BioDoxology

生物と映画と政治とマレー・インドネシア語にうるさい大学生の戯言

美女とバンデット

2011-10-04 12:46:22 | 雑記
 長い長い夏休み、今年はマレーシアや東北など数々の強烈な体験をしてきたが、昨日最後にして最大、メガトン級の衝撃体験に遭遇する羽目になってしまった。

 もともと、昨日は大学の同級生たちとのバーベキューで、京王多摩川駅の近くの公園で集まって楽しんでいた。そこでいつからか遊園地の話になり、ディズニーランドや絶叫マシンの話で盛り上がっていた。そして思わず
「ジェットコースターとか乗ったこともないなあ」
と聞かれてもいないことを口走ってしまった。自分はあの手のものが大嫌いで、今までひたすら食わず嫌いを続けてきていた。思えばこれが悲劇の始まりであった。

 こんな愚か者を観て黙っていないのが、何かとお世話になっている同級生の美女2人組である。2人とも絶叫マシンが大好きらしく、うまいカモが来たといわんばかりに
「だったらこの後よみうりランド(京王多摩川から電車で2駅)に行って一緒にジェットコースター乗ろうよ!」
「一回も乗らないで嫌いって言ってたらだめじゃん」
「意外と好きかもしれないでしょ」
「生物の研究して教養人になる前に人生経験積んで常識人になろうよ」
とじゅうたん爆撃にあってしまった。この2人、絵にかいたような才色兼備で人間的にも自分が全く及ばない偉大な方々なのだが、頃自分をもてあそぶことに関しては邪神のごとき恐ろしさであり、自分をいじめるのが大好きだと公言なさるほどである(自分もそれをまんざらでもなく楽しんでいるなどとは言えない)。この2人に詰め寄られたら最後、断ることなど不可能に等しい。
「別にいやならいかなくてもいいんだよ」
と麗しき満面の笑みでいわれた時点で勝負ありである。政治学の講義で学んだルークスの二次元的権力観―賛成か反対かという争点の顕在化自体を妨げてしまう権力―の好例といえる。

 そこに、絶叫マシンは嫌いだが自分の無様な姿は見てみたいというおっさんルックの男子まで加わって圧力をかけてきた。「乗れ乗れ!僕は見てるだけだけどな」などとほざいているが、彼のパワーなどたかが知れている。どうせ乗る羽目になるなら彼を道連れにするほかない。ここは美女2人と協力して巻き込むに限る。

 というわけで、バーベキュー終了後本当によみうりランドに行ってしまった。思えば遊園地に行くこと自体10年ブリくらいである。よみうりランドは丘陵地帯を切り開いて作られたようなリッチで、駅からゴンドラに乗り、緑に包まれた広大な敷地上空を通過して入園する。外の風景の写真を撮ってテンションの上がった美女2人とは対照的に、自分と、結局乗る羽目にされた哀れなおっさんはジャングルの戦場に向かう兵士のような悲痛な心である。そしてゴンドラの前に化けもののような鉄骨がぬっと姿を現した。当園名物コースター、バンデットである。コース最上部はゴンドラより高い。どうかしてるだろ、これ。ほかにもホワイトキャニオン、モモンガという2種類のコースターがあり、美女2人は3種類全制覇しようと意気込んでいる。

 ついに入園。この時午後4時近くで、5時に閉園なのであまり時間はない。一直線にバンデットへ。バンデットとは英語で「山賊」を表すbanditで、広大な山々を見下ろしながら進むコースには悔しいながらピッタリである。列に並ぶ頃になると、恐怖が限界値を超えて肝が据わってしまい、テンションが上がってきた。以前に乗りまわされて懲りたというおっさんよりもはるかに乗り気である。なんと馬鹿な真似をしていたのだろう、この時は。そして乗車。方にハーネスをつけられ、「GO!GO!バンデット!」というスタッフの掛け声とともに巻き上げに入る。周りにならってスタッフとハイタッチ。巻き上げ中に下をのぞくと、もはや即死確定の高さ。怖すぎて高笑いの境地に入ってしまった。後ろ手は美女2人が早くも楽しく叫んでいて、隣ではおっさんが「いやだいやだー」とわめいている。最高点に達したところで恐怖が第2の限界値を超えた。もはや笑うこともできない。座席の前のバーを握る手はすでに汗でびっしょりである。まずい。落ちる。待て。待て―。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!かつて経験したことのない衝撃と風圧と恐怖が戦国騎馬軍団のように全身に襲いかかってきた。落下するにつれて心臓が握りつぶされたように痛くなってくる。これは典型的な心筋梗塞の症状じゃないか。死ぬのか?死ぬのか?痛みが最高点に達したところで落下がストップ。これほど死を意識した瞬間はない。と思いきや強烈なカーブ。なんだ、この体が下向きに飛ばされる感じは?生物として対応できないぞこんな環境は。殺す気か?ああまた落下だ。心臓が痛い。やめろ、ぐるぐるカーブするな。体がハーネスから抜けそうだ。やめてくれ。隣ではおっさんが「うわー」「ギャー」と叫んでいるが自分は叫ぶことすらできない。あまりにも詩を意識しすぎて声も出ない。さながら「リング」の真田広之状態。バーを必死につかんで前方を見つめながら、生き延びたい一心で意識を保ち続ける。まだ死なんぞ。ここで心臓が止まってたまるか―。

 どれくらいそうしていたのかわからない。気が付くとスタート地点に戻って停止していた。茫然自失。ハーネスが上がるが、立てない。美女とおっさんが一斉に「大丈夫か?」と寄ってくる。手すりにつかまりながら降車し、列に並んだ客の前を無様に通り過ぎて階段を降りる。恥ずかしいなどといってもいられない。これは本当に無理だ。笑いものになること必至の形相を美女2人にカメラで撮影されまくったがどうでもよい。何を口走っていたのかも記憶にない。確かなのは、自分の状態が3人の予想よりはるかに深刻だったということである。3人が本気で心配顔になってきている。あなたたちは悪魔か?死神か?冥界王か?

 結局、あまりに見ていられない状態になってので、その後何のアトラクションに乗ることもなく、4人で園内を閉園時間までぶらぶら歩いて出てしまった。歩いている最中でも、あの忌まわしき「GO!GO!バンデット!」の掛け声と、処刑台に連れて行くかのような巻き上げ音が耳に入り吐き気を催した。その後の落下風景を見るとそれだけで心臓が痛くなる。どうやらとんでもないトラウマを背負ってしまったらしい。

 めいいっぱい楽しんで満足げの美女2人からは
「みなよ、あれを乗り越えたんだよ!すごいじゃん!これで成長したよ!」
「バンデットは日本で乗るコースターの中でもトップクラスだからもう何でも乗れるよ!」
などと慰めの言葉をいただいたが、何を言われようと二度と乗る気など起きない。絶対に健康に悪い。あの時心臓はどうなっていたんだろうか?1人が「ああいう物理的に飛ばされたり落ちたりするのは全然怖くないし気持ちいい!」とのたまっていたので、率直に言った。
「馬鹿じゃないの!?」
こんな口のきき方をしたのは初めてだし、普段なら絶対にしないが、もう言わずにはいられなかった。そういえばおっさんはなんだかんだ言ってへっちゃらのようだ。この野郎。結局自分だけ笑いものじゃないか。帰りのゴンドラが揺れるだけでもあの恐ろしい体験がよみがえり、一人うめいてしまった。情けなさすぎる…。

 しかし、自分のせいで2人がほかのコースターに乗れなくなってしまったのは非常に申し訳ない。2人には普段足を運ぶことのない世界にしばしば連れて行ってもらっており、社会経験を積ませてもらっているので本当に感謝である。今回は代償が大きすぎたが…。ところが先ほど馬鹿呼ばわりしてしまった美女は、心理的恐怖は大の苦手で、お化け屋敷は全くだめだという。最高じゃないか。心理的恐怖はえぐい映画で相当な耐性ができている。お化け屋敷への恐怖感は自分にはない。今度はこちらがやり返す番だ。