教科書採択を考える会ブログ

愛媛県松山市内の中学の歴史教科書が「育鵬社」版に変わるのを機に発足した会です。教科書比較の学習会も行っています。

第9回学習会報告 川岡先生の講演

2016-08-29 11:24:52 | 学習会

こんにちはー、事務局Hです。

残念ながら参加できなかった第9回学習会の川岡先生の講演でしたが、
Fさんから報告をいただいたのでここにアップさせていただきます。

ありがとうございます、Fさん


2016年8月9日(火)13時より  於 教育会館  参加者は25名でした。

この日は、「中学校歴史教科書を読み比べる(育鵬社・東京書籍・学び舎)」と題して、愛媛大学教育学部の川岡勉先生に話していただきました。

大きく4つの点についてお話しいただきました。

●歴史の視点がかわってきた
●3つの教科書の構成上の特徴
●前近代の歴史事項は、歴史の新しい視点で書かれているか
●育鵬社教科書の近現代の描き方の特徴
●学び舎教科書の挑戦


●歴史の視点がかわってきた
 最近、歴史を見る目が大きく変化してきている。どのように変化してきたか、次の4つがあげられる。

①一国史的発想(ナショナルヒストリー)の克服をする
 「日本」「日本人」を自明の前提とする歴史の見方を問い直し、「日本」や「日本人」という枠組みを超えた歴史の見方をするようになってきた。

②欧米中心史観の見直しをする
 アジアなど非欧米諸国を軽視・蔑視する見方が正されてきた。世界史は、欧米の歴史でなくなっている。

③人々の多様な経験への目配りをする
 地域史、女性史(ジェンダー)、生活文化史、民衆史、非農業民、各種マイノリティなどを扱い、一握りの英雄ではなく、民衆などの様々な動きを市やに入れた歴史叙述になってきている。

④歴史のなかにおける人間の生存環境へ注目する
 歴史額と自然科学との対話(自然科学から歴史学へ、歴史学から自然科学へ)、自然の災害への目配りをし、生存環境をも取り入れるべきである。


(Hの補足)↑私が習った約20年前の教科書との違いがはっきり文字になっていると感じました(笑)
「そういえばこういう点は私が習った時代とは違う」と、教科書全体を読み比べて納得することと思います。


●3つの教科書の構成上の特徴
 一国史的発想(ナショナルヒストリー)の克服という視点から、育鵬社・東京書籍・学び舎の3つの教科書の公正を見比べてみると、
育鵬社と東京書籍は従来通り日本が全面に出ている。
学び舎は、新しい歴史の流れに沿って、国家より人間を描き出そうとしている。



●前近代の歴史事項は、歴史の新しい視点で書かれているか
①「帰化人」と「渡来人」について
 今日では「渡来人」が一般的である。東京書籍と学び舎は、「渡来人」、育鵬社は「帰化人」と記述され、育鵬社は日本中心の歴史観に固執している。

②武士の発生について
 かつては、農村のなかから人々が村や家を自衛するために武装していったのが武士だといわれていた。しかし、近年の研究では、京都を中心とする貴族社会の中から武士は発生したという見方が有力である。
 育鵬社のみ、農村の中から人々が村や家を自衛するために武装していったという以前からの説を踏襲している。

③倭寇について
 今日では、ただの海賊ではなく、国を越え、国をまたいで活動した人々と考えられている。
育鵬社と東京書籍は、海賊という面に力点をおいて説明しているが、学び舎では国を越え国をまたいで多様に活動していた人々とちきんととらえている。

⇒育鵬社の記述は、すべて従来の歴史のとらえ方を踏襲するもので、新しい歴史の見方には立っていない。
その点、学び舎の教科書では、新しい歴史の見方がすべての歴史事項に取り入れられている。



●育鵬社教科書の近現代の描き方の特徴
 育鵬社歴史教科書の近現代の記述には、偏った描き方がなされている。特に次の4点が指摘できる。

①帝国主義のパワーハラスメント論に立脚して、戦争・植民地支配を是認・肯定、無批判は記述がなされている。

②日本側の加害性・侵略性・暴力性を薄める記述がなされている。

③アジアへの蔑視、隷属民や先住民などの思いを無視した記述がなされている。

④民衆の動きや社会運動が軽視され、反戦思想・革命思想への敵視がみられる。
 具体的には、「教育勅語」「日清戦争」「日露戦争」「植民地支配」「満州事変」「アジア太平洋戦争」「戦争責任論」「沖縄問題」
それぞれの記述に問題がある。



●学び舎教科書の挑戦

 学び舎の教科書は、今までにない新しい歴史教育が可能な教科書である。その特徴は、次のようなものである。

①歴史を国ではなく、人間を主題にすえ、人間の足跡として学ぼうとするものである
 「我が国の歴史の大きな流れを、世界の歴史を背景に、各時代の特色を踏まえて、理解させる」という学習指導要領の目標とは対極にある。

②従来の歴史教科書の通念を破るものである
 //歴史教科よに載る人は偉人や英雄という通念を打ち破り、いろいろな人の写真が掲載されている
  例えば、室町時代の女性商人・黒人奴隷・新聞記者・富岡製糸場で働く少女・東京で暗譜を学んだアイヌ人・
三・一独立運動に参加し処刑された女学生・サハリンで遊牧生活していた日本軍に動員された原住民・従軍慰安婦であった女性・
ヒトラーに抵抗し処刑された若者・被爆者・安保反対デモに参加した女性などなど

 //外国(人)と日本(人)という垣根を低くし、中国人や朝鮮人が多く出ている
 
 //子どもや女性、様々なマイノリティの人々の体験や活動に多くの紙面を割いている

 学び舎では、登場人物352名のうち37名が女性、東京書籍では300名中14名が女性、育鵬社では496名中26名(うち15名は本文中ではなく”なでしこジャパン”として掲載)が女性

③歴史教育の現場から問いを育てる
 まず、教科書の中の生々しい具体的な歴史の現場を絵と文章で示し、子どもたちの発見を出発点に、そこから課題を立てて、歴史の構造的な理解につなげていこうとする意欲的な試みが可能な教科書となっている。
 

 たとえば、「ペリーの来航」の単元での絵の資料は、「黒船を見物する人びと」「黒船の絵」「横浜に上陸するペリーの絵」「ペリーの来航経路」「日本人の描いたペリーの顔」。
文章の資料は、「大騒ぎの江戸」「ペリー、江戸湾に侵入」。

 心に響く多くの資料により、生徒は感想や疑問をもつ。
話し合う中で、当時の様子がイメージとして大きく膨らみ、課題も出てくる。その課題を追求して、歴史の構造的な理解(本質)にまでつなげていく。このことはまた、「楽しくわかる歴史の授業」なのではないかと思った(Fさんの記述)。