とね日記

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具体例から学ぶ 多様体:藤岡敦

2019年08月09日 15時14分41秒 | 物理学、数学
具体例から学ぶ 多様体:藤岡敦 」(Kindle版)(サポートページ

内容紹介:
具体例を通じて多様体の基礎を理解できるようにした入門書。前半の第 I 部では、ユークリッド空間内の多様体となる図形を例に挙げながら、多様体の定義にいたるまでの背景を丁寧に述べた。後半の第 II 部では、多様体論に関する標準的な内容を一通り扱うとともに、やや発展的な内容である複素多様体・リーマン多様体・リー群・シンプレクティック多様体・ケーラー多様体・リー環についても、具体例を中心にあまり難しくならない程度に述べた。
◆本書の特徴◆
・全体のあらすじを見渡せるよう、冒頭に「本書に登場する多様体の具体例」と「全体の地図」を設けた。
・多様体を考える上で、微分積分・線形代数・集合と位相がどのように使われるのか丁寧に示した。また、群論・複素関数論に関する必要事項を本書の中で改めて述べた。
・ユークリッド空間内の曲線・曲面と一般の多様体との中間的な位置付けとなる径数付き部分多様体を解説し、一般的な多様体の定義にいたるまでのイメージをつかみやすくした。
・具体例を扱った例題や問題を解きながら読み進められるようにした。本文中の例題や章末の問題のすべてに詳細な解答を付けた。
・数学の専門書でしばしば登場するドイツ文字について「ドイツ文字の一覧」(フラクトゥーア体と筆記体)を見返しに掲載した。

2017年3月28日刊行、269ページ。

著者について:
藤岡敦(ふじおか あつし):
ホームページ: http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~afujioka/
Twitter: @atsushifujioka
関西大学教授、博士(数理科学)。1967年 愛知県生まれ。東京大学理学部卒業、東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了。金沢大学助手・講師、一橋大学大学院経済学研究科助教授・准教授を経て現職。専門は微分幾何学。主な著書に『手を動かしてまなぶ線形代数』『具体例から学ぶ 多様体』(以上 裳華房)、『Primary大学ノートよくわかる基礎数学』『Primary大学ノート よくわかる微分積分』『Primay大学ノートよくわかる線形代数』(以上 共著、実教出版)などがある。

藤岡先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で422冊目。

本書は発売当初から気になっていたのだが、なかなか読み始めることができなかった本だ。先日紹介した「相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」の「参考文献」の18番目に取り上げられていたのと、Kindle版が刊行されていることで購入意欲がかきたてられ「読むなら今でしょ!」ということになったわけである。

僕はKindle Paperwhiteで読んだが、小さく印刷された添え字はもちろん「添え字の添え字」も十分判読可能だった。(連投ツイートでサンプルを確認する

微分幾何学、微分形式、多様体など幾何学系の読書が続いているから慣れもあり、通常の3割増しのペースで読めた。

多様体と銘打った本としては珍しく、第I部にユークリッド空間内の代表的な図形を解説している。これらの図形は多様体の例となっているわけだが、多様体の本論が始まるのは第II部からなのだ。

これまでの学習経験から僕には第I部は読む必要がないわけだが、念のために目を通しておいた。この部分では大学初年度で学ぶ微分積分・線形代数・集合と位相などがどのように役立つかを知ることができる。

これらの分野の学習を終えた学生の中には「学び終えたものの何に役立つのかわからない」状態になっていることがある。微分積分、線形代数はともかく、特に「集合と位相」は学んだ意味を自覚できるのは、だいぶ後になってからだと思うからだ。第I部では多様体の定義にいたるまでの背景を学ぶことになる。

数学の勉強はとかく「木を見て森を見ず」という状況に陥りやすい。本書はそのようにならないために、冒頭に「本書に登場する多様体の具体例」と「全体の地図」を設けている。

サポート情報
ドイツ文字の一覧 (pdfファイル)  ◎ 正誤表 (pdfファイル)
はじめに  ◎ 本書に登場する多様体の具体例  ◎ 全体の地図  ◎ 索引 (以上 pdfファイル)


全体の章立ては、次のとおりだ。

第 I 部 ユークリッド空間内の図形
 1.数直線 R
 2.複素数平面 C
 3.単位円 S1
 4.楕円 E
 5.双曲線 H
 6.単位球面 S2
 7.固有2次曲面
第 II 部 多様体論の基礎
 8.実射影空間 RPn
 9.実一般線形群 GL(n,R)
 10.トーラス T2
 11.余接束 T∗M
 12.複素射影空間 CPn


本書の特長である「具体例から学ぶ」であるが、立ち読みもしないで購入したものだから、僕は少し誤解していた。表紙にトーラスが描かれていたため多様体の具体例を豊富な図で示しながら解説する本だと思っていたからだ。入手してざっと眺めたところ、図は期待していたよりは少なく、図の豊富さという点では「幾何学〈1〉多様体入門:坪井俊」のほうが勝っている。

つまり本書でいうところの「具体例から学ぶ」というのは第I部で学ぶ、ユークリッド空間内の代表的な図形、そして第II部では代表的な多様体をとりあげ、解答つきの演習を交えて学んでいくという意味だ。

第II部からの難易度は先日紹介した「幾何学から物理学へ: 谷村省吾」の前半の幾何学の範囲(第13章あたりまで)とほぼ同じだと感じた。

多様体の入門書では「現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二」や「多様体の基礎: 松本幸夫著」が有名だが、この2冊は多様体の学習の導入部分を、これでもかというくらい丁寧に解説した本である。特に前者は特に易しく、多様体を登山に例えればふもとの山小屋から1合目あたりまで、後者は3合目あたりまでといったところだろう。

それに対して今回紹介させていただいた藤岡先生の本は、同じく入門書に分類されるとはいえ「全体を俯瞰しつつ、必要なことを学ぶ」ための本である。それは第II部の最後に複素多様体まで解説していることからもわかる。僕にとっては思いがけず、初めて複素多様体の一端を学ぶことができて有益だった。複素多様体デビューである。


最終的には「多様体入門(新装版)」を読めるようになりたいものだ。しかし、この本にチャレンジするのは、まだ無理な気がする。そのように感じている方は多いことだろう。

「理解できる本を読んで自信をつける。」のは学ぼうとする気力を保ち、モチベーションを高めるためには大切だ。本書はそのようなニーズに応えることのできる1冊だと思う。


本書を執筆された藤岡先生は次の本もお書きになっている。大学1年生だけでなく、院試対策用に良さそうだ。(僕には耳が痛いが)手を動かして計算するのはとても大切である。微分積分のほうは、今月24日に発売される。

手を動かしてまなぶ 線形代数:藤岡敦
手を動かしてまなぶ 微分積分:藤岡敦
 


参考書籍:

巻末には「読者のためのブックガイド」として微分積分、線形代数、集合論・位相空間論、微分方程式論、複素関数論、群論、曲線論・曲面論、多様体論、位相幾何学、その後の幾何学に関して参考書籍が紹介されている。ここでは曲線論・曲面論、多様体論、位相幾何学に限定して藤岡先生が紹介している本を載せておこう。

[1]「曲線と曲面(改訂版) -微分幾何的アプローチ」(Kindle版
[2]「曲線と曲面の微分幾何(改訂版) :小林昭七」(Kindle版)(紹介記事

曲線論、曲面論に関する良書は多く存在するが、その中でも[1]はとてもよく書かれた教科書である。[2]は著者の語りかけるかのような文章が特徴的で、幾何的、物理的な直観も交えた説明がとても読み易い。多様体論を学習する前に、是非これらの本で曲線論、曲面論を学んでほしい。

[3]「幾何学〈1〉多様体入門:坪井俊」(Kindle版)(紹介記事
[4]「幾何学〈2〉ホモロジー入門:坪井俊」(Kindle版
[5]「幾何学〈3〉微分形式:坪井俊」(紹介記事

[3]は多様体の入門書であるが、微分形式については[5]で補うとよい。[4]は位相幾何学の教科書だ。これら3冊で数学系の学科の3年次まで学ぶべき標準的内容は十分カバーできるであろう。

[6]「多様体 (岩波全書):服部晶夫
[7]「多様体入門(新装版):松島与三
[8]「多様体の基礎:松本幸夫」(Kindle版)(紹介記事
[9]「多様体:村上信吾

[6]は接束や余接束の一般化といえるベクトル束とよばれるものに重点を置いているのが特徴的である。[7]は多様体論に関する本格的な教科書で、リー群についても詳しい。[8]はその他の文献と比較すれば、多様体論の教科書としては易しめである。[9]は微分形式についても詳しいが、複素多様体についても多くの紙数を割いている。

あと、本書刊行後に書かれた本であるが複素多様体に関しては次の本をお勧めしたい。アマゾンでは残念ながら1つだけ酷評が入力されてしまっているが、僕は良書だと思う。

物理系のための複素幾何入門:秦泉寺雅夫」(サイエンス社のページ


関連記事:

テンソル解析:田代嘉宏
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2c836967d34de2d35737292d95ad426b

現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7aade4e043ef0b93de491bf674c734f3

多様体の基礎: 松本幸夫著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a372a9ed92d55474cdbbb707922dc353

幾何学〈1〉多様体入門:坪井俊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3e1ce8cb8a308649bdf0db23a75e29b

幾何学〈3〉微分形式:坪井俊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c9cd27d66fb448bfb519a2ab0c5e99f7

『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く』の参考書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/84e2122f4587cde561c3c5f3ed74f9a7

理工系のための トポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3f58e5c285fe4c45a9a551593a72940a

幾何学から物理学へ:谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7e5a3ea4d9f7c96514ffab0b8efcd973


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具体例から学ぶ 多様体:藤岡敦 」(Kindle版)(サポートページ


はじめに (pdfファイル)
本書に登場する多様体の具体例 (pdfファイル)
全体の地図 (pdfファイル)

第 I 部 ユークリッド空間内の図形

 1.数直線 R
  1.1 実数
  1.2 連続の公理
  1.3 距離空間
  1.4 位相空間
  1.5 区間
  1.6 相対位相
  1.7 連結性
  演習問題

 2.複素数平面 C
  2.1 複素数
  2.2 二項関係
  2.3 絶対値
  2.4 ユークリッド平面
  2.5 内積空間
  2.6 ノルム
  2.7 ユークリッド空間
  演習問題

 3.単位円 S1
  3.1 立体射影(その1)
  3.2 濃度
  3.3 連続写像
  3.4 コンパクト性
  3.5 極値問題
  3.6 微分可能性
  演習問題

 4.楕円 E
  4.1 同相写像
  4.2 群
  4.3 アファイン変換
  4.4 等長写像
  4.5 直交群
  4.6 陰関数表示
  演習問題

 5.双曲線 H
  5.1 位相的性質
  5.2 双曲線関数
  5.3 径数表示(その1)
  5.4 正則曲線
  5.5 曲線の長さ
  5.6 レムニスケート
  演習問題

 6.単位球面 S2
  6.1 立体射影(その2)
  6.2 座標変換
  6.3 一般次元の場合
  6.4 微分同相写像
  6.5 群の作用
  6.6 3次の直交行列
  演習問題

 7.固有2次曲面
  7.1 固有2次曲面の分類
  7.2 2次超曲面
  7.3 径数表示(その2)
  7.4 ベクトル場(その1)
  7.5 径数付き部分多様体
  7.6 陰関数定理
  演習問題

第 II 部 多様体論の基礎

 8.実射影空間 RPn
  8.1 商位相
  8.2 多様体
  8.3 逆写像定理
  8.4 複素内積空間
  8.5 正則関数
  8.6 複素多様体
  演習問題

 9.実一般線形群 GL(n,R)
  9.1 開部分多様対
  9.2 部分多様体
  9.3 多様体上の関数
  9.4 多様体の間の写像
  9.5 接ベクトルと接空間
  9.6 写像の微分
  演習問題

 10.トーラス T2
  10.1 積多様体
  10.2 ベクトル場(その2)
  10.3 接束
  10.4 ベクトル場の演算
  10.5 リーマン多様体
  10.6 リー群
  演習問題

 11.余接束 T∗M
  11.1 微分形式(その1)
  11.2 多重線形形式
  11.3 微分形式(その2)
  11.4 外微分
  11.5 シンプレクティック形式
  11.6 シンプレクティック多様体
  演習問題

 12.複素射影空間 CPn
  12.1 複素化と複素構造
  12.2 フビニ-スタディ計量
  12.3 ケーラー多様体
  12.4 リー環
  12.5 微分形式の積分
  12.6 多様体上の積分
  演習問題

おわりに
読者のためのブックガイド
演習問題解答
記号一覧
索引 (pdfファイル)

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