まったくもって世の中は・・・

本を読むという行為は、自己が果たすことの出来ない世界を疑似体験させてくれる貴重な時間だと思う。 だから私は何とか少ない時間をやりくりして読書する時間を作るように心がけている。 私には気に入った作家を見つけると、同じ作家の作品ばかりを続けて読む、という傾向がある。アガサ・クリスティー、パトリシア・コーンウェル、逢坂剛、宮部みゆき、最近ではダン・ブラウンetc・・・。

一通り読み進めた後、また次のお気に入り作家を探す、の繰り返しだ。

４，５年ほど前だろうか、坂東真砂子の小説にハマり、続けて何冊も読んだ時期があった。「死国」「狗神」「蟲」「山姥」、自身高知県出身である著者の作品は、どれも古い因習の陰に潜む村社会が持つ、特有の偏狭さや怨念などが、禍禍しく、ねっとりとした文体で描かれていた。そして私は彼女の作品に見える、女の業（ごう）や性（さが）、執念といったおぞましくもすさまじい世界に惹かれていった。 

「直木賞作家が子猫殺しを告白」という衝撃的な見出しが目に入った。そしてそれが、坂東真砂子だと知ったときの衝撃 　

彼女の書いた問題のエッセイを読んでみた。しかし、どう読解しようと努力してもやはり納得がいかない。

「人は他の生き物に対して、避妊手術を行う権利などない」「子種を殺すか、生きている猫を殺すかの差だ」と言い切っている。

 屁理屈を言っているようにしか思えない。

飼い主の勝手な理屈を言っているのは一体どっちの方か

例えば盲導犬の訓練、犬には「よおし！、ボク、頑張って盲導犬になるぞ!!」なんて意識は無いはずである。彼らの望みは、人間に誉めてもらいたい、喜んでもらいたい、と、その一心で訓練に励んでいるのだ。

猫も犬も本能のままに性交をして、本能のままに命がけで子育てをする。理屈はいらないはずだ。ただただ生き抜くために・・・。彼らにとってはそれが全てなのだ。　避妊に対する考え方は確かに様々かもしれない。しかし不幸な犬猫を少しでも減らすために現時点では一番有効な方法と思う。この世に生を受けた以上、彼らはただひたすら生きるために生き抜くためにそこに居るのだ。

坂東氏、あまりにも人間の生き死にを追求し、描きすぎたが為に、いびつな死生観を持つに至ったのだろうか。 それとも私の認識が甘すぎるのか、センチメンタルに過ぎるのか・・・　もう何が何だか解らない。

多分、もう二度と彼女の作品は読まないだろう。