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『さや侍』 笑いながら哀しみに包まれる、松本監督が描く武士の一分

2011年06月20日 | 笑っちゃった映画

原題:さや侍(G)
2011年・(103分)
               
監督・脚本:松本人志
脚本協力:高須光聖、長谷川朝二、江間浩司、倉本美津留  
出演:野見隆明、熊田聖亜、板尾創路、柄本時生、りょう、ROLLY、
   腹筋善之介、清水柊馬、竹原和生、伊武雅刀、國村隼 ほか


鑑賞日:2011年6月16日 (川崎)

鑑賞前の期待度:★★★


松本人志監督の第3作目、『さや侍』。
正直にいえば、当初は前2作品同様、全く興味がなかったのですが、
何だか、うまく宣伝効果に乗せられたというか、
TV番組の映画紹介で流れたいくつかのシーンを見ているうちに、
「この作品は、面白いかもしれない・・・。」
と思い直し、鑑賞することに。

果たして?!


主人公・野見勘十郎は、
無断で脱藩した罪によりお尋ね者となっていたが、
ついに多幸藩で捕らえられる。
家老より申し渡されたのは、<三十日の業>。
母親を亡くし、
心を閉ざしてしまった多幸藩の若君を笑わすことができれば無罪放免、
失敗すれば切腹という条件のもと、命懸けの一日一芸を披露することに。
果たして、30日以内に若君を笑わせることができ、無罪放免となるのか?
いざ、鞘しか持たない侍の真剣勝負!!

・・・のハズが、
野見が披露するのは、箸にも棒にも掛からない、芸と呼ぶには程遠い出し物。
しかも、これ以上はないというくらい情けなくて、駄作くて、キモい、
オヤジっぷり。

「おいおい、どういうことだよ?」

“笑える”というより“怒り”を買ってしまうその芸に、
家老役・伊武雅刀の「切腹を申しつける!!」の声が、
日毎城中に響きわたる。

普通なら引いてしまって、
最後まで鑑賞するには耐え難いビジュアルの主人公にも関わらず、
なぜか見入ってしまうのは、
その他の配役が上手くハマっているからだろうか。
さや侍・野見勘十郎の命運というより、
熊田聖亜演じる幼い娘・たえの行く末が案じられて、
ついつい「どうなるんだ?」と気になってしまう。

そう思って観ていると、
ウケるネタを披露するため、どんどん追い詰められていく野見の姿からは、
次第に、愚直なまでの一所懸命さがじわじわと滲み出してくる。

「これは、ドキュメンタリーか?」

笑わせるというより、無様な姿を笑われているのだけれど、
そこに野見隆明という素人のもつ真実味が現れ、
その真実味が野見勘十郎という役柄にいつの間にか重なり、
劇中の見物人たちと同様、野見を応援し、
若君が笑うことを、ひいては娘・たえの幸せを願い、
三十日の業を見守ってしまう。

 

そして、ついに迎える三十日目。
そのクライマックスと結末では・・・!!!!!


「いや~、参りました!!」

野見勘十郎が、トウモロコシを食べていた手を止めた瞬間、
「それが、野見勘十郎にとっての“武士の一分”だったか!」と、
その覚悟が胸に迫り、
ある意味、掟破りというか、卑怯なまでの松本監督の演出によって、
笑いながら哀しみに包まれ
かつて流したことのない種類の涙が、滂沱となって頬を伝い落ちました。

感動という2文字以上に、
この『さや侍』には見事に感情を揺さぶられ、
最後にはとても温かい思いが胸に溢れてきました。


野見隆明のドキュメンタリー度:★★★★★★★★★★★★
熊田聖亜の演技力:★★★★★★★★★★★★★★★★
板尾創路の何気ない味わい度:★★★★★★★★★
スネークマンショーを思い出す度:★★★★★★★★★★
色んな意味で心揺さぶられる度:★★★★★★★★★★★★★★★★★

鑑賞後の総合評価:★★★★


松本人志監督が、破壊ではなく、創造した映画作品。
素直に気に入りました。

もし、野見勘十郎に、松本監督自身が投影されているのだとすれば、
この作品は、
彼自身から愛娘へ宛てたメッセージという一面もあるような気がしました。



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