文法を覚えることより“聞いて⇒まねる”が僕の語学のツボです |
このように主張されるのは矢部太郎氏です。ナインティーナインの矢部浩之さんではなくて、「カラテカ」というお笑いグループの人です。彼は『電波少年』という日本テレビ系列のバラエティー番組の中でスワヒリ語や韓国語など4ヶ国語をやらされたのだそうです。電波少年という番組は私は「猿岩石」以来あまり見る機会は減りましたが、たしかロバみたいなのを連れて外国を旅していたのをちょろっと見たような記憶もあります。
矢部太郎さんはある日、アイマスクをかけられ、ヘッドフォンをつけられて、殺風景なマンションの一室につれてこられたといいます。番組自体見ていないので本を頼りに書きますが、電波少年は彼に語学の課題を与えました。
スワヒリ語を勉強してアフリカ人を笑わせる |
それ以来、これが矢部さんの第一の目標となったのだそうです。「ボクはこれまでどの外国語もちゃんとマスターした経験はありませんでした」と述べているように、矢部さんは一通りの受験勉強以外はそれほど語学に打ち込んだという経験もなかったようです。
番組で与えられた語学という課題。電波少年という番組は普通の番組と違っていろいろと無理難題をだしますが、矢部さんには「一日三回行われる会話テストにクリアしないとご飯が食べられない」という条件を課したそうです。
スワヒリ語に続き、モンゴル語、韓国語、コイサンマン語、アラビア語とつぎつぎといろんな言葉を矢部さんは学んでいきました。コイサンマン語というのはあまり聞きなれませんが、アフリカにあるコイサンマン村の言葉だといいます。いろいろな言葉をやったという矢部さんがまず抱いた印象は「今までの勉強法は役立ちませんでした」というものだったといいます。
まずやりだまにあがるのが、"This is a pen."という文。いつ使うんだー?というわけです。
その次に"There is a book."だから何なんだー?というわけです。
矢部さんの意見も一理あるとは思いますが、私はこの点は学校教育という性質上致し方ないところがあるのではないかと思います。学校は不特定多数の子供が一緒に学ぶ場で、全員に意味のある文というのを毎回毎回提示するのはなかなか難しい。それに言語学習の基本を文法学習だとすれば、文法の魅力は応用にあります。This is a book.やThere is a book.という表現を直接使わないとしても、This is ....やThere is ....という文はしばしば使われます。
少し本書を読む際に注意をしていただきたいのは、「文法」に対する態度です。本書では「文法も捨ててしまえ」という表現に見られるように、文法を軽視しているようにも思えますが、次のようにも矢部さんは述べています。
矢部 「それで入江君の場合は、はじめに何を覚えていったんだっけ?」 入江 「あいさつと自己紹介の言い方、それから『ごめんなさい』。ホント、なぜかよく怒られたから。あとは『私はお腹がすいています』。これぐらいかな」 矢部「そういう言葉は会話として使う場面が多いから当然使うことも多かったと思うけど、なんか単語ばっかり覚えてたよね。文法も覚えなきゃダメだよ、しゃべれないよって何回も言ってたのに」 入江 「いや、文法って好きじゃなかったし……」 矢部 「好き嫌いじゃなくて1! |
入江さんというのは矢部さんの相方ですが、矢部さんは文法自体は否定はしていないわけです。それはそうです、文法を否定して「4ヶ国語をマスターした」なんていう副題のついた本を出版したらそれは詐欺になりかねません。その点、本書を買った私は少なくとも詐欺にあってはいないということですから一安心です。
文法学習は大きく分けると直接的に学ぶ方法と間接的に学ぶ方法とに分かれます。直接的というのは指導者による文法の直接的な説明や文法書による勉強を意味します。一方、間接的なものは文法規則を直接教わるのではなく、いろいろな文章を自らが類推して文法を見つけるというやり方です。矢部さんの学習スタイルは「文法なんてあとからついてきます」と述べていることからも分かるように、後者のスタイルであるといえます。
「単語の丸暗記は良くないです」とか「興味のあることからはじめましょう」というあたりを見ると矢部さんの学習方法はそんなに間違ったものではないといえます。少なくとも「丸暗記」を勧めていないというところは見習うべきです。丸暗記…それは単語であれ文章であれよくないと私は思います。単語はその語が用いられる状況や前後の関係とともに覚える、つまりその使い方を覚えるべきで、文章は自分でつくればいいわけです。
矢部さんの次の言葉は特に傾聴に値します。
その言葉が自分にとってどうしても必要なんだという状況を作り出せることを祈っています。 |
その言葉ができるようになっていったい自分は何がしたいのか、なぜその言葉が必要なのか。この視点はとても大切だと私も思います。
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