走れば溶けるストラバイト(3)。
運動すれば尿のpHが低下する。こんな些細な発見でも、新療法の発明につながります。運動不足気味の犬や猫に運動を強制し、尿を酸性化することによってストラバイト(尿晶)の出現を防ぐ。それによって膀胱結石や尿閉を予防する。獣医療の分野で、たいへん役に立つ新療法だと思います。
この新療法の発明者は誰か。獣医療先進国の欧米から、いち早く新知見や新療法を日本に紹介するのが役目の学者先生たちは、どなたも私の言動を咎めていません。ということは、どうやら私が世界初の発明者になるようです(間違っていたらスミマセン)。よしんば、運動=尿pH低下の現象が既知であったとしても、その現象に着目してストラバイト防止のための運動療法を創始したのは、Dr.中島健次であること間違いなし。この発明のきっかけとなった些細な発見は、以下のようにして得られました。
・・前略(2002/11/21実験開始)・・「5日目、今日もダメかと半ばあきらめつつ、朝食後に3カプセル、昼食後に3カプセル、夕食後に4カプセル、合計10グラムのクエン酸を服用したところ、午後7時4分、突然、猛烈な下痢に襲われながらpH6.2の弱酸性尿が出てきました。続けて9時15分にも、激しいピーピー下痢に伴って、何とpH6.8の弱酸性尿が出てくれました」
「万歳! 毎朝毎晩、来る日も来る日もpH5.6以下の赤く染まったpH試験紙しか見てこなかった私にとって、自分の尿がpH試験紙を黄色っぽく発色させたのは初めての体験です。感激、感動、大興奮。ああまだオレの肝臓や腎臓は壊れがかっていないらしい。今まで経験したことがないほどの激しい下痢と腹痛に苦しみながらも、ホッと安心の溜息が漏れました」
「ところが、6日目の朝一番尿がpH6.8だったのです(pH5.8前後が望ましい)。怠けて夜間の尿pHを測定しなかったのですが、恐らく一晩中pH6.8の状態が持続したのではないかと思われます。そこで、この日はクエン酸の摂取を中止したのですが、どうしてなのか尿pHの上昇が止まりません。そして、午後7時半に、pH7.8という私にとっては驚天動地の凄まじいアルカリ性の尿が出てしまいました」
「全く予想もしなかった異常事態に慌ておののくのみ。豚カツ(肉が酸性食品)やアンパン(小麦粉と砂糖が酸性食品)を食べても、アルカリ状態の尿pHに変化なし。このままでは室内暮らしの犬や猫たちと同じに、ストラバイトが出て尿閉になってしまうかもしれない。どうしよう。どうしよう。心配でなかなか寝付けなかったのですが、いつのまにか眠ってしまいました」
「7日目の朝、丸一日クエン酸を摂取していなかったにもかかわらず、朝一番尿はpH7.0の中性でした。これではストラバイト形成の危険ラインです。一刻も早くpH6.6以下の安全圏内に下げなければならない。どうしよう。どうしたら良いのだろう?」
「良案が思い浮かばないまま、夜明けを待たずに日課の早朝ジョギングに出発。往復8Kmを快調にゆっくりと完走し、帰宅後いつものようにシャワーに入る前、トイレで尿pHを測定したところ、何とまあ見事にpH5.4の酸性に下がっていてくれたのです。万歳バンザーイ!」
「一時期、尿pHアップの有効手段として本気でクエン酸を推奨していたこともありましたが、以上のような実体験がありますので、前言撤回。今は、クエン酸の大量摂取が危険だから、お止めになられた方が無難です、と申し上げている次第です。もっとも、失敗は失敗として、私の方は転んでもタダでは起きません。ピカッとひらめきました」
『そうだっ! 尿のアルカリ状態が持続している犬や猫も、走らせれば効くに違いない! 乳酸などの疲労物質が筋肉に溜まるほど運動させれば、それらが腎臓で濾過されて 尿に入る。だから必ず、オレと同じように酸性の尿が出てくるようになるはずだっ!』
「コロンブスの卵みたいな話で、言われてみれば当たり前のこと。ごくごく普通の陳腐な運動療法にすぎません。でも、たちまちpHスティックご利用の飼い主様たちに実験され、効果を認証され、今や知る人ぞ知る。ストラバイト対策の最有力手段として定着しつつあります」
(Dr.中島健次著『出てますか?弱酸性尿』文芸社、2005年12月出版、p70~72から転載)
歩く・走るなどの運動をすれば、必ず尿pHが低下する。この事実に気付いたことが発見です。そして、発見は発明に変換する。すなわち、アルカリ性の尿が出続けている犬を走らせたり、猫をジャンプさせたりして四肢を活発に動かすことにより、骨組織からカルシウムや燐酸塩類などが流出しないようにすると共に、尿pHを一時的に酸性化することによって、
〔第1段階〕 尿中に燐酸塩類が含まれていても、三重燐酸結晶になるのを防止する。
〔第2段階〕 三重燐酸結晶が析出しても、ストラバイト(尿晶)に発達するのを防止する。
〔第3段階〕 ストラバイト(尿晶)になっても、これを溶かして尿閉が起こるのを防止する。
という三つの大きな効果をもたらす「ナカジマ式運動療法」は立派な発明となります。
この新療法を特許庁に方法特許として出願すれば、間違いなく特許されたことでしょう。そうなれば、ストラバイト対策として犬や猫を運動させるたんびに、何がしかの特許使用料を私に払っていただかねばなりません。でも、それでは余りにも非現実的すぎます。それ故、私の発明した運動療法は特許を出願しませんでした。
したがって、誰でも自由に運動療法を実施することができます。走らせればストラバイトが消えるのだから治療費ゼロ。こんな都合の良い新療法が普及しない訳はありますまい。
これによって、ストラバイト由来の尿閉や尿路結石に苦しむ犬や猫が減少し皆無になれば、隠居した老獣医師にとって、こんな嬉しいことはございません。製造技術の進歩で缶詰のストラバイトが過去のものになったのと同様、いずれ近い将来(私の死後?)、ペットのストラバイト(尿晶)なんてコトバは死語と化し、獣医学の教科書から削除されることでしょう。
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技術士・獣医師・農学博士 Dr.中島健次
特許pHスティック http://www4.ocn.ne.jp/~ken2/
携帯サイトhttp://ktai.at/phstick/ ご利用ください
拙著『出てますか?弱酸性尿』、ご参考にどうぞ!