赤く咲いた藤圭子はザギトワだったのか？

♪赤く咲くのは けしの花
白く咲くのは 百合の花
どう咲きゃいいのさ この私
夢は夜ひらく♪

♪十五 十六 十七と
私の人生 暗かった
過去はどんなに 暗くとも
夢は夜ひらく♪

♪昨日のマー坊 今日トミー
明日はジョージか ケン坊か
恋ははかなく 過ぎて行き
夢は夜ひらく♪

♪夜咲くネオンは 嘘の花
夜飛ぶ蝶々も 嘘の花
嘘を肴に 酒をくみゃ
夢は夜ひらく♪

♪前を見るよな がらじゃない
うしろ向くよな がらじゃない
よそみしてたら 泣きをみた
夢は夜ひらく♪

♪一から十まで バカでした
バカにゃ未練は ないけれど
忘れられない 奴ばかり
夢は夜ひらく 夢は夜ひらく♪

　”露出するスポーツの限界”ブログで､藤圭子の｢夢は夜ひらく｣の歌詞を捩って､以下の様なコメントが届いた。
　因みに､2番目と3番目は私が作りました。

♪15で早くも､金メダル
17歳で､引退と
どう先なるのか？この私
夢は夜ひらく♪

♪五輪のネオンも､嘘の華
4回転サルコも､嘘の華
どう咲きゃいいのか？この私
夢は夜ひらく♪

♪今は紀平に､コストナヤ
明日はトルソワ､シェルバコワ
栄華は儚く､過ぎるけど
夢は夜ひらく♪

♪赤く舞うのは､ザギトワで
白く舞うのは､トルソワか
メダルを肴に酒をくみゃ
夢は夜ひらく♪

♪北京を目指すな､限界よ
平昌の事は､もう過去よ
上を見てたら､泣きを見た
夢は夜ひらく♪

♪安藤美姫まで､馬鹿にした
バカは相手にしないけど
腹立つコメント､そればかり
夢は夜ひらく♪

ザギトワと藤圭子

　少し古いネタですが､ザギトワの活動停止は､大方予想はされてましたね。別に驚く事でもないかもですが､”昭和の歌姫”である藤圭子が､アッサリ引退した当時とよく似てます。
　”別に藤圭子の人生が終わる訳じゃないもん､だからあんまり気にしてないよ。だってこれからは､好きな事が出来るんだもの”
　そう元気に言い放った､まだ28歳の彼女の人生は､以降予想外の転落人生を歩む。
　度重なる離婚と薬物中毒や精神病に悩まされ､次第に自分を､いや藤圭子を失っていく。
　そして､人が藤圭子の存在を忘れかかった時､彼女は飛び降り自殺をした。享年62歳だった。”流星ひとつ”も参照(要Click)です。

　藤圭子の｢夢は夜ひらく｣は､昭和を代表するヒット曲だ。
　この｢夢は夜ひらく｣は､園まり(1966)が初めて歌いだ大ヒットし､その後カバーが幾つも出され､その中でも｢圭子の夢は夜ひらく｣(1970)は最高のヒットとなった。
　藤圭子という稀代の歌姫が登場した1969年､時代は高度成長期でしたが､70年安保闘争やベトナム反戦運動､大学紛争の時と重なります。つまり､そこには勝利や栄光よりも挫折の方が多くあった。
　藤圭子の声に潜む､宿命的な暗さに老若男女問わず､人々は取り憑かれた。
　特に､藤圭子が歌う演歌は作家の五木寛之によって”怨歌”と表現されてます。
　この瞬間､藤圭子は演歌というジャンルを超え､”昭和の歌姫”として他のライバルたちを圧倒します。
　以下､OTOKAKEさんのコラムから抜粋&編集です。
　

捨て身の歌とその情念

”赤く咲くのは けしの花”
　このフレーズは｢夢は夜ひらく｣の有名な歌い出しです。聴く者の心を一瞬にして鷲掴みしますね。”赤く咲くけしの花”をザギトワに置き換えるとピタリとハマる所が不思議です。
　どこか捨て鉢な歌詞と､藤圭子のドスの利いた声が聴く者に不穏な印象を与えます。女性としての限られた輝きを､この先どの様にして開花させていけばいいのか？。
　そんな想いを託したラインです。それでも､夢の中でなら輝けるのかもしれないと藤圭子は歌い続けます。
　元々｢夢は夜ひらく｣の原曲は､東京少年鑑別所で歌われていた”俗謡”だとか。しかし先述した､園まりによる｢夢は夜ひらく｣は､｢圭子の夢は夜ひらく｣とは全く趣が異なる。

”♪雨が降るから 逢えないの
来ないあなたは 野暮な人
濡れてみたいわ 二人なら
夢は夜ひらく♪”
　ああ､大人のラブソングって感じてすな。
　でも､人生全て汲み尽くし､暗さを嘆いてみせた藤圭子と作詞家•石坂まさをの｢圭子の夢は夜ひらく｣の方が後世まで長く深く愛されているのも肯けます。

”♪十五 十六 十七と
私の人生 暗かった
過去はどんなに 暗くとも
夢は夜ひらく♪”
　女性として非常に辛い日々を経てきたけど､夜の夢なら救われる。うーん気持ち解りますな､ブログという幻想の中では救われる。人間存在の根本原理まで迫ろうとする力がこの曲に宿ってます。
　恐ろしさまで感じさせる､石坂まさをのシリアスな作詞。その情念を淡々としっかり歌い重ねる､藤圭子のド迫力の歌声。
　藤も石坂も､他に類例を見ないような個性の持ち主でした。二人の相乗効果は凄まじいもので､大ヒットしない訳がない。

恋多き女とその喪失と

”♪昨日のマー坊 今日トミー
明日はジョージか ケン坊か
恋ははかなく 過ぎて行き
夢は夜ひらく♪”
　これは､恋多き女の心境の典型ですかね。ひとりの人と密な関係でいられる充足感の突然の喪失と､哀しい恋愛でしか男性と関係を築けない女性の寂しさが浮き彫りになってます。
　つまり､儚い夢の中でしか充足できない愛の姿。藤圭子自身も同じ様な恋愛を経験します。

”♪赤く咲くのは けしの花
白く咲くのは 百合の花
どう咲きゃいいのさ この私
夢は夜ひらく♪”
　未成年でありながら､夜の街の虚飾やアルコールの嗜みなどについて歌いきった彼女の力量と突破力と躍動。
　因みに藤圭子は､可憐な風貌でアイドルとしての資質も多分に持ち合わせた歌手でした。そのアイドル歌手がこんなラインを歌いきったのも､時代や実力など複合的な背景があったのだ。

”♪前を見るよな がらじゃない
うしろ向くよな がらじゃない
よそみしてたら 泣きをみた
夢は夜ひらく♪”
　しっかりとした人生なんて､誰もが送れる筈もない。それでも､他人の挫折を我が事の様に受け止められる社会的な下地が､この時代にはあった。
　他者の不幸に寄り添える力がある一方､愛されたのはダメダメな私の人生。そこに我が身を重ねる様な人々の支持で､大ヒットを記録。
　今の時代には､失われている感覚の様な気がして､どこか寂しい想いもする。共感する力の後退なのか？もう一度社会に呼び起こしたい力ですね。
　これもどこか”捨て鉢”的な人生観ですが､それでも”夢の中だけでなら救いはある”と繰り返し歌う藤圭子の執念です。

”♪一から十まで バカでした
バカにゃ未練は ないけれど
忘れられない 奴ばかり
夢は夜ひらく 夢は夜ひらく♪”
　荒んだ人間関係でも､忘れがたい愛すべき存在はいたのだ。この歌にも愛や希望があったのだ。どこか憎めない人々への追憶に泣かされた。
　暗い生涯でも､夢の中なら人生を救い出す事ができるのだ。僅かながらも､勇気や安らぎを得た人々に支持されたミリオンセラーである。

ミリオンセラーとその背景

　｢圭子の夢は夜ひらく｣はオリコン•シングル•チャート､10週連続1位を記録する大ヒットでミリオンセラーになる。
　70年安保闘争が敗北に終わり､全国で火がついていた学園闘争にも影が見え始めた季節の中､青春の挫折をひしひしと感じざるをえない日々に､この歌がリリースされた。
　また高度成長期とはいえ､その成長から取り残されたり､ふるい落とされたりした人々もいた。リリース直後から立ちどころに火がついたこのミリオンセラー。時代背景に実にマッチした歌でした。

　あの頃は､他者の不幸に共感できる力が､社会全体にまだ残ってた良き時代。今でも心に暗い影や傷を負った多くの人々が､この曲を愛して続けているのも当然ですね。
　挫折した経験や傷つきやすい感性を持った人々に､夢の中での救いを歌うこの曲はある種の”福音”です。つまり､藤圭子という稀代の歌い手と石坂まさをの壮絶な人生観こそが､この歌を特別なものにしている。

　そして今一度､社会に他者の挫折や不幸への共感の力と､優しい眼差しを取り戻していきたいと思わされる､ぜひ後世に遺していきたい名曲です。
　その藤圭子は､2013年8月22日に逝去しました。東京都新宿区のマンションから飛び降り自殺をして､自らこの世を去る。
　それは不幸な人生を謡う自身の歌に取り憑かれた様な最期でした。
　しかし藤圭子は､忘れがたい歌だけでなく､もっと大きな光を私たちに遺してくれました。それは､娘の宇多田ヒカルです。

　｢圭子の夢は夜ひらく｣は､その宿命的な暗さに裏打ちされた人生の不思議さと不条理を考えさせられます。

最後に

　ザギトワの活動中止のニュースを聞いた時､”ヤッパリか”という感覚と同時に､”藤圭子の事”を思い出しました。
　彼女はスパッと歌手人生にケジメをつけ､新たな第二の人生を歩むかに思われました。しかし､彼女に第二の人生は用意されてはいませんでした。
　藤圭子にとって､歌手人生こそが全てだったのです。

　勿論､ザギトワが投身自殺する筈もないですが､彼女は藤圭子の事は知る筈もないでしょうが､不思議と同じ様な運命を歩んでる様に思えてならない。そう思うのは私だけか？