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アインシュタイン選集(2): [A10] エーテルと相対性理論(1920年)

2008年07月18日 07時42分41秒 | 物理学、数学
アインシュタイン選集(2): [A10] エーテルと相対性理論(1920年)

この論文は1920年5月5日にオランダのライデン国立大学で行われた講演の内容を書き起こしたものだ。したがって数式は用いられず、すべて言葉で書かれている。

エーテルとは宇宙空間に満ちていて光や電磁波を伝える媒質と17世紀頃から考えられていたものだ。しかし1887年の「マイケルソン・モーリーの実験」によってもエーテルは検出されず、その後の物理の理論はその存在を仮定しなくても説明可能になったため、エーテルの存在根拠は徐々に失われていった。アインシュタインの講演の前半部分は、さまざまな改良や変更を加えられてきたエーテル理論の歴史を説明したものだ。ニュートンからはじまり、フレネルやローレンツ、マッハのエーテル理論が紹介されている。

僕にとって最初のうちこの論文は退屈だった。どうして今さらエーテルなんか引っ張り出してきて長々と説明しているのだろうと思ったから。けれども、これが一般相対性理論の論文集に含まれているものだと気づいたとき、ここで彼が述べているエーテルの意味について、僕は大きな誤解をしていることがわかった。何事も先入観にとらわれずに取り組むべきだ。

特殊相対性理論の立場から見れば確かにエーテル理論は意味がないものに思える。けれども電磁場の理論を考えるときエーテルを否定するということは究極的には宇宙の真空というものがまったく物理学的性質をもたないと仮定するのと同じことになってしまう。そのような観点は力学の基本的事実とは両立しえない。

ニュートンはそのような(真空であっても)絶対空間を認め、「空間」というものを物理学で扱う対象物のひとつに加えた上で力学理論を構築した。

マッハは観測できない物は実在する対象としては認めないという立場で理論を構築した。すなわち絶対空間に対する加速度のかわりに宇宙にある物質の全体に対する平均加速度を考えようとした。その考えに従うならば慣性の影響に対してその媒体として役立つエーテルについては認めることになる。この場合マッハのエーテルは慣性をもつ物体の行動を規制するばかりでなく、逆にエーテル自体の状態がこれらの物体によって規制されるのだ。

マッハの考えはその後、発展していき一般相対性理論におけるエーテルにまで成長した。それは時空の状態を10個の関数(つまり重力ポテンシャル=g(u,v))によって記述せざるをえないということになり、究極的には空間が物理的に見てなんらの属性をももたないという考え方を棄てさせることになる。エーテルの概念は一般相対性理論によって再び明瞭な内容を含んだものになったわけだ。

ローレンツの理論について言えば、電磁波は質量をもった普通の物質と同様に運動量やエネルギーを持ち運ぶ。また特殊相対性理論によれば物質も電磁波もともにエネルギーの特別な形態であり、質量はもはや孤立したものではなく、エネルギーのひとつの特別な形にすぎないということだ。つまりエーテルの存在を否定しているわけではない。

もし重力場と電磁場をエーテル仮説の立場から考えると、これら2つの場の間には注目すべき違いがある。つまり重力ポテンシャル g(u,v) を伴わない空間とか空間の一部分というようなものはありえない。なぜなら重力ポテンシャルは空間にその計量的性質 g(u,v) を与えるものだからであって、計量をもたない空間は全く考えることができないからだ。これに対して電磁場の存在しない空間の一部分は容易に考えることができる。したがって重力場とは異なり、電磁場は二次的にエーテルに結びついているように見える。アインシュタインはエーテルと重力場、電磁場の関係をそのように考えていた。

こうしてエーテル理論が物理学の発展につじつまの合う形で改良されていった結果、一般相対性理論の重力場に対して考えられるエーテル理論が、マックスウェルの電磁場を4次元時空に拡張したローレンツの電磁場と矛盾なく説明できるかということがアインシュタインの関心事となっていった。これが「統一場理論」というアイデアの生まれた背景である。

この講演が行われていた当時知られていたのは電磁気力と重力だけだったので、これら2つの法則すなわち電磁場と重力場をまとめて説明するのは「統一場理論」である。その後発見される強い力や弱い力をまとめて説明しようとする「統一理論」や「大統一理論」と混同しないでいただきたい。


一般にアインシュタインは「エーテルの存在を否定した。」と言われているが、これはニュートン的な絶対空間に対して静止しているエーテルの存在を否定していただけである。少なくともこの講演が行われていた1920年には一般相対論的なエーテルは存在するとアインシュタインは信じていた。それがどのようなものであるかはこの講演の最後で次のように述べている。

「ここに考えたエーテルが、質量をもった普通の物質からできているとか、あるいはまた普通の媒質(水や空気のような)と同じような性質をもっていると考えることはできない。たとえば、運動というような概念は、われわれのエーテルには適用できない。」

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この講演では量子論についてのアインシュタインの考え方もうかがい知ることができる。「[B9] シュテルンとゲルラッハの実験についての量子論的注意(1922年)」の論文以降、痛烈に量子論批判をするようになったアインシュタインであるが、この講演が行われた1920年の時点では、量子論に好意的であったことが次の発言からわかる。

「理論物理学の近い将来を考えるとき、量子論に含まれている事実が場の理論に対してそれが越えることのできない境界を与えるであろうという事実をわれわれは無条件に拒否してはならない。」


関連リンク:

アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559

アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae

趣味で相対論
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/90aa60383b600ff4e4fd7bea6589deaa

とね書店:

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アインシュタイン選集(3)
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