こちら特報部 白バイ・スクールバス衝突事故 高知 収監中の運転手が国賠訴訟(上) 捜査不信 冤罪の叫び
2009.09.12 朝刊
二〇〇六年に高知県で起きたスクールバスと白バイの衝突死亡事故で、業務上過失致死罪で禁固一年四月の実刑が確定したバス運転手(55)=収監中=が、国家賠償訴訟に踏み切った。事故の当事者である警察が、証拠を偽造して身内をかばった疑惑を払拭(ふっしょく)することができないからだ。警察側は「真実は一つ」と自信をみせるが、調べと食い違う複数の目撃証言がある。「冤罪(えんざい)」の恐れは、ないのか。(加藤裕治)
事故は〇六年三月三日、高知県春野町(現・高知市春野町)で起きた。中学生ら二十五人を乗せた同県仁淀川町のスクールバスが駐車場から出て右折しようと、片側三車線の国道を横切った。その際、国道を走ってきた白バイがバスの右前部に衝突し、運転していた白バイ隊員男性=当時(26)=が亡くなった。
バスを運転していた片岡晴彦受刑囚は、「喪に服す」と事故から二カ月間、外出を控えた。やがて運転免許が取り消され、仕事は続けられなくなった。それでも家族の前では平静を装った。ところが八カ月後の十一月、高知地検で取り調べを受けて顔色を変えた。
「ブレーキ痕の写真を見せられた。バスは止まっていたのに、わしが白バイを引きずったことになっている」
その時まで罪に問われるとは思っていなかった。しかし、〇六年十二月に業務上過失致死罪で起訴され、翌年六月の一審で禁固一年四月の判決が下った。〇八年八月、最高裁で刑が確定。同十月、家族や支持者が見守る中、高知地検に出頭し、収監された。
妻香代子さん(52)は、そのときの様子を振り返る。「内心は不安が大きかったでしょう。でも、それを言うと私と娘が心配すると思ったのか、何も言いませんでした」
刑に服したものの、自分は無実であるという思いが消えたわけではない。そして今年三月、不当捜査を理由に国賠訴訟を起こした。
◇
事故について、捜査当局と運転手側で食い違うのは(1)バスの安全確認は十分だったか(2)バスが白バイをはねたのか、白バイがバスに突っ込んだのか-の二点だ。
裁判所が認めた事故の状況は「片岡運転手は白バイを見落として国道に進入。五~十キロの速度で進んでいる途中で右から来た白バイと衝突。三・六メートルはね飛ばして道路の中央分離帯付近で止まった」。警察側の主張通りだった。
根拠の一つが、対向車線を通りがかった白バイ隊員の「バスは約十キロで国道を横断。(事故を起こした)白バイは約六十キロで走っていた。三、四秒後にバスが白バイをはねた」という証言だった。隊員の証言通りなら、バスが国道に入った際、白バイは現場から約五十五メートル離れた路上にいて、バスから確認できる。このことから、裁判所は片岡受刑囚の安全確認が不十分と結論付けた。
しかし、片岡受刑囚側は「しっかり安全確認した」と反論。現場近くにいた校長は「右折待ちで停車中のバスに白バイが突っ込んだ」、通りがかった第三者も「白バイが百キロ以上の速度で走っていった」と証言した。現場は緩いカーブ。証言通りなら見えないほど遠くにいた猛スピードの白バイが、中央分離帯近くで止まっていたバスに突っ込んだことになる。
しかし刑事裁判で、裁判所はこれらの証言を「うそをつく可能性がある」などと退けた。このため「警察が身内をかばって、罪を押しつけた」という思いは強まった。
--------------------------------------------------------------------------------
こちら特報部 白バイ・スクールバス衝突事故 高知 収監中の運転手が国賠訴訟(下) 食い違う目撃証言 『警察が身内かばった』 証拠偽造疑惑も 現場に奇妙なブレーキ痕 県警『真実は一つ』と自信
2009.09.12 朝刊
国賠訴訟で代理人を務める生田暉雄弁護士も「警察は利害関係者なのに、裁判官が捜査をうのみにした」と批判する。
生田弁護士は「十キロでバスが道路を横切ったなら、白バイが現場に差しかかる前に裁判所が認定した衝突地点を通り過ぎるはずだ」と白バイ証言の矛盾を指摘する。
法廷には「バスが道路の真ん中に止まった時、遠くに白バイが見えた。とても速いと感じた。その三秒後かそれより早いぐらいで横から衝撃を受けた」という、白バイ証言を否定する生徒の証言も提出する予定だ。
しかし高知県警は捜査に自信をみせている。
山中良水交通部長は「目撃者である白バイ隊員は速度、距離を目測する訓練を受けている」と証言の正確性を強調。「バスは〇キロから十キロに加速している。その状況をふまえれば、証言と裁判所の判断に矛盾はない」と断言する。
有罪の根拠になった証拠のひとつに、路面に残った一メートルあまりの黒い二本の線がある。
警察は「バスのブレーキ痕」と主張。刑事裁判では、それを認め、事故の時バスが動いていた証拠と判断された。しかし片岡受刑囚側は、刑事、国賠を通じて「偽造だ」と反論を続けている。同型のバスを使った実験では、ブレーキ痕は最長三十センチしかつかなかった。また、事故時にバスに乗っていた中学生たちの中に、急ブレーキの衝撃を感じた者はいなかったからだ。
また、ブレーキ痕は前方の色が濃いオタマジャクシ形で、時間がたつにつれ頭の部分の色が薄れた。そうなった理由は高裁判決も「分からない」という謎だが、片岡受刑囚側は、「はけで液体を路面に塗ったからだ」と疑いを持っている。
もちろん、警察側は「現場には見物人やマスコミがいた。衆人環視の中で偽造できるはずはない」「わずかの時間で、矛盾が出ないよう証拠をねつ造するなんて無理だ」と全面否定する。
写真のデジタル処理による偽造の可能性もないではないが、山中交通部長は「写真のネガはちゃんと保存している。地元記者が撮影し、新聞に載った写真にもブレーキ痕が写っている。あり得ない」と断言する。
◇
香代子さんは毎月、兵庫県加古川市の交通刑務所に面会に通う。間もなく収監から一年。当初は不安そうで「どうにでもなれという気分にもなった」という片岡受刑囚が、だいぶ落ち着きを取り戻した様子だという。
手紙も頻繁に来る。内容は家の心配ばかり。長女亜矢さん(29)と読み返しながら、「晴彦さんの手紙は泣けないのよね」と話す香代子さんの目に一瞬、涙が光ったように見えた。「もうすぐ仮出所できるのでは。私が美容室を開いているので、帰宅したら主夫業で忙しくしてもらいます」
◇
国賠訴訟は次の口頭弁論期日が決まってない。片岡受刑囚は判決前にも刑事事件の再審を請求する構えだ。次々と手を打つ背景には、「生徒も巻き込んだ事件。教育的にも無視できない」という思いがある。一方、県警は「遺族の気持ちも考えてもらいたい」と、相手方の動きや報道にくぎを刺す。“真実”は、どこに。
◇
デスクメモ
証拠に乏しい交通事故。しかも当事者は警察。本当に公正な裁判か、誰でも疑心暗鬼に陥るだろう。こんな裁判こそ裁判員を入れて民意を反映させたら良いと思うが、そうはいかない。同制度の対象は殺人、強盗致死など「難しい」(実は簡単な)事件に限定されている。誰に都合がいい制度なのか。(充)
2010/3/6(土) 午前 6:48
... 20人以上(20数名乗車のバス)の乗客(生徒)が、バスは停まっていたと証言し、更にバスの後ろで別の車の乗っていた学校職員も停まっているバスに向かって猛スピードの物体が衝突し、その後白バイだと判ったと証言していたのだが、何故だかその主張が裁判官 ...
2008/12/1(月) 午後 8:09
... 本人及び、其の乗客の証言は一切聞き入れられず、反対車線から同僚の白バイが遠くから見た、バスは良く見ず交差点に10km/hのスピードで進入、急ブレーキでとまり其のとき白バイと衝突、という証言のみを証拠とし、有罪となる。 本人の弁は交差点中央 ...
2008/3/2(日) 午前 2:22
... と 証言しているのに関わらず、裁判所は「信用できない。」 またバスに同乗した生徒の証言さえもさせないやり方で 反対車線を走行した白バイの証言は信用して、 「バスが悪い」ってことで有罪! そんな公務員の身内びいき判決って思わ ...
2008/1/11(金) 午後 5:48
目撃証言の信用性 白バイ衝突死事件から 2006年高知県であった白バイ衝突死事件が不思議な展開をしている。 交差点でスクールバスと白バイが衝突し、白バイ警官が死亡した。 スクールバスがセンターライン付近で右折しようと止まっていたか ...