☆第68回[欧米最新情報] 対人関係療法(IPT)の今(その3)~ IPT Basicのトレーニング(シドニー、豪)に参加して~☆
前回の続きです。
今回は、IPTを支持する中核理論の「アタッチメント(愛着)理論」です。
ジョン・ボウルビィ(John Bowlby、1907年2月26日-1990年9月2日)が確立したもので、メアリー・D・エインスワース(Mary Dinsmore Salter Ainsworth、1913年12月1日-1999年3月21日)らが発展させた理論です。幼児と母親とのアタッチメント(愛着)行動の研究調査から始まり、現在では成人のアタッチメント(愛着)スタイルの理論が揃っています。Scott Stuart博士の講義では、バーソロミュー・ホロビッツの4象限モデル(参照:タイトルの右図)を使っての説明がなされました。臨床現場で有効だと立証されている、ということです。
横軸に『自己評価』(I'm OK.「自分は大丈夫」⇔I’m NOT OK.「自分は大丈夫でない)、縦軸が『他人への評価』(You’re OK.「あなたはOK」.⇔You’re NOT OK。「あなたはOKでない」)。4象限で4つのアタッチメントスタイルになります。
タイトルの右図のように、左上から時計回りに、「安全・安心型」、「不安・心配型」、「恐れ・不信型」そして「拒絶・回避型」です。治療者(セラピスト)は、安全・安心型のポジションで、クライアント(患者)がその他の3つのスタイルが一般的です。アタッチメントスタイルは、継続しやすい傾向がありますが、固定化はしない、と説明がありました。
講義では、実際の面談ビデオを視聴しながら、治療者とクライアント(患者)の一挙手一投足をprobe(観察)することになります。区切りのいいところで、講師Scott博士から受講生へ質問が投げかけられます。たとえば、「クライアント(患者)の感情は?」「クライアントのアタッチメントはどうですか?」などなど。受講生からは、積極的な反応がなされました。
「アタッチメント(愛着)理論」が幅広い、マクロな社会的文脈で記述するのに対して、「対人関係論」(Kiesler DJ, Benjamin LS, Horowitz LM) は、個人間でのミクロなコミュニケーションを記述します。両理論は密接な関係があり、対人関係論は、クライアント(患者)の不適応なコミュニケーションパターンが、「今-ここ」での対人関係の困難を引き起こすと考えます。「社会理論」(Henderson S et al, Brown GW et al) は、社会的援助のインパクトを理解するのに有効な方法ですが、上記2理論と比較すると重要性は小さくなります。
次回は、「現状分析と治療方針(Interpersonal Formulation)」と合わせて「IPTサマリー(治療計画)」の説明に入ります。
注1)バーソロミュー・ホロビッツの4象限モデル
Kim Bartholomew & Leonard M. Horowitz (1991) “Attachment Styles Among Young Adults: A Test of a Four-Category Model”
注2)タイトル左図は、「人工代理母親への子ザル実験」(米心理学者ハーロウ H.F.Harlow、1905年10月31日-1981年12月6日による)。アカゲザルの赤ちゃんは、ミルクの出る針金の冷たい代理母よりも,ミルクの出ない肌触りの良い毛布の人工代理母に長い間しがみついていた。写真は、Atkinson & Hilgard’s “Introduction to Psychology (14th Edition)” p90から引用した。©Martin Rogers/Stock Boston