一旦岩山の陰に隠れた人影が再び現れた時、高志はその服装から、やっと女だと気が付いた。
フード付きの淡い狐色の七分コートの襟には、同じ色のボアが付いている。
黒のブーッには雪がまとわり付いている。
フードを被っているので顔は良く見えないが、時折のぞく白い面立が、強く高志の眼を射た。
二人は小屋の前でその姿が、近付くのを待った。
若い女だ。
高志は思わず何だか笑い出したくなった。
あり得ないことが起きている気がしたのだ。
近付く姿はしなやかに、弾むように揺れている。やがて二人の前に立った彼女は、両手を上げて
さっとフードをはずした。
瞬間、漆黒の髪が両の肩に溢れ出た
彼女はうるさそうに首を振り、両手でその流れる髪を後ろに弾いた。
少こし吊り上がった、一重で鳶色(とびいろ)のきつい眼が、挑むように二人を見ている。
尖った顎と通った鼻筋、その二つに抗うように引き結んだ厚めの唇が、高志をたじろがせた。
どこかちぐはぐで、見る人を不安にさせる面立だ。
高志は心の隅で、これはやはりあり得ないことだと思った。
沈黙がそんな気持ちを一層強めた。
三人は暫くはただ互いを見つめ合っていた。
いや、そうではない。女は鉄五郎だけを見ていた。
高志がその沈黙に耐え切れなくなった時、鉄さんが呻くように言った。