教科書採択を考える会ブログ

愛媛県松山市内の中学の歴史教科書が「育鵬社」版に変わるのを機に発足した会です。教科書比較の学習会も行っています。

第40回学習会「豊臣秀吉」

2019-05-09 14:07:13 | 学習会
2015年の12月からはじまった、月に一度の学習会も今回で40回を迎えました。

4月23日(火)の学習会の参加者は15名。

範囲は、「豊臣秀吉」について、チューターは元社会科教員のMさんでした。


教科書の範囲でいうと、
⚪︎育鵬社pp.109〜113




⚪︎学び舎pp.100〜105




(東京書籍ではpp.106〜111になります)





Mさん作成の資料がこちら。



チューターMさんの発表の後、それぞれの教科書を見返してみると、
やっぱり育鵬社と東京書籍は構成・資料が酷似し、学び舎は独自感が溢れている印象でした。

記述も似ている東京書籍と育鵬社ですが、東京書籍は説明文的なのに対し、育鵬社は何か意図があるのかな?と思わせる文章なのが、読み比べるとよくわかります。

たとえば、太閤検地と刀狩りで社会がどのように変化したかを説明する記述を比較すると…



「これらの政策によって、…身分が明確になりました。(略)…身分に応じた職業によって生活するという近世の社会の仕組みが固まり、社会は安定し」たとする東京書籍(p.108〜109)


育鵬社は、「安定した近世社会のしくみが整い、江戸時代へと受けつがれていきました。」と、社会の安定を結果的にとらえず、身分制が安定を運んだという印象を持ちそうな文章に(育鵬社 p.110)。

ちょっとした違いですが、こういった含みがあるような記述がすごく多いのが育鵬社の特徴です。


対して、学び舎。



刀狩りでは、刀をもつことが許された例外や資料から、政策の中で秀吉が意図したことや当時の慣習について知ることができるつくりになっており、参加者一同「へぇー」と新しい目で見ることができました(p.102〜103)



秀吉の政策の中でも押さえておかないといけないのが、朝鮮半島への侵略戦争についてです。

ここでも育鵬社だけ「朝鮮出兵」とし、「服属」や「出兵」などの表現で侵略性を薄める記述がされています(育鵬社 p.111)。


構成が似ている東京書籍ですが、ここでははっきりと「朝鮮侵略」と書かれています(東京書籍 p.109)

学び舎では、「戦争に医師として従軍した」僧の手記から朝鮮人への残虐な行為を伝えていたり、朝鮮の人々の抵抗についても記述があり、
韓国からみた秀吉像はひどい侵略者である、というのがよく分かる内容です。
(p.104〜105)



第39回学習会「鉄砲伝来と織田信長」

2019-04-02 16:15:05 | 学習会
第39回の月いち学習会は、3月26日(火)に行いました。

参加者は春休みの影響もあってか13名と少なめでした。

今回の範囲は、「鉄砲伝来と織田信長」。チューターはYさん。

育鵬社は、pp.106〜108。



学び舎は、pp.96〜99。



(東京書籍はpp.104〜106が呼応する範囲でした)




Yさんの作成資料はこちら。
「鉄砲伝来で何が変わったか?歴史的な意味は?」をポイントにした説明からはじまり、新しい物好きであったという織田信長がのし上がったきっかけにもなったという流れがわかりやすかったです。





意見交流では、「鉄砲」と「火縄銃」の違いはなんだろう?からはじまり、ここでも育鵬社の特徴が「歴史を学ぶ子どもたちにはわかりにくいのではないか?」と指摘されました。


「鉄砲伝来」について。
育鵬社・東京書籍では「鉄砲」と記述(育鵬社p.106)(東京書籍p.104)されており、学び舎のみ「火縄銃」(学び舎p.96)と書かれています。

調べてみると、鉄砲の中でも初期の簡易なものを火縄銃と区分しているようです(Wikipediaより)。


記述の中でも、育鵬社の記述では、
「日本の優秀な刀鍛冶の手によって複製がつくられ、またたく間に全国に広がった(育鵬社p.106より要約)」
と兵器としての普及のみありますが、

学び舎には
「火縄銃は、はじめは猟の道具として使われるようになりました。さらに、兵器としても使用されるようになるて、急速に広まりました。

火縄銃をあつかうには、特別な訓練が必要でした。火薬の調合も、天候によって変えなければなりませんでした。(学び舎p.96)」
と、経緯と使われ方まで細かく載っています。



「キリスト教布教」について。
育鵬社の記述(p.106〜107)では、なぜキリスト教が広まったのかわかりにくいのではないか?との指摘がありました。



構成が似ている東京書籍では、こんな記述・資料になっていました(東京書籍 p.105)

慈善活動を通じて民衆に寄り添った布教活動のため信者が増えたことが記述から、信者の増え方も長い年月をかけて増えていったことが資料からわかります。

育鵬社の記述ではピンとこなかったところが納得いった感じです。

学び舎では、キリスト教の布教は南蛮貿易と関連づけて書かれていました(学び舎 p.97)


また、育鵬社教科書では、日本を「わが国」と記述し、外国が日本を礼讃する内容の資料をやたらと多く扱っているとして有名なのですが、今回の範囲でも日本を褒め称える内容の資料紹介がありました。(育鵬社 p.107)



最後に、参加者からあったこんな指摘をご紹介します。
「育鵬社の織田信長の記述(育鵬社p.108)は、戦い方(他の戦国大名を負かせた内容)中心だが、

学び舎での織田信長(p.98〜99)は、産業・文化中心の記述で人柄がわかるような資料も付いている。



私は、人の負かせ方・のし上がり方だけ優れていると紹介する教科書は子どもたちに手渡すものとして不向きだと思う。」



第26回学習会報告「3 文明のおこりと中国の古代文明」

2018-03-13 16:10:26 | 学習会

更新遅くなりました💦

第26回学習会は、2月27日(火)13時から15時 於 教育会館1階会議室 23名の参加で行われました。
チューターはAさん。

今回の範囲は、「古代文明」でした。

教科書をみてみましょう。

「育鵬社」は「③文明のおこりと中国の古代文明(p.26-27)」。

2ページとコンパクトですが、縄文時代(6ページ)の後という構成で、「子どもたちが混乱するのでは?」との意見が多数出ました。


「学び舎」は「(3)ピラミッドのなぞ-エジプトの文明-(p.16-17)」「(4)ブッダになった王子-インドの文明-(p.18-19)」「(5)地下から出てきた大軍団-中国の文明-(p.20-21)」「(6)円形競技場の熱狂-ローマの文明-(p.22-23)」。見開き8ページありました。







「東京書籍」は「2 古代文明のおこりと発展(p.24-25)」「3 中国文明の発展(p.26-27)」「4 ギリシャ・ローマの文明(p.28-29)」「5 宗教のおこりと三大宗教(p.30-31)」。こちらも8ページあります。






配布資料はこちら。



チューターのAさんは、主に「文明とか何か?」について説明をしてくれました
(文明について説明の記述があるのは「東京書籍」「育鵬社」)。
「育鵬社」(p.26)


「東京書籍」(p.24-25)



その上で富の偏在が起こった理由を考えることが大事だと提起し、実際の記述について問題があると思う点を挙げました。

【育鵬社】
○p.26 L6

・ここに新石器時代の説明をもってくるのは適切か?
(東京書籍は、前回学習範囲に新石器時代の記述あり。学び舎には新石器時代の記述なし。)



○p.26 L14(赤ライン箇所)
・国粋主義が出ていると感じる
・もともとは「富を持った者」

○p.26 L17(青ライン箇所)
・軍隊の説明が間違っている
・軍隊は侵略のために使われる

○p.26 L18(緑ライン箇所)
・説明がおかしい


○p.27 L18(黄ライン箇所)
・鉄器が使用されたのは農耕にも使われ、こちらの方が軍備よりも優先されたのではないか?

○p.27 右下のコラムより
・紀元前8世紀ごろにエジプト文明は衰退していないので、この記述はおかしい。


【参加者からの意見】

●育鵬社はエジプト文明の記述内容が少なすぎる。逆にp.26をほぼ全部使って、「文明のおこり」を書いている意図は何だろうと思う。


●育鵬社p.26 L13の「国家」について。
国家という言葉を使うと、子どもたちは近代と同じものとして受け取るのではないか?
「軍隊」「法律」「裁判」という言葉も同様。

言葉を変装している印象を受ける。
子どもたちはこんがらがるのではないか?

近現代における言葉の意味を理解できなくなる。
人類の長いあゆみを否定する印象を受けるのでは?と危機感がある。


●育鵬社はあっという間に国や支配者が出来上がってくるイメージ。
それに対して学び舎は、ゆっくりと順を追って説明していると感じる。


●p.26の記述の入り方がイヤ。
歴史を「わが国」から見るというのが…。


●教科書に書いてあることと、子どもたちがわかるかどうかは違う。
「学び舎」にはメソポタミア文明の記述がないが、「育鵬社」「東京書籍」とも記述内容が子どもたちにわかるような具体的なものでないことをみると必要ないのかもしれないと感じた。

国のなりたちをそれぞれ知ることが大事だと思う。


●学び舎p.17の欄外資料、現代のエジプト博物館館長の言説が正しいと思われる。
奴隷にもやさしい社会だったという説もある。



●学び舎p.18 L8からの記述について。カースト制は現在も影響が大きいものなので、もう少し記述があってもよいと感じた。



●学び舎p.19 L5の「考える」という記述は正しいか?「瞑想」と覚えているが違うか?



●ブッダも人として悩んで苦労したことを扱っている学び舎はいいと思う。
子どもたちの生き方模索に役立ってくれることを期待したい。


●学び舎p.21の『論語』のコラムは、生き方の入り口になるものが載っていて良いと思う。





第25回学習会「1 日本列島ができたころの人々(p.18-19)」

2018-02-08 14:00:56 | 学習会


報告お待たせしました❗️
こっそり更新ですみません💦

第25回学習会は、2018年1月9日(火)13時から15時。
場所は、教育会館1階 会議室にて23名の参加でした。

今回の学習会は、年初めに相応しく(?)教科書の初めからの範囲となりました。


○育鵬社 巻頭資料6ページ・pp.2〜19(目次3ページ含む)

























○東京書籍 巻頭資料3ページ・pp.1〜23(目次3ページ含む)






















○学び舎 目次2ページ・巻頭資料4ページ・p.10〜11






















配布資料はこちら。



本来ならば「人類の出現と石器時代」についてのみの比較だったのですが、
この単元ではそこまで記述に差異がない(「猿人から現生人類(ホモ・サピエンス)」と「猿人から原人・新人」の表現の違いは気になるという意見はありました)ので、
巻頭資料・目次も比較することになりました。


●目次にて、
育鵬社が時代ごとに「海洋国家・日本のあゆみ」の項目を立てていることに注目。
なぜ、このような項目を立てたのか?について意見交流が活発になりました。

●資料について、
「学び舎」が特に事実・資料に重きを置いているという意見が出ました。
「育鵬社」「東京書籍」は俯瞰的な視点で歴史を見ているが、「学び舎」は事実を等身大の視点で紹介しているという意見も。

●はじめての授業の取り組み方について、
「学び舎」の導入が、子どもたちに平和を希求する心を育む歴史との出会わせ方だと、評価が高い意見が多く出ました。
また、時間の流れをわかりやすく説明しているのは「学び舎」ではないか?との意見が出ました(「端的でわかりやすい」「p.294からの地球の誕生の年表もよい」など)。

「東京書籍」は時間軸を見開きを左下に記載していたりと工夫が見られますが、記述が多いのでは?という意見が。

「育鵬社」は、p.6-7の「日本の歴史モノサシ」とp.8の元号・干支から、日本中心すぎるのではないかとの指摘がありました。


●また、元社会科教員の参加者から、
子どもたちに教えるときに気をつけていたこととして、
できるだけ具体的に考えさせるようにしていたと、実践例の発言がありました。
(「どんな猿が木から降りたのだろう?」
「石器・火を使うことで、どんなことが変わったか?」など)

その中で、「学び舎」の(2)種が落ちないムギ-農耕と牧畜のはじまり-(p.14-15)について、「すばらしい!」「自分で資料をつくって補っていた部分が、わかりやすくまとまっている」「ほかの教科書にはない」と高評価する参加者が何人も!


何が歴史を動かしていくのか?を感じさせることが、流れを大きく掴む力になる…という発言が印象に残りました。

第23回学習会報告「81 世界の奇跡・高度経済成長(p.262-263)」

2017-10-27 11:45:57 | 学習会
第23回学習会は、2017年10月10日(火)13時よりおこなわれました。

範囲はこちら。

育鵬社「81 世界の奇跡・高度経済成長(p.262-263)」

「82 冷戦と昭和時代の終わり(p.264-265)」


東京書籍「5 緊張緩和と日本外交(p.250-251)」

「6 日本の高度経済成長(p.254-255)」


学び舎「(8)豊さとその代償ー高度経済成長ー(p.272-273)」

「(10)基地の中の沖縄ー沖縄の本土復帰ー(p.276-277)」

「(12)問い直される戦後ー日中国交正常化と東アジアー(p.280-281)」




今回のチューターは元小学校教員のDさん。

戦後の「高度経済成長」を中心に、高度経済成長にともなう「公害問題」の記述、「沖縄返還」の記述、「中国残留日本人孤児」の記述を

育鵬社・学び舎・東京書籍の三社で比較しました。

Dさんが気になった点。
育鵬社
「高度経済成長」
○高度経済成長が、日本人の勤勉さや技術力によるものと自画自賛の記述。

○写真は、オリンピック・東京タワー・万国博覧会など、高度経済成長・経済大国・戦後復興を強調するものを大々的に掲載し、集団就職の写真は小さい。

「公害」

○「公害の歯止めに有効な対策をとらなかった政府や自治体、企業の責任がきびしく問われました。(p.263 L9)」とあるが、水俣病など公害病で苦しむ人とその家族の苦しみの記述が全くない。そのように苦しむ人とそれを支援する人々が企業の責任を問うたのに、そのことをきちんと書いていない。

○「政府は公害対策基本法を制定し、環境庁を発足。こうして公害防止と環境保護に努めた結果、大きな改善が見られた。(p.263 L11)」とあるが、公害病の患者や家族の怒りを根底にした裁判や公害反対の世論が、法律や環境庁をつくったと思う。あたかも政府が自発的につくったような記述だと感じる。

○写真は、四日市コンビナートのみ。

「沖縄」

○3行のみの記述(p.264 L18)。

○学び舎、東京書籍にくらべて沖縄の写真が一枚もなく、沖縄にアメリカ軍基地が集中していることなど気づかせることができない。

「中国残留日本人孤児」
○記述なし。

○戦争の記述が一貫して「仕方なかった」という論調。加害者としての記述は無いか、巧妙にぼかした表現で、被害者の立場に立った記述が多い。


育鵬社の教科書記述にかんして、総じて、

◎出来事の負の部分を隠したりぼかしたりしていると感じる。

◎被害者的な視点で戦争を記述しており、戦争や公害の被害に遭った人の描写が無い。

東京書籍

「高度経済成長」


○高度経済成長を社会情勢・政治情勢と絡めながら説明している。

○高度経済成長がさまざまな社会問題を生み出したこと(農村の人口流出・過疎化、都市の交通渋滞・住宅不足・ゴミ問題など)に触れている。

「公害」
○5行で簡潔に記述(p.255 L6)。

○p.268-269の見開きで詳しく記述。




「沖縄」
○p.251に記述。


○アメリカ軍基地が、沖縄の土地のかなりの部分を占めていることが分かる地図を掲載。

「中国残留日本人孤児」
○p.242に写真と文がある。




学び舎
「高度経済成長」

○高度経済成長を支えた労働力として、集団就職で上京した若者や貧しい地方から出稼ぎにきた農民の存在が大きいことに触れている。

「公害」

○具体的に工場名や病気の原因、どんなに恐ろしい病気かわかるような記述。

「沖縄」


○米軍機の事故による民間人の死亡、少女への米軍兵の暴行事件など、アメリカ軍の存在が沖縄の人々の平和な生活を脅かしていることに触れている。

○東京書籍と同じように、沖縄の基地負担がわかるよう地図を掲載している。

「中国残留日本人孤児」



○p.280で詳しく記述。