リチウム電池の発火事故(2016年11月8日)

2016年11月08日 | 随筆

桑原名誉顧問からの投稿

リチウム電池の発火事故 (2016年11月8日)

 韓国サムスン電子が8月19日に発売した最新型スマートフォン「ギャラクシーノート7」が韓国や米国で充電中に発火事件を起こしたことから同社は250万台を対象とする大規模なリコールを行った。スマホのリチウム電池が充電中に発火する事故は他でもときどき発生をしているが、これほど大きな騒ぎになったことはなかった。

 
 「ギャラクシーノート7」はサムスン電子の戦略製品であっただけに、今回の事故が同社の業績に与える影響は大きい。また、ノート7に搭載されたリチウム電池の7割を供給していた世界最大手サムスンSDIは納入をストップされ、同社の株価は急落した。一方で、残る3割を担っていたTDK子会社の受注が急増、おかげでTDKの株価が上昇した。

 
 リチウム電池の発火はドコモ発足前の1980年代から続く、古くて新しい問題である。ノート7は日本で発売される以前に発売が停止されたので日本では事件発生を免れたが、世界で最初のリチウム電池発火事件は筆者の知る限り日本で発生している。

 
 1979年に世界に先駆けてサービスを開始した日本の自動車電話は、送受話器は座席に設置されたが、通信設備の本体は7リットル、7キログラムもあったので、トランクに収容していた。

 
 この自動車電話を車外でも利用したいという要望に応えて、LSI化など新技術の導入により部品点数を1/4に減らし、1.5リットル、2.4キログラムまで小型化した。これでも手で持運ぶのは大変なので、肩掛けのショルダー型とした。さらに89年、400cc、600グラムの弁当箱型を導入した。可搬型とは言えるが携帯とはまだ言えない代物である。

 
 ショルダー型、弁当箱型いずれもニッケル・カドミウム電池を使用していた。自動車などに搭載する鉛蓄電池に比べれば遥かに軽量で、当時、携帯型電子機器に使用するバッテリーとしては唯一の選択肢であった。

 
 当時、電池業界では、単位重量あたりの蓄電量が大きいリチウムを電極に使用する電池の開発が競って進められていた。金属リチウムは活性度が高く、取り扱いには注意を要する。しかし可搬型電話機を何としても軽量化したいNTT技術者は弁当型に試用することを決断した。しかし青森、甲府などで発火事件を起こしてしまった。

 
 青森の事故では顧客が火傷を負ってしまった。当時、移動電話機の販売、故障対応等は「日本自動車電話サービス」という子会社に委託していたので、さっそく同社の担当役員が謝罪に出向いた。地域のボス的存在の顧客であったので厳しい「落とし前」を覚悟したが、思いがけず優しく応接して頂いたと聞いている。

 
 その後しばらくはリチウム電池に手を出せなかった。90年発売の最初の携帯電話「ムーバー」は容積こそ150ccになったが目方は220グラムで、その多くをニッカド電池が占めていた。

 
 この頃、ムーバー製造を担うメーカーの一社である松下通信工業の社長からニッケル水素電池を採用したいという提案があった。承認するには勇気を要したが、万一事故を起こした時は社で全責任を負うという同社長の決意に動かされ、導入を決めた。結果はムーバー4社中で同社が最高のシェアを獲得した。

 
 携帯電話が広く普及したのはリチウム電池を導入して100グラム程度まで軽くなった90年代末期からである。誰が、どんな機会に採用を決断したかについて筆者は承知していない。

 
 しかしリチウム電池が過充電、過放電時に危険であることには変わりがなく、06年には大規模な発火事件があり、そして今回のサムスン電子事件へと続いている。その裏に隠れたメーカー技術者の苦衷のほどは想像に難くない。

 
追記

ノート7バッテリー発火事故の影響は大きかった。

 
 10月、米連邦航空局がノート7の機内持ち込みを禁止する措置を行い、日本の国土交通省も国内航空会社に禁止するよう指示した。

 
 サムスン電子は7~9月期のスマホ事業の利益が過去最低水準で、前年同期比96%の大幅減益になったと発表した。発火事故が相次いだ新型スマホの生産、販売終了にかかる費用が膨らんだためで、影響は来春まで続く見通し。サムスン電子は顧客の通信料の一部負担など、顧客の引き留めに躍起になっている。

 
 アップルの16年9月期は15年ぶりの減収であったが、サムスン電子のギャラクシー600万台がアイフォンに置き換わることにより、10~12月期は一転して増収になると予測されている。

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