通信事業体における固定サービスと移動サービスの区分(2014年11月19日)

2014年11月19日 | 随筆

桑原名誉顧問からの投稿

通信事業体における固定サービスと移動サービスの区分 (2014年11月19日)

関東電友会桑原名誉顧問からの投稿

 
 米通信事業の2大巨頭はベライゾンとAT&Tである。そのべライゾンが発表した7〜9月期決算は、売上高が316億ドルで前年同期比4%増であるが、純利益は37億ドルで66%も増えた。このように利益が膨らんだのは2月に携帯電話事業「ベライゾン・ワイヤレス」を完全子会社化したことによるという。

 
 一方AT&Tは、シンギュラー・ワイヤレス(SBCとベルサウスの合弁会社)が2004年にAT&Tワイヤレスを買収、その後、残ったAT&Tコーポレーションも傘下におさめ、社名をブランド価値の高いAT&Tに改めたものだ。AT&Tコーポレーションは新AT&Tの長距離通信事業を担当する子会社として存続している。

 
 今や世界中ほとんどの通信会社が移動通信を主体に事業を運営している。昨今の若者は電話といえば携帯電話か、或いはスマホを頭に浮かべる。昔ながらの固定通信は、移動通信(WiFiを含む)基地局を結ぶネットワークを提供するしか存在感がなくなってしまったようだ。

 
 韓国ではKT(コリアテレコム)の移動体通信部門が独立して移動通信会社が設立されたが、同社は1997年にSKグループの傘下に入りSKテレコムとなった。その後KTは再び移動通信会社KTFを設立し、2007年にKT内に吸収した。KTFの社長がKTの社長になったから、KTFがKTを吸収したともみえる。

 
 スペインのテレフォニカは移動通信子会社テレフォニカ・モバイルズを設立した。同社は南米、中米の全域で移動通信事業を展開するほか、英国やドイツの移動通信会社O2を買収して親会社より羽振りが良い。

 
 フランステレコムは英国の移動通信に参入して「オレンジ」社を設立したが、2006年からはフランステレコムグループ全体の統一ブランドとして「オレンジ」を用いることにした。誇り高いフランス人が英語を優先させるなど驚きである。

 
 英国では1985年に移動通信会社としてBT(ブリティッシュテレコム)系のセルネットと独立系のボーダフォンが生まれたが、BTはセルネットを子会社として掌握するのを怠った。99年にようやく子会社化しO2と称したが、O2は再びスピンオフし、その後テレフォニカに買収されてしまった。その結果BTは、移動との統合サービスを提供する際にはボーダフォンを「相棒」としている。

 
 最後に日本の現状を見る。平成4年、NTTは郵政省の分割要求を逃れる手段としてドコモを分社した。当初は部屋住みの存在であったが、今ではグループ一番の稼ぎ頭となった。しかしそのドコモが、このところ業績不振で苦心の経営を続けている。

 
 総務省はNTTグループに対し、携帯電話と固定通信サービスの「セット割引」を解禁する用意を始めた。KDDIやソフトバンクが当然のように行っているセット割引を、市場の独占につながるとしてドコモとNTTには禁止してきたが、ドコモのシェアが4割まで低下し、営業利益が3社中の最下位になる状況をみて、民営化以来NTTを縛ってきた「ドミナント規制」を見直す必要があると判断した。

 
 しかし、NTT自身が提供するフレッツ光の料金は認可の対象であり、セット割引を可能にするには法改正が必要で、実施できるようになるのは少なくとも1年半も先となる。そこでNTTは光回線サービスを今秋から一般企業に卸売りすると発表した。これを受けてドコモは来年2月から「ドコモ光」の名称で移動とのセット割引を始めるようだ。

 
 かくして、各移動通信事業者がいっせいに光を用いたブロードバンドサービスを提供することになる。「光」は移動通信事業者により「セット割の相棒」として販売される。移動通信サービスのみを提供するのは、ビッグカメラなど格安スマホを商売とするMVNO(仮想移動通信事業者)だけだ。この段階では通信事業者を「移動」と「固定」に区別して呼称するのは無意味で、トータル通信事業者になると考えてよさそうだ。

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