青い星の話。

2014-09-02 | Fairy tale

星をひとつ拾いました。

それは青い青い星でした。

そっと手のひらに乗せてみると、ひんやりと冷たかった。

家に帰って、テーブルの上に置いて眺めていると、その青い光に吸い込まれそうになった。

突然、ドアをノックする音がして、開けていないはずなのに、目の前に、ひとりの男の子が立っていた。

「それ、ぼくのだから、返して」

突然現れた少年は、ぶっきらぼうにそう言うと、手のひらをこちらに差し出してきた。

失礼じゃないか、なんの挨拶もなしに、と思っていると、

「それは、人間が持っていても、役に立たないものだから」

そう言って、口の端で笑みを作る少年は、この世の者とは思えない美しさを湛えていた。

髪の毛も、肌の色も、服までも、闇に溶けそうに黒い。

「役に立たないか、どうかじゃない。気に入ったかどうか、だ。」

と言うと、さも可笑しそうに顔を歪めて、

「あんた、面白いこと、言うね。じゃあ、あんたは、それが気に入ったの?」

「ああ。気に入った。綺麗な青だ。」

「ふ~ん。綺麗、ねぇ…。でも本当に綺麗かどうか、わからない」

「それはどういう意味?」

「だって、それ、悲しみだから」

「…?」

私が戸惑っていると、

「さぁ、早く。取り込まれてしまわないうちに、それ、ぼくに寄こして」

乱暴に私の手から奪い取ろうとする。

すると急に、その青い色をした星のかけらが、私にとって、一等大切なものに思えてきた。

「いやだ!」

大人げない叫び声が、私の口から漏れた。

舌打ちして、少年は、急に体を離した。


「もう一度警告するけど、それを手離すなら、今だよ」

「渡さない」

星のかけらは、手の中で、ますます輝きを増し、私を魅了した。

「どうしよう、兄さん」

少年が、急にあどけない表情で、後ろを振り返る。

すると、突然、少年の後ろに、少し年上らしい少年が、立っていた。
今度は、闇夜に浮かびあがるほど、肌も、服も、髪も、白かった。

いつの間に入り込んだんだ、と驚く暇もなく、年上の少年は、とても丁寧な口調で、

「このたびは、私の弟が失礼をいたしました。お腹立ちのことと思いますが、なにとぞ、年端もいかぬ者のしたこととお許しください。そして、今一度、その星のかけらを、私共へ返していただきたく、お願いいたします」

その慇懃無礼ともとれる物腰に、私はまたもやへそを曲げた。

「いやだね」

「こんなに頼んでもですか」

「君たちのものだという確証を見せてくれたら考えても、いい」

「そうですか…。残念です。では、それは諦めるといたしましょう」

行くよ、と、年上の少年が目で合図をして、二人は連れ立って出て行った。


後から考えれば、その美しさは、人間のそれではなかった。


それから私は、その星のかけらを掌に乗せたまま、何日も何日も過ごした。
それを持っていれば、食べる事も、眠ることも、必要なかった。

悲しいことも、辛い事も、忘れられた。

そして、いつしか、気づいたら、私のまわりが、うっすらと、青いのだ。

あれ、おかしいな、なんだ、この青さは?

そう思って手を伸ばすと、やさしく、なにかが行く手を阻む。

ああ、そうか。

私は、あの星のかけらの中にいるのだ、と、ゆっくりと悟った。

けれど何の後悔も悲しみも湧かない。

この星のかけらが、吸い取ってくれているのだ、きっと。



「あ~あ。やっぱり」


どこかで、聞き覚えのある声がする。


「兄さん、やっぱり、取り込まれてしまったようだよ」

「仕方がない。さあ、それを持って、戻ろう。いいか、今度は落とすんじゃないよ。次は、かばいきれないからね」


「うん。あ、これ、ひとまわり大きくなってる」

「仕方ないよ。そうやって、それは、大きくなっていくものだから」


…ひとつ、夜空に浮かぶ星が、その輝きを増し、大きさを変えたことに、

だれか、気づく者はいるだろうか?






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