法を発表した。
一方ニュートンが、微積分法を発表するのはこれより遅れ、1687年出版の「プリンキピア」の中でであった。前述の「自然哲学の数学的諸原理」である。
当初は互いに相手の事を気にはしなかった。ニュートンは1695年になってライプニッツの業績を知り、しかも微分法はライプニッツが草案者であるとの見方がヨーロッパで定着してるのを見て、苦々しく思った。
お陰でニュートン支持者は、”ライプニッツがニュートンのアイデアを盗んだのだ”と口汚く罵り始めた。ニュートンはそれを見て見ぬ振りをした。
一方ライプニッツ側も、”ニュートンこそが盗んだんだ”とやり返した。こうして両陣営の論争は国家を揚げて泥沼化し、歴史上の論戦に発展していく。
結果論から言えば、微積分に関する考え方やツールの面で、ライプニッツの方にやや軍配が上がった形だが。
ライプニッツが先か?ニュートンが先か?
ニュートンを援護するつもりもないんですが。1696年にスイスの数学者ヨハン•ベルヌーイ(1667−1748)によって提起された”最速降下曲線”の問題ですが。
”最速降下曲線問題”とは、任意の2点間を結ぶ全ての曲線のうちで、高い方の点を出発しもう一方の点に達する所要時間が最も短い様な曲線は何か?という問題です。
その問題を受け取ったニュートンは僅か一晩で解いたとの噂ですが。勿論、ニュートンはその問題の答であるサイクロイド曲線を研究してましたから、解くのは時間の問題だったかもですが、噂の真偽は未だ明らかではない。
しかしこの噂は、ヨハンとその友人であるライプニッツを大変悔しがらせた。
そしてここにても、ニュートンとライプニッツは対立します。”オレがいち早く解いたんだ”と。全く2人とも超の付く負けず嫌いだったんですかね。
しかし、この2人の対立があったから、微積分学は大きく発展したんですが。
因みに、ベルヌーイの設定した期限内(1年間)に回答を寄せてきたのは、ライプニッツと兄のヤコブ•ベルヌーイ、ニュートン、ギヨーム•ド•ロピタルの4人だけでした。
この”最速降下曲線”問題ですが、負けず嫌いの兄ヤコブ•ベルヌーイは、更により難しい”最速降下曲線問題”を作り、それがそれがオイラーによって改良され、後に”変分法”と呼ばれるものになり、ルイ•ラグランジェにより確立された。
勿論、この変分法もライプニッツとニュートンの研究に大きな刺激を与えたのは言うまでもない。
結局、2人が競って追い求めた微分積分学は、あらゆる数学の偉人達の努力と功績と対立の歴史の積み重ねであり、誰が最初に発見したか?とか、誰がいち早く確立したか?とかは、どうでもいい事なのかもしれない。
それでもニュートンは偉大な大天才なのだ
でもあれだけ数学に貢献したニュートンの名が大学の数学の教科書に殆ど出てこないのも、これまた奇妙な話ではある。
”歴史上もっとも偉大な天才”とも言われるニュートンだが、彼が確立した微積分ではライプニッツやラグランジェやルベーグ、リーマンの名が頻繁に出てくるし、有名な万有引力の発明に関しても、ケプラーやガリレイの名がニュートンの名を覆い尽くす。
”それでもリンゴは落ちてくる”とニュートンは叫びたかったろうね。
天文学の先駆者であるチコやケプラーが火星の不規則な動きに注目した様に、ニュートンは地球の周りを回る月に注目した。
”リンゴは落ちてくるのに、何故?月は落ちて来ないのか”
チコもケプラーも同じ様な事を考えた。”月は規則的に動くのに、何故?火星は不規則な動きをするのか?”と。ニュートンよりもチコやクプラーの名が数多く登場するのはそのせいだと、私は勝手に考える。
しかし、アイザックは考えた。
”一見、月は地球に落ちてこない様に見える。しかしそうではなく、地球の周りを回る事こそが、月が地球に向かって落ち続けている証拠。その落ち続ける力こそが引力(重力)なのだ”
つまり、月は軌道上を進みながら、少し進む度にほんの僅かだけ地球に向かって落下し、それをくり返し、円軌道を描いている事に気付いた。言い換えれば、この引力と遠心力が釣り合って円運動を描いてるのだ。
因みに、ケプラーはこの引力を神の力と考えた。そしてニュートンは、この”神の力”を微積分を使って精確に計算したのだ。
万有引力の仕組みを解明したニュートンも、その”力”がどうして生じるのか?は説明できなかった。それはアインシュタインの登場を待つ必要があったのだ。
しかしアイザックが偉大なのは、この引力を”万有”と名付けた事にある。天空を含めた全てに存在する神の力。
アイザックは偉大な数学者であると同時に、崇高な詩人だったのかもしれない。
一方、ケプラーやチコと並ぶ、天文学のもう一人の雄であるガリレオは、”慣性の法則”を発見した。これこそがニュートンの万有引力の発見に大きく貢献したとされる。
”運動する物体は力が働かなければ、運動形態を変えない”というこの慣性の法則は、ニュートンが発見した運動方程式に直結し、ニュートンの万有引力を誘い出した。
故にガリレオの名が、ニュートンを覆い被さる様に登場するのも無理はない。
つまり、先人の知恵の結集の上に、ニュートンの偉大な存在がある。
それでも人類歴史上最も偉大な天才は、ニュートンでなきゃアカンのだ。
そしてアイザックの名は、永久に我々の心と頭の中で響き続けるのだろうか。
この級数の概念を使って積分を確立したニュートンはやはり只者ではない。ニュートンの二項級数に関しては証明も与えてません。しかしアーベルはこの二項級数の収束性を特筆すべきと語ってます。
万有引力も偉大ですが、二項級数の一般化の方がずっと偉大だ。
これなんか、テイラー展開をニュートンが如何に研究してたかが伺いできますね。
コメントどうも有難うです。
天文学を志す人って、天空にロマンを求めるんだよね。数学のみに純粋に打ち込んだライプニッツとは違って、解析学や物理学や天文学にと幅広く研究したニュートンは、神が産み落とした天才だ。
リンゴが木から落ちたんじゃなく、ニュートンが天から落ちてきたんだよね。
つまり、ニュートンは研究家よりも一般の大衆に好かれたんですよ。
イギリス人だからっしょ。
それに17世紀から18世紀にかけては、ドイツの数学者は少なかったから、余計にですかね。
それに当時はマルチタスク型の数学者って殆どいなかった筈ですから、余計にです。
ライプニッツは、「神が無から天地を創造したことの可能性」を論証(?)したといいます。
次のとおりです。
0+0+0+0+ ・・・ =1/2
https://blog.goo.ne.jp/iinna/e/1152ffe10ee51fdc9ddbbe5e45a11006
無限級数の公式を使うやり方ですね。
”危険な計算”とも言われ、オイラーのバーゼル問題(ζ(1)=1+2+•••=−1/12)も同じ原理ですね。他にζ(0)=1+1+•••=−1/2もありますが。
実数上では、無効とされる計算も複素数の世界では可能になると(”夏休みの宿題”参照です)。
こうした級数の(特異な)特殊値はずっと以前から調べ上げられ、オーレムの定理やマータヴァ級数やメルカトル級数があります(”リーマン2の1”も参照)。
コメント有難うございます。