★☆第71回[欧米最新情報] 対人関係療法(IPT)の今(その6/6)~ IPT Basicのトレーニング(シドニー、豪)に参加して~☆★
さて、IPT Basicの旅は、終着駅に近づいています。今回では、「中期フェーズ」の残りの対人関係問題エリアの『悲哀と喪失』、そして「終結期」および「継続的治療」を概略したあとで、「まとめ」へ邁進していきます。
「悲哀と喪失」にはいろいろな形があります。悲哀と死別の経験もそうですし、病理学上の悲哀(たとえば、不妊など)もあります。遅れてきた悲哀反応もあれば、人生での新しいコンテクストで経験された悲哀や喪失、たとえば、子供を亡くす、親と死別する、自然災害や事故による悲哀や喪失などもあります。
「悲哀と喪失」の治療目標としては、1.喪(悲嘆)プロセスを促進する、2.カタルシス(抑圧された心的外傷体験、感情を発散させ、心を浄化すること)、3.受容をうながす、4.喪失感を正常化する、などがあげられます。そのために、深く悲しめるような「安全・安心な関係」を創りあげる、ともにいる(受容的沈黙)、「役割の移行」で用いた「タイムライン」を参考にしながら、「どんなことが起こりましたか、どんな風に感じましたか」と問いつつ、その経験の浄化をはかる、浄化した気持ちをそのまま「封じ込める(containment)」、社会的な援助経験を拡大して「孤立」を軽減する、支援のためのアタッチメント・ニーズを満たす、などの方法で、クライアント(患者)をサポートします。
対人関係問題エリアだけでなく、IPT全般に用いられる手法の原則は、
- 協同的であること(一緒に治療をすすめていく)
- こころや頭にあることを書き出すこと(対人関係調査図(Interpersonal Inventory)、タイムライン、対人関係不和グラフなど)
- オープンに話し合うこと、
- 傾聴(対人関係問題の同定、認知期待の探索・明確化)と指示的(問題解決、提案の実行、評価・修正、実行)の繰り返し、となります。
さて、「終結期」のゴールとしては、治療が上手く終了する、治療効果が独立したかたちで機能するように促す、クライアント(患者)の治癒能力を高める、治療外でもアタッチメント・ニーズが満たされること、になります。そのために、治療終結のための明確な話合いが必要になります。その戦略は、1.もしその治療がうまくなされた場合は、治療者に対してのアタッチメントが起きるべきであり、2.治療者自身の感情について、オープンであってもいい、3.もし必要なら、治療に戻る(継続治療)という計画をなすことになります。それ以外の課題としては、クライアント(患者)が得たスキルを誠実に積極的に実行する、クライアント(患者)のフィードバックをレビューする、将来起こりうる問題を想定する、将来の治療計画に合意する、ことが終結期の戦略としてあげられます。
まとめ
Scott Stuart医学博士による、IPT Basicトレーニングは、2020年7月11日(土)の午前9時から12時30分(現地時間。日本時間は、午前8時-11時30分)にスタートして、計4週間(7月18日、25日および8月1日)にわたりオンラインで開催されました。毎週、予習・復習・宿題(任意)があり、奥の深い研修トレーニングでした。演習(宿題)は、対人関係調査図(Interpersonal Inventory)やタイムラインの作成、インタビューの方法などです。
受講後には、かなり専門的で有意義な理解度テスト(80問近くありました)が実施されました。
備忘録として、研修時の配布資料、テキスト、講義内容に基づき、当ブログの内容を作成しました。文責はブログ著者にあります。もし質問、関心等ございましたら、気軽にご連絡いただければありがたいです(「コメントを投稿する」で)。
なお、現テキストは、来年2021年1月頃、改訂3版が出版予定だそうです。IPTの進化が楽しみです。
注1)オンライン研修の画面は、プライバシー保護のため、ぼかしてあります。
注2)テキスト執筆者のプロフィールは、こちらです。Scott Stuart, MD(当講師、画面の2番目の人。現在は、アイオワ大学名誉教授)および Dr Mark Robertson
注3)Scott Stuart博士のYoutube ビデオ(冒頭に出てくる彼女の治療ビデオが再三講義で使用されました)。
注4)シドニ―大学生涯教育センターでのIPT Basicコースは、次回11月8日(日)-11月29日(日)にオンラインで開催される予定です。関心ある方は、積極的にチャレンジされてはいかがか、と思います。(受講料:980豪ドル、約74,000円)