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■「日本人と英語」を考えてゆくブログ

新学習指導要領案の発表【1】|小学校を見る

2008年02月17日 | 記事
 今月の15日、文部科学省が学習指導要領改定案を発表しました。ゆとりだ何だと批判のあった現行の学習指導要領が脱ゆとり路線に転換したとの論評があります(中国新聞、2008年2月16日)。しかし、事実上の転換ではあってもそういった言葉を使いたがらない性が行政にはありますから、文部科学省としてはこれまでの基本路線である「生きる力の育成」が揺るいだわけではないというわけです。次の図表は現行の学習指導要領と今回の案を時間数で比較しているものです(©中国新聞)。



 「主要教科で一割」という文言が新聞の見出しを飾っていることからもわかるとおり、主要教科の授業時間数が相対的に増加しています。特徴としては小学校に「外国語活動(仮称)」が明記されたことでしょうか。小学校に英語を入れようという動きに関しては私も興味を持って観察してきたわけですが、入れる理由についての文部科学省の説明は大変ユーモアに富んでいるものです。文部科学省のホームページ「新しい学習指導指導要領:「答申」Q&A」には次のようにあります。

小学校高学年段階において外国語活動を必修化するのはなぜですか。

現在、多くの小学校において、総合的な学習の時間等を活用して外国語活動が行われていますが、取組内容にはばらつきがあります。このため、教育の機会均等や中学校との接続の観点から、小学校高学年で、「外国語活動」を週1コマ程度行うこととしています。


 取組内容にばらつきがあるから週に1時間の外国語(英語)を必修にしましょうというわけです。しかし少し立ち止まって考えてみると少々おかしなことが起きていることに気づくはずです。
 現在、多くの小学校で「英語活動」を行っているという事実については多くの方が承知していると思います。これは1998年に改訂され、2002年度に施行された現行の学習指導要領において「総合的な学習の時間」が新設され、その中で「国際理解」を扱ってもよいことになったためです。以下の文言がそれです。

各学校においては,1及び2に示す趣旨及びねらいを踏まえ,総合的な学習の時間の目標及び内容を定め,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,児童の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。
(下線はブログ作成者)

 国際理解に関する学習の一環として、外国語会話等(英語活動)を行ってもよいことになったわけですが、「総合的な学習の時間」において扱ってもよい内容は「国際理解」だけではないわけです。情報,環境,福祉・健康などのテーマの中から各学校において総合的な学習の時間の目標及び内容を定めるわけです。ということは「英語活動」だけをやるのではないということです。「国際理解」を扱ったとしてもそれが「英語活動」とイコールでもないのですから、それらを考え合わせると取組内容にはばらつきがあるというのは当然の話しなわけです。総合的な学習の時間には「学校の実態に応じた学習活動を行う」のです。とすると、「外国語活動を必修化するのはなぜですか」に対する先ほどの文部科学省の答えはチンプンカンプンに思えてきます。当初から取り組み内容にばらつきがあることを当然としながらはじめたものを、そのばらつきを改善しなければならないのだから小学校に英語を必修として入れるのですよという論理は果たしていかがなものなのでしょうか。これを文部科学省の自作自演と呼ばずして何をそのように呼べばよいのでしょうか。
 文部科学省が小学校英語に対してこの程度の理由づけしかできないのであればそれは政策と呼べる代物ではありません。政策には理念があるはずですが、自作自演の理由を堂々と何の疑いもなしに述べている姿からは理念の理の字もうかがうことはできません。「小学校高学年段階において外国語活動を必修化するのはなぜですか」という質問の中には「なぜ高学年段階なのか」というものも同時に含まれていますがこれに対する答えもありません。
 今回の指導要領案で示された小学校における外国語活動の目標は以下の通りです。

第1 目標
外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う。


 高校では「コミュニケーション能力」、中学校では「コミュニケーション能力の基礎」、そして小学校では「コミュニケーション能力の素地」ですか。どういう英訳がなされるのか興味があります。
 小学校英語の目的ははっきりはしていませんが、「教育基本法の改正に対応した学習指導要領案の主な改訂点」においては「伝統と文化の尊重、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し、他国を尊重、国際社会の平和と発展に寄与」の項目に書かれています。
 また「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」(答申)においては「小学校段階における外国語活動」について次のようにあります。

(6) 小学校段階における外国語活動
○ 社会や経済のグローバル化が急速に進展し、異なる文化の共存や持続可能な発展に向けて国際協力が求められるとともに、人材育成面での国際競争も加速していることから、学校教育において外国語教育を充実することが重要な課題の一つとなっている。
 国際的には、国家戦略として小学校段階における英語教育を実施する国が急速に増加している。例えば、アジアの非英語圏を見ると、1996年にタイ、97年には韓国、2005年には中国が必修化を行っている。また、フランスにおいては2007年から必修化されている。
○ 我が国においては、外国語教育は中学校から始まることとされており、現在、中学校においてあいさつ、自己紹介などの初歩的な外国語に初めて接することとなる。しかし、こうした活動はむしろ小学校段階での活動になじむものと考えられる。また、中学校外国語科では、指導において聞くこと及び話すことの言語活動に重点を置くこととされているが、同時に、読むこと及び書くことも取り扱うことから、中学校に入学した段階で4技能を一度に取り扱う点に指導上の難しさがあるとの指摘もある。
 こうした課題等を踏まえれば、小学校段階で外国語に触れたり、体験したりする機会を提供することにより、中・高等学校においてコミュニケーション能力を育成するための素地をつくることが重要と考えられる。
○ 一方、外国語のいわゆるスキルの習得に関しては、例えば、聞くことなどの音声面でのスキルの高まりはある程度期待できるが、実生活で使用する必要性が乏しい中で多くの表現を覚えたり、細かい文構造に関する抽象的な概念について理解したりすることを通じて学習への興味・関心を持続することは、小学生にとっては難しいことから、むしろ、ALT*1の活用等を通して積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成等を基本とすべきとの指摘がある。
○ このため、小学校段階では、小学生のもつ柔軟な適応力を生かして、言葉への自覚を促し、幅広い言語に関する能力や国際感覚の基盤を培うため、中学校段階の文法等の英語教育を前倒しするのではなく、国語や我が国の文化を含めた言語や文化に対する理解を深めるとともに、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図ることを目標として、外国語活動を行うことが適当と考えられる*2
 また、アジア圏においても国際的な共通語としては英語が使われていることなど、国際的な汎用性の高さを踏まえれば、中学校における外国語は英語を履修することが原則とされているのと同様、小学校における外国語活動においても、英語活動を原則とすることが適当と考えられる。なお、小学校段階においては、幅広い言語に触れることが国際感覚の基盤を培うことに資するものと考えられることから、英語を原則としつつも、他の言語にも触れるように配慮することが望ましい。
○ このような外国語活動を行うに当たっては、身近な場面やそれに適した言語や文化に関するテーマを設定し、ALTの活用等を通して、英語でのコミュニケーションを体験させるとともに、場面やテーマに応じた基本的な単語や表現を用いて、音声面を中心とした活動を行い、言語や文化について理解させることを基本とすることが適当である。
 なお、日本語とは異なる英語の音声や基本的な表現に慣れ親しませることは、言葉の大切さや豊かさ等に気付かせたり、言語に対する関心を高め、これを尊重する態度を身に付けさせることにつながるものであり、国語に関する能力の向上にも資するものと考えられる。
○ 小学校段階における英語活動については、現在でも多くの小学校で総合的な学習の時間等において取り組まれているが、各学校における取組には相当のばらつきがある。このため、外国語活動を義務教育として小学校で行う場合には、教育の機会均等の確保や中学校との円滑な接続等の観点から、国として各学校において共通に指導する内容を示すことが必要である。
 この場合、目標や内容を各学校で定める総合的な学習の時間とは趣旨・性格が異なることとなる。また、小学校における外国語活動の目標や内容を踏まえれば一定のまとまりをもって活動を行うことが適当であるが、教科のような数値による評価にはなじまないものと考えられる。これらのことから、総合的な学習の時間とは別に高学年において一定の授業時数(年間35単位時間、週1コマ相当)*3 を確保する一方、教科とは位置付けないことが適当と考えられる。
○ 指導者に関しては、当面は各学校における現在の取組と同様、学級担任(学校の実情によっては担当教員)を中心に、ALTや英語が堪能な地域人材等とのティーム・ティーチングを基本とすべきと考えられる。これを踏まえ、国においては、今後、教員研修や指導者の確保に関して一層の充実を図ることが必要である。
 また、外国語活動の質的水準を確保するためには、まず第一に、国として共通教材を提供することが必要と考えられる。さらに、音声面の指導におけるCDやDVD、電子教具等の活用、へき地や離島等の遠隔教育及び国際交流におけるテレビ会議システムの利用など、ICTの活用による指導の充実を図ることも重要と考えられる。
○ 小学校段階における外国語活動の導入に当たっては、小学校と中学校とが緊密に連携を図ることが重要である。例えば、中学校においては、小学校における外国語活動の内容や指導の実態等を十分に踏まえた上で、中学校における外国語教育への円滑な移行と、指導内容の一層の充実・改善を図ることが求められる。
 さらに、中学校の学習指導要領の改訂を行うに当たり、小学校における外国語活動を通じて培われた一定の素地を踏まえて、中学校における外国語教育では、「聞く」「話す」「読む」「書く」という4技能のバランスのとれた育成がなされるよう見直しを図る必要がある。


*1 Assistant Language Teacherの略。外国語指導助手。教師と協力してティーム・ティーチング(協同授業)等を行う外国人のこと。
平成18年度、JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)によるALTは5,057人(うち、小学校専属ALTは137人)、各地方公共団体が主として小学校に配置するために独自に採用・雇用したALTは2,796人。
*2 小学校段階における外国語教育は、その目的と全教育課程に占める授業時数の割合により、
① Immersion(イマージョン)…実用的な外国語の習得が目的。週当たりの授業時数の概ね50 %以上で外国語を使う教育。
② FLES(Foreign Language in the Elementary School、フレス)…スキル学習を直接的な目標とする。教科としての外国語教育。
③ FLEX(Foreign Language Experience/Exploration、フレックス)…外国語体験活動。目的は広い意味での外国語学習の導入であって、何のために外国語を学ぶのかという動機付け、母語とは違う言葉でコミュニケーションをする重要性、母語に対する認識を深めるということが目的。週当たりの授業時数の概ね1%から5%の時間を占める。
の三つのタイプに分類することができるとされている。この分類によれば、我が国の小学校における外国語活動は③のFLEX に該当することとなる。
*3 この授業時数は、前頁の脚注の分類上、我が国の外国語活動が該当する③のFLEXにおける一般的な授業時数とも整合的である。


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