過去に歯石除去を少なくとも1回受けたことのある人は、歯石除去を受けたことのない人に比べ心血管イベントのリスクが低く、歯石除去の頻度とリスク減少の程度は関連することが、台湾の大規模住民データの後ろ向き解析から明らかになった。フロリダ州オーランドで開催された第84回米国心臓協会・学術集会(AHA2011)で、台湾Taipei Veterans General HospitalのZu-Yin Chen氏が発表した。
口腔の衛生状態と心血管疾患のリスクには関連があることが知られており、歯磨きの励行は心血管イベントのリスクを低下させることが最近報告されている。
そこでChen氏らは、予防歯科処置として行われる歯石除去と心血管疾患リスクの関連について、台湾の国民健康保険データベースから抽出した1995~2007年の住民コホートのデータを利用して、後ろ向きに解析した。
解析対象は、過去に歯石除去を少なくとも1回受けたことのある5万1108人(歯石除去群)と、歯石除去を受けたことがない5万1512人(非除去群)。両群ともに心筋梗塞および脳卒中の既往がなく、歯石除去群と非除去群で年齢、性別、合併疾患を適合させて登録した。
平均7年間の追跡期間中、急性心筋梗塞(AMI)は歯石除去群で226例(0.44%)、非除去群で281例(0.55%)発生した。非除去群を対照とした歯石除去群におけるAMI発症のハザード比(HR、性・年齢・高血圧・糖尿病・脂質異常症・慢性腎臓病の有無で調整後)は0.79(95%信頼区間[CI]:0.66-0.94、P<0.05)で、歯石除去は独立したリスク低下因子と考えられた。またKaplan-Meier法によるAMI回避率も、歯石除去群の方が有意に良好だった(Log Rank P=0.027)。
脳卒中の発生は、歯石除去群1168例(2.27%)に対して非除去群1312例(2.57%)。歯石除去群の多変量調整後HRは0.87(95%CI:0.80-0.94、P<0.05)で、AMIと同様に独立したリスク低下因子となった。Kanlan-Meier法による脳卒中回避率も、歯石除去群の方が有意に良好だった(Log Rank P=0.004)。
総心血管イベントも同様で、発生数は歯石除去群1348例(2.62%)に対して非除去群1533例(3.00%)。歯石除去群のHRは0.86(95%CI:0.80-0.93、P<0.05)であり、Kaplan-Meier法によるイベント回避率は歯石除去群が有意に良好だった(Log Rank P=0.001)。
さらに、歯石除去の頻度別に「歯石除去を受けていない(非除去群)」「2年間に1回未満(低頻度群)」「2年間に1回以上(高頻度群)」に分けた傾向解析において、AMI(P for trend=0.016)、脳卒中(P for trend=0.004)、総心血管イベント(P for trend=0.001)それぞれで、歯石除去の頻度が多いほどイベントリスクが減少する有意な関連を認めた。
Chen氏は以上のデータから、「毎日の歯磨きに加えて定期的に歯石除去を行うことにより、口腔内の衛生が保たれ、将来の心血管イベントのリスクが低下することが裏づけられた」と結論した。
(日経メディカル別冊編集)