「クローズアップ現代 多剤耐性菌に立ち向かえ」を見ての続き
今日は多剤耐性菌への対策について
前々回にまとめたように番組では以下の項目で取材放送をしていました。
○多剤耐性菌に対する対策の項
1.新規抗生物質開発
2.耐性菌発生の予防
3.院内感染防止対策
この項目を強引に時間軸で分解すると
耐性菌発生の予防→新規抗生物質開発→院内感染防止対策
という順序になるのでしょうか?
この時間軸に従って少しだけ書いていきます。
○耐性菌発生の予防
耐性菌の発生は抗生物質の乱用が一因といわれています。番組では京都大学(うろ覚え)で行われている抗生物質の選択的投与が紹介されていました。
具体的な手順としては患者への処置開始時から2段階で抗生物質を変化させます。
この方法を行うことで抗菌スペクトルの広い(新世代)の抗生物質の使用期間を短くし、新世代の抗生物質への耐性獲得を予防するというものです。
いわば最終兵器を出来る限り温存し、既存の古い兵器で効率よく菌を叩くという考え方です。こうすることで最終兵器に対抗できる菌の発生をできるだけ遅らせる戦法とも言えます。
問題点としては菌の抗生物質感受性試験の実施には専門の設備・コストがかかることとです。自前で培養試験が可能な大病院はともかく、中小の病院や診療所では難しいでしょう。
もっと問題になる点は時間がかかること。抗生物質感受性試験は原因菌を培養して行うのですがこれには数日の時間がかかります。小さな診療所なんかでは分析センターに出したりしますからもっと時間がかかるわけです。下手すりゃ検査結果が出た頃には抗生物質の投与による治療が終わっているなんてこともありえます。
第一選択薬をあまり抗菌スペクトルの広い新型薬剤にしないという考え方もありますが、これもなかなか難しいような気がします。投与して効かなかったからより強い薬剤にというやり方は患者の側からしたら受け入れ難いですよね。「だったら最初からよく効く薬を使ってくれ」と言うのが患者側の本音です。お医者さんとしてもこういった患者の声は無視できない部分が有るのでは?
もう一点、最近は院外薬局が多いですからもうこれは当てはまらない部分もあるでしょうが、新型の薬剤の方が薬価は高いです。売上を考えたら安い旧型を使いたくなくなるというのは過去にはあったと聞いています。
ただし、問題点があるにせよ入院患者への抗生物質の投与に抗生物質感受性試験を組み合わせる手法は非常に効果が高いと思います。実際に放送でも多剤耐性菌の発生がかなり抑えられるとされていました。
長期入院患者や抵抗力の落ちた患者の多いところでは非常に効果を発揮するのではないでしょうか。こういった選択的投与を推進するためにも感受性試験を実施して抗生物質を投与する場合にはもっと診療報酬を上げたほうがいいと思います。こういった部分については病院側に金銭的なメリットを示すのは決して悪いことでは無いと思います。
帝京大学の院内感染問題では過去に行われた病院の調査で他の病院に比べ極端に多剤耐性菌の発生(全国平均の6倍)が確認されているとしています。ここで疑問になるのが帝京大学では選択的抗生物質の使用がなされていたのかという点です。これについては独立調査委員会の調査待ですが。
憶測を言うのは問題がありますが、やって無かったんじゃないかな?少なくとも京都大学のケースと照らし合わせればそういう推測になります。
○新規薬剤の開発
これについては国内の製薬会社の例をあげています。確かに国内の製薬会社では抗生物質の新規開発は停滞しています。
でも世界的に見ると結構開発は盛んです。とは言え停滞しているのも事実。
ウィキペディアの「抗菌剤の年表」というページを見れば明らかです。
現在の多剤耐性菌への最終兵器であるカルバペネム系抗生物質(パニペネム-ペタミプロン)がでたのが1993年そう考えると恐ろしく停滞しているとも言うことができます。
いくつか理由を上げていくとすると、
こういったことから近年新規に開発される薬剤は既存のものを修飾したものなどが多くなっています。このためNDM-1のように同類の物をすべてぶった切るような酵素には対向がしづらいというのもあるように感じます。
開発はつづいているがなかなか難しいのが現状でしょう。
○院内感染防止対策 病院内で菌の拡散を可視化する「院内感染対策サーベイランス」
新しい技術でもなんでもないのですが、非常に効果的な対応策です。可視化することで感染のイメージを具体化し、いわゆるヒューマンエラーによる拡大を予防するという点では非常に効果が期待できます。
具体的なイメージが出来るかどうかで人間の行動は大きくかわるのは事実です。
一方これはあくまでも発生後の対応なんです。しかもある程度拡大していかないと分かりにくい。
しかもこういった対策を一生懸命打っても病院として収入が増えるわけではありません。
「院内感染防止対策未実施減算」によって行っていない病院は診療報酬が減らされるというもので実施しているから加算されるものではないんです。
こういった方式である限り、病院経営を考えたら最低限しかしませんよね。
近年のスーパー多剤耐性菌の出現は一歩間違えばパンデミックに繋がり兼ねない危険な状況です。
減算会計ではなく加算による対策の促進をもう一度行う時期にきているのではないかな?と考えてしまいます。
スーパー多剤耐性菌や新型インフルエンザといった感染症の領域での新たな脅威にキチンと対抗できるように制度もしなくてはいけないと思います。
今日は多剤耐性菌への対策について
前々回にまとめたように番組では以下の項目で取材放送をしていました。
○多剤耐性菌に対する対策の項
1.新規抗生物質開発
近年、新規薬剤の開発が困難になってきている現状について
2.耐性菌発生の予防
抗生物質の選択的投与の実施
3.院内感染防止対策
病院内で菌の拡散を可視化する「院内感染対策サーベイランス」
この項目を強引に時間軸で分解すると
耐性菌発生の予防→新規抗生物質開発→院内感染防止対策
という順序になるのでしょうか?
この時間軸に従って少しだけ書いていきます。
○耐性菌発生の予防
耐性菌の発生は抗生物質の乱用が一因といわれています。番組では京都大学(うろ覚え)で行われている抗生物質の選択的投与が紹介されていました。
具体的な手順としては患者への処置開始時から2段階で抗生物質を変化させます。
第一段階:処置開始時
疾患の原因菌ならびに原因菌の抗生物質感受性の結果が出るまでの間は比較的抗菌スペクトルの広い第一選択薬剤(新型の薬剤等)で治療を行なう
第二段階:抗生物質感受性試験終了後
感受性のある抗生物質で、できるだけ抗菌スペクトルの狭い既存の物(世代が古いもの)に薬剤を変更して治療する
疾患の原因菌ならびに原因菌の抗生物質感受性の結果が出るまでの間は比較的抗菌スペクトルの広い第一選択薬剤(新型の薬剤等)で治療を行なう
第二段階:抗生物質感受性試験終了後
感受性のある抗生物質で、できるだけ抗菌スペクトルの狭い既存の物(世代が古いもの)に薬剤を変更して治療する
この方法を行うことで抗菌スペクトルの広い(新世代)の抗生物質の使用期間を短くし、新世代の抗生物質への耐性獲得を予防するというものです。
いわば最終兵器を出来る限り温存し、既存の古い兵器で効率よく菌を叩くという考え方です。こうすることで最終兵器に対抗できる菌の発生をできるだけ遅らせる戦法とも言えます。
問題点としては菌の抗生物質感受性試験の実施には専門の設備・コストがかかることとです。自前で培養試験が可能な大病院はともかく、中小の病院や診療所では難しいでしょう。
もっと問題になる点は時間がかかること。抗生物質感受性試験は原因菌を培養して行うのですがこれには数日の時間がかかります。小さな診療所なんかでは分析センターに出したりしますからもっと時間がかかるわけです。下手すりゃ検査結果が出た頃には抗生物質の投与による治療が終わっているなんてこともありえます。
第一選択薬をあまり抗菌スペクトルの広い新型薬剤にしないという考え方もありますが、これもなかなか難しいような気がします。投与して効かなかったからより強い薬剤にというやり方は患者の側からしたら受け入れ難いですよね。「だったら最初からよく効く薬を使ってくれ」と言うのが患者側の本音です。お医者さんとしてもこういった患者の声は無視できない部分が有るのでは?
もう一点、最近は院外薬局が多いですからもうこれは当てはまらない部分もあるでしょうが、新型の薬剤の方が薬価は高いです。売上を考えたら安い旧型を使いたくなくなるというのは過去にはあったと聞いています。
ただし、問題点があるにせよ入院患者への抗生物質の投与に抗生物質感受性試験を組み合わせる手法は非常に効果が高いと思います。実際に放送でも多剤耐性菌の発生がかなり抑えられるとされていました。
長期入院患者や抵抗力の落ちた患者の多いところでは非常に効果を発揮するのではないでしょうか。こういった選択的投与を推進するためにも感受性試験を実施して抗生物質を投与する場合にはもっと診療報酬を上げたほうがいいと思います。こういった部分については病院側に金銭的なメリットを示すのは決して悪いことでは無いと思います。
帝京大学の院内感染問題では過去に行われた病院の調査で他の病院に比べ極端に多剤耐性菌の発生(全国平均の6倍)が確認されているとしています。ここで疑問になるのが帝京大学では選択的抗生物質の使用がなされていたのかという点です。これについては独立調査委員会の調査待ですが。
憶測を言うのは問題がありますが、やって無かったんじゃないかな?少なくとも京都大学のケースと照らし合わせればそういう推測になります。
○新規薬剤の開発
これについては国内の製薬会社の例をあげています。確かに国内の製薬会社では抗生物質の新規開発は停滞しています。
でも世界的に見ると結構開発は盛んです。とは言え停滞しているのも事実。
ウィキペディアの「抗菌剤の年表」というページを見れば明らかです。
現在の多剤耐性菌への最終兵器であるカルバペネム系抗生物質(パニペネム-ペタミプロン)がでたのが1993年そう考えると恐ろしく停滞しているとも言うことができます。
いくつか理由を上げていくとすると、
1.薬剤耐性が出ると市場内の評価が下がり収益が安定しない
新薬登場から平均4年程度で薬剤耐性獲得菌が出現してしまう。
他の新薬に比べ市場での競争性が失われるのが非常に早い。
(他の薬では特許切れまで市場で優位性を保つ物も多い)
2.抗生物質の開発には膨大な手間がかかる
放線菌などの菌から見つかることの多い抗生物質。
地道な作業と膨大なスクリーニング資源が必要。
近年は新規微生物入手にも生物資源の問題も有り。
新薬登場から平均4年程度で薬剤耐性獲得菌が出現してしまう。
他の新薬に比べ市場での競争性が失われるのが非常に早い。
(他の薬では特許切れまで市場で優位性を保つ物も多い)
2.抗生物質の開発には膨大な手間がかかる
放線菌などの菌から見つかることの多い抗生物質。
地道な作業と膨大なスクリーニング資源が必要。
近年は新規微生物入手にも生物資源の問題も有り。
こういったことから近年新規に開発される薬剤は既存のものを修飾したものなどが多くなっています。このためNDM-1のように同類の物をすべてぶった切るような酵素には対向がしづらいというのもあるように感じます。
開発はつづいているがなかなか難しいのが現状でしょう。
○院内感染防止対策 病院内で菌の拡散を可視化する「院内感染対策サーベイランス」
新しい技術でもなんでもないのですが、非常に効果的な対応策です。可視化することで感染のイメージを具体化し、いわゆるヒューマンエラーによる拡大を予防するという点では非常に効果が期待できます。
具体的なイメージが出来るかどうかで人間の行動は大きくかわるのは事実です。
一方これはあくまでも発生後の対応なんです。しかもある程度拡大していかないと分かりにくい。
しかもこういった対策を一生懸命打っても病院として収入が増えるわけではありません。
「院内感染防止対策未実施減算」によって行っていない病院は診療報酬が減らされるというもので実施しているから加算されるものではないんです。
こういった方式である限り、病院経営を考えたら最低限しかしませんよね。
近年のスーパー多剤耐性菌の出現は一歩間違えばパンデミックに繋がり兼ねない危険な状況です。
減算会計ではなく加算による対策の促進をもう一度行う時期にきているのではないかな?と考えてしまいます。
スーパー多剤耐性菌や新型インフルエンザといった感染症の領域での新たな脅威にキチンと対抗できるように制度もしなくてはいけないと思います。