国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

中高生のための内田樹(さま) その32

2019-02-10 18:41:48 | 中高生のための内田樹(さま)
●今回の文章で知っておいてほしいのは「負けしろ」である。

●むかし、専門学校で経済学を教えていた当初、GDPの説明のあとでこういう例を出していた。

 あるところに「風の谷」と呼ばれるところがあって、みんなで取れた食料を分け合い、その他のことも物々交換で生活をし、穏やかな生活をしていた。この谷のGDPはいくらくらいあると思う?

●答えはそう、GDPはゼロである。

●これは極端な例だが、決して「穏やかな生活」とGDPは比例関係にないことを知ってほしく出した問題(思考実験?)であった。

●そのあたりも踏まえて以下の文章に触れてほしい。



次の文章を読んで後の問いに答えなさい。


 (みんなが)心配しているような「思いがけないこと」が来ないと言っているんじゃありません。それはやっぱり来るんです。そして、システムががたがたになる。これは避けようがない。でも、日本は他の国とくらべると「負けしろ」の厚さがだいぶ違いますから。地震が来ようが、国債が暴落しようが、年金制度が崩壊しようが、そのときはそのとき、国が破れても山河が残っている限りは大丈夫です。なんとかなります。
 「負けしろ」が日本にはあります。
 それは豊かな自然です。国土の68%が森林なんです。これほどの森林率の国は先進国にはノルウェー以外にありません。多様な植生があり、さまざまな動物が繁殖し、きれいな水があふれるように流れ、強い風がよどんだ大気を吹き払う。日本のこの自然環境には値札がつけられません。
 経済の話をするとき、エコノミストはみんな「フロー」の話しかしません。でも、日本には「眼に見えないストック」があります。目の前にあるのでありがたみがわからないのですけれど、改めてそれを金を出して買おうとしたら1000兆円出しても買えないような資産です。それはまず自然資源です。飲料水がいくらでも湧き出ている。水のほとんどをマレーシアから輸入しているシンガポールから見たら羨ましくなるほどの資産です。
 でも、日本人は自分たちがそんな豊かな資産を享受していることを知りません。
 第二が銃による犯罪がほとんどないこと。アメリカは銃で年間3万人が死んでいます。一昨年、日本では銃による死者は年間4人でした。殺人発生件数もほぼ世界最低です。このレベルの治安を仮にアメリカやメキシコやブラジルで実現しようとしたら国が破産するほどの天文学的なコストを要するでしょう。
 それだけの資産がとりあえずここにある。
 その他に温泉もあるし、神社仏閣もあるし、伝統芸能もあるし、ご飯は美味しいし、接客サービスは世界一だし・・・、国民的な「ストック」はさまざまにあるわけです。
 でも、経済成長論者の方たちはこのストックをゼロ査定しておいて、フローがないカネがないと騒いでいる。日本がほんとうは豊かな国であること、みんなでフェアにわかち合えば、ずいぶん愉快に暮らせることをひた隠しにしている。そして、経済成長しなかったらもすぐに国が滅びるというような煽りをしている



問い「煽りをしている」とあるがなぜ煽るのか。








<解答例>
経済成長論者やエコノミストはフローやカネといった数値化できる既存のシステムの中で生きているので、そのシステムが崩壊したときの「負けしろ」や「目に見えないストック」の中で生きる未知の世界を否定したいから。





※ 数値化できる・・・目に見えないの反対表現






全文はこちら「GQの人生相談6月号」になります。
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