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■「日本人と英語」を考えてゆくブログ

英語村について

2007年09月03日 | 記事


 拙ブログでは以前「英語熱の行方」(2007年02月18日)において「英語教育のために移民したい」という韓国国民の英語熱、その結果生まれる「雁のパパ」の問題を紹介した。同記事では「舌を切る子供たち」という問題も取り上げたが、この話はどこまで本当かどうかは分からない。
 話は変わるが、私は以前『暗号読解』(サイモン=シン、新潮文庫、2007)を読んだ。軍事目的のために暗号が必要となったこと、そこで繰り広げられた暗号作成者と暗号解読者のいたちごっこの様子が興味を引くかたちで書かれていた。史上最強の暗号として外国語の存在が書かれていたことは非常に興味深かったが、ここでは取り上げるまい。ここでは次のことばを紹介したい。それは埋蔵された2000万ドル相当の宝のありかを示す謎の暗号文の解読に一生をささげた者からの話を伝えた名の知れぬ“筆者”※1からのことばである。

 三つの文章を公開するに先立ち、興味をもたれるかもしれない人たちに、苦い経験から得られた教訓を一つだけ与えておこう。暗号解読をやるのは生業(なりわい)の余暇だけにしておくこと。余暇がなければ、この件にはかかわなぬことだ。……繰り返すが、夢かもしれないことのために自分と家族を犠牲にしてはならない―この私がいい見本だ。しかし、一日の仕事が終わり、暖炉の前でくつろぐわずかな時間を捧げるのであれば誰にも迷惑をかけはしないし、それが報われることもあるかもしれない。
[ p.189 ]


 この忠告は英語学習にも当てはめることができるのではないだろうか。英語の宝箱を開けてみたところで本当に宝が入っている保障はどこにもないのだから。
 そのようなことが頭にあるかどうかは分からないが、韓国人の英語に対する態度は明るい。英語村と称される仮想村を韓国国内に作ってそこに韓国人を放り込む。その姿を直接的に見たことはないが、能天気だなという印象を持つ。これが「暖炉の前でくつろぐわずかな時間」を捧げているのであればまだしも、伝え聞くところによると本気(マジ)らしい。ここで「英語村」についてその成立をまとめておこう。
 ウィキペディア※2によると最初に英語村(English village)が登場したのはスペインはソリアにあるValdelavilla(読みが分からないのでアルファベットで書く)という村らしい。2001年7月のことだ。スペインでは標準スペイン語(Castilian)が全域にわたる公用語となっているが、ウィキペディア※3によればこの地方では英語も公用語らしい。ちなみにスペインの憲法では第3条で次のように定められている※4
 
第3条
1.カスティージャ語は、スペイン国の公用語である。すべてのスペイン人は、これを解する義務を負い、かつこれを使用する権利を有する。
2.スペインの他の言語もまた、各自治州において、その自治憲章に基づき、これを公用語とする。
3.スペインの言語の豊かな多様性は、文化遺産であり、特別の尊重及び保護の対象とされる。

 
 英語が公用語になっているということは第3条2項にその根拠を置くのだろう。その設置目的などは知りたいところであるがスペインの英語村についてはこのくらいにしておこう。
 さて、本題の韓国の英語村。韓国で最初に英語村が開かれたのは2004年8月のこと※5。京畿(キョンギ)道にある安山(アンサン)市においてであった。その後、いくつの英語村が韓国に建設されたのかは調査不足で分からないが(2006年11月時点では全国に10箇所)、この英語村の発想は韓国政府が主導的に実行に移しているという点ではまさに韓国国民一丸となった取り組みなのである。朝鮮日報の社説(2007年8月17日)によれば韓国政府は、済州島で建設が予定されている426万平方メートルの「英語専用タウン」に、英語による教育を行う小中高校を12校設立する方針を決めたという。英語村の様子についてみていこう。「第25回:韓国の英語教育事情」によると、英語村はキャンプと称した合宿形式で、1週間コースや週末コース、4週間コースなどが用意されており、その間に日常生活に必要な英語を実践で学ぶのだという。日帰りコースもあるようだ。村民希望者はそれぞれのコースを事前に選択しておくのだろう。以前に放送された「小学校に英語がやってくる?」ではその入場料は子どもが100円、大人が200円ということだった。経済的に塾に行けない子どもたちも利用できるように考えられているのだという。村民希望者たちは到着後、入国管理局へ行くことになるがその対応は英語で行わなければならない。パスポートを示しながら、入国管理間から一対一の口頭審査が行われる。これをパスすれば審査官から英語村内だけで通用するお金30ドルを受け取る。その先に待っているのは英語村。広さは東京ドーム6個分。レストランやショップはもちろんのこと路面電車まで用意しているところもあるという。飲食など必要なものに受け取ったお金を使うことになるが、使い切っても心配は無用だ。村内にある工場で働けばバイト代がもらえる仕組みになっている。野外・屋内劇場では楽しい劇やショーが繰り広げられている。子どもたちの顔には笑顔があふれるわけだが、彼らはおそらくそこを新世界だと思うことだろう。
 英語村という発想。それは教室で学ぶ座学としての英語ではなくスポーツ感覚的な英語である。英語をどのように学ぶのか―それは大きく分けると次の2つに分けられる。
  • 英語の型である英文法を徹底的に勉強し、辞書を引きながらていねいに英語を学ぶべきである
  • 英語のシャワーを浴びながらコミュニケーションを通じて楽しく自然に学ぶべきである
     前者の態度は『英文法の論理』(斉藤兆史、NHKブックス)で英語学習の王道として勧められているものであり、後者の態度は同書が批判をしている態度である。みなさんは経験上どのようにお考えになるだろうか。
     韓国の英語村は政府が率先して勧めているため、おそらくは税金が入っているのだろう。それは国家戦略として英語教育を進めているという言い方もできるし、子どもたちに英語遊びをさせるために税金を無駄使いしているということもできる。日本では英語村の話を聞くことは「まだ」ないが、仮に出来るとしても政府が税金を使って建設するということは起こらないと私は妄信的に思っている。ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンのような一つのテーマパークとして民間が建設する分にはよいが、税金を使って国が施設を作るとなれば話は別である。昨今は政治と金の問題が世間を賑わせており、グリーンピアのような問題もある。レジャー施設として“筆者”が言うように「暖炉の前でくつろぐわずかな時間」を捧げるための場所であるならば私が口を出す範疇にはない。

    英語村 (えいごむら)
    -国際関係 -2006年8月7日

    韓国の地方自治体が最近相次いで開設している、海外に行かなくても留学体験ができる施設。韓国では2004年度だけで1万6000人以上の小中高生が、アメリカ、カナダ、ニュージーランドなど英語圏の国々に留学しており、これに大学生を加えると10万人以上の留学生を送り出している計算になるという。また地方都市では、子供が小学生になると英語教育を求めて家族でソウルへと移住してしまう傾向が強くなっている。そこで英語しか使えない施設をつくることによって、人口流出に歯止めをかけようとしているのである。韓国国内で海外生活ができる仕組みとなっていて、英語だけでなく生活や遊びなどを中心に英語圏の文化を自然に体験できる施設が多い。商店街、ホテル、郵便局、病院、銀行、警察などもあり、内装も全て欧米風である。この施設で使用できるのは英語だけで、韓国語は絶対に使ってはならない。06年春にはソウル近郊に27万平方メートル(東京ドームの約6個分)の巨大施設が誕生し、話題を集めている。
    [ 新語探検 著者:亀井肇 / 提供:JapanKnowledge ]


    ---------------〔注〕---------------
    ※1 “筆者”とは本書の著者であるサイモン=シンのことではなく人生をこの暗号(ビール暗号)解読に捧げたモリスという人物から事情を聞き1885年に小冊子においてそのことを書き記した名の知れぬ人物のことである。
    ※2 English villageこちらを参照しても良い。
    ※3 Valdelavilla
    ※4 スペインの公式ホームページ(英語編)を参照。訳はこちらを参照。
    ※5 ウィキペディア〔English Village in Korea〕〔English Village〕を参照。

    ---------------〔英語村に関する朝鮮日報の記事〕---------------
  • 「国内で海外留学」 慶北・浦項に英語村誕生(2005/09/26)
  • 済州道オリジナルの「英語村」造成へ(2006/04/07)
  • 城南英語村、29日オープン(2005/12/30)
  • 安山英語村の広報大使に「爬虫類少女」キム・ディエナーさん( 2004/08/20)
  • 京畿道・安山の「英語村」、23日オープン(2004/08/20)
  • 「自分のタイプ把握して英語学習を」 駐韓米大使夫人パティ・ヒルさん(2005/01/20)

    ---------------〔参考〕---------------
  • 韓国「英語村」 “Edutain(楽しい英語教育)”(2007/01/26)
  • 英語村の様子が写真で見られるホームページ

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