優しさの向こう側 (カイスホstory)

2014-09-05 | 優しさの向こう側

ぼくが事務所に入って、はじめてジュンミョニヒョンを見たとき、

こんなにも綺麗な人っているんだ、と驚いた。

そして、こんなにも優しい人がいるんだとも。

 

ジュンミョニヒョンは優しい。

 

ぜったい、怒鳴らない。

ぜったい、裏切らない。

みんなに、等しく、優しい。

 

 

だから。

 

「もし、ぼくらが吊り橋なんかを渡ってて、

橋が崩れて、ヒョン以外が落ちそうになったら、

ヒョンは、どうする…?」

 

意地悪な質問を投げかけてみた。

 

「…どうする、って?」

 

読みかけの本を膝に置いて、ぼくを見つめるヒョンの瞳は綺麗で、

なんの曇りもない。

 

「…誰かひとりしか助け上げられない、としたら、どうする?」

 

その綺麗な瞳を見つめ返すぼくの瞳は、ヒョンにどう映ってるだろう。

 

「ひとりだけ…?」

「うん。ひとりだけ。その一人を助けた反動で、他のみんなは落ちてしまうんだ。」

 

なんて残酷なことを言っているのだろう、と、自分でも嫌になりながら、

ぼくはヒョンの答えをじっと待った。

死刑判決を待つときって、こんな感じだろうか、と思いながら。

 

「僕は…」

 

ずいぶんと長い間沈黙していたヒョンが、やっと口を開く。

 

「僕は、カイ、君を助けるよ…」

 

心臓が激しく波打つのがわかった。

その音が、ヒョンに聞こえてしまわないか心配になるほど。

 

ぼくがヒョンの首に腕を回して抱きつくと、

優しく、その腕をはがし、自分の腕をぼくの首に巻きつけて、

そしてぼくの耳元で、こう言葉を続けた。

 

「そして、君を助け上げた後、僕は他のみんなの後を追うよ。」

 

 

ああ。

この世でいちばん優しくて、

この世でいちばん綺麗なひとは、

この世で一番、残酷だった。

 

 

 



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