桑原名誉顧問からの投稿
「戦後日本のイノベーション100選」の選定について (2014年8月5日)
関東電友会桑原名誉顧問からの投稿
公益社団法人、発明協会(庄山悦彦会長)は創立110周年を記念して我が国産業経済の発展に大きく寄与したイノベーションを選定する作業を実施しており、6月18日に第一回選定結果の38項目を発表した。そのうちのトップ10には新幹線やトヨタ生産方式に加えてウォークマン、家庭用ゲーム機などの単体や発光ダイオードなどの素材が含まれている。筆者は、トップ10の中に自動車電話が含まれていないことに疑問を持った。
新幹線は高速走行車両のほかレール、架線などのインフラ、信号方式や運航制御などのIT技術を統合したトータルシステムであるが、これに匹敵する通信分野のイノベーションとしてセルラー方式移動通信がある。これは無線端末機のほか基地局送受信機と制御装置、通話を切れ目なく繋いでいく交換機等から構成されるトータルシステムであり、その技術を完成させたのは1979年にサービスを開始した電電公社自動車電話方式が世界で最初であった。このシステムが90年代に爆発的普及を見せた携帯電話に発展して行くのである。
筆者は発明協会に自動車電話方式についての検討がなされたかを電話で質問したが「上司に伺う」との返事があったきりでその後は音沙汰がない。
技術の進歩は極めて速いので奥深く且つ幅広く理解すのが極めて困難である。アンケート投票を実施するに当たっては、投票者をはじめとして結果を審議する選定委員会委員を慎重に選んでもらいたいと思う。
残りの28イノベーションのうち、主なものはトランジスターラジオ、回転寿司、自動電気炊飯器、スーパーカブ、電卓、カラオケ、自動改札システム、郵便自動処理装置、ブラウン管テレビなどである。
筆者はここにもポケットベルを加えるべきだと考える。昭和43年にサービスを開始し、平成8年には1千万加入を突破したポケットベルは携帯電話が普及する以前、出先の人に用事があることを報せる唯一の手段であった。最初はビジネスに用いる加入者が大部分であったが、平成8年には個人用途の加入者が半数を占めるに至った。今は子供がスマホを使う年齢になった女性がまだ女学生の頃、公衆電話のプッシュボタンを用いてメッセージを送った思い出があるに違いない。
さらに、日本の製品が世界を席巻したファクシミリも検討の対象に加えてもらいたいと思う。ファクシミリは漢字文化を持つ日本などにとって、印刷電信(テレックス)の不便さを解決してくれる貴重な通信端末であった。電電公社とKDDは世界に先駆けてアナログ電話回線により高速で通信できるG3方式を開発、1954年のITU国際電信電話諮問委員会に提案し国際標準として選定され、米国の電気学会IEEEのマイルストーンにも選ばれている。