KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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ロンドン・コーリング vol.5~なでしこランナー、雨のロンドンに散る

2012年08月10日 | 五輪&世界選手権
金メダルの数は予想外とは言え、連日途切れることなくメダルを獲得し続けている日本選手たち。そんな中、女子マラソンは北京に次いで、入賞にも手が届かなかった。

北京の惨敗は、悪夢のように思えた。二連覇を狙う野口みずきが欠場し、頼れるエースだった土佐礼子さんも故障を抱えたコンディションで走り出し、途中棄権。これは「不幸なアクシデント」と思い込むことにした。もちろん、テレビ中継の解説を努めた有森裕子さんが言う、

「ベストの体調でスタートラインに立つのも実力の内」

というのが正論なのではあるが。(今回の有森さんの解説は増田明美さんと比較されて不評を買っていたようだが、基本的にこの人は増田さんのようなサービス精神は無く、「正論」しか言わないひとなのだ。)

メディアにおいては、やれ道路が硬いとか空気が悪いとか謎の感染症が発生したとか、北京五輪の前はネガティブな情報ばかりが取り上げられていた。この国で「まともなオリンピック」が開けるわけが無いとばかりに。あるいは、大会が失敗に終わり、中国が赤っ恥をかくことを望んでいたのか。こうした報道が日本選手たちに影響を与えたとは考えにくいが、メディアに対する不信感は残った。

今回のロンドン五輪、市内を3周するコースはカーブも多く、道幅が3mにも狭まる。長年、国際マラソン・ロードレース協会の会長を務めた帖佐寛章氏が、

「自分が委員会のメンバーならこんなコースは認めなかった。」

と語ったという難コースである。どうして、春のロンドン・マラソンと同じコース、あるいは、1965年に重松森雄氏が当時の世界最高記録をマークしたウィンザーのコースが採用されなかったのかと思いつつ、スタートを迎えた。

雨の中スタート。気温は14℃。5km17分台のペースで推移し、日本の尾崎好美も木良子も悪くない位置につけていた。重友梨佐は一旦離されながらも、また追いつくを繰り返す。中間点を1時間13分台で通過した時点では、日本勢にも上位入りの可能性は残されていた。

24km過ぎて、本命のアフリカ勢、ケニアとエチオピアの6人が前に出て、ペースを上げ始めた。マラソンとは、他の競技の予選リーグと決勝トーナメントを2時間+αに凝縮したようなものだと僕は思っている。この最初のスパートが決勝トーナメントの幕開けだった・そこからの5kmを先頭集団は16分10秒にまで上げた。このペースアップによって、日本人ランナーたちは国際映像の画面から消えた。ここからは、ケニアとエチオピアの国別対抗戦か?と思われたがエチオピアのマレ・ディババ、アセレフェチ・メルギアが脱落。唯一残ったティキ・ゲラナは重圧をどれだけ感じたか。ケニアとエチオピアの対抗戦の中に割り込んできたのは、ロシアのタチアナ・ペトロワ・アルヒポワ。これは意外だった。ロシアなら、現在世界歴代2位の記録を持つリュボフ・ショブホワが有力候補と見られていたからだ。(ショブホワは棄権)。ペトロワは今年の東京マラソンで5位、持ちタイムは2時間25分台だが、5年前の世界選手権では3000m障害で銅メダルを獲得している。

昨年の世界選手権金メダルのエドナ・キプラガトも脱落。カメラが向けた、先頭を追うランナーたちは、国際大会では上位入賞の常連である朱曉琳、今年の大阪国際女子で重友に次いで2位でゴールしたウクライナのハメラシュミルコ、今年の名古屋で優勝したロシアのアルビナ・マヨロワらの姿を映し出した。日本のマラソン・ファンにもおなじみの顔ぶれだ。

40km過ぎて、先頭のランナーは4人。メダルは3つしかない。最初に脱落したのは、世界歴代3位のケニアのメアリー・ケイタニー。ラストスパートを見せたのはエチオピアのゲラナ。べトロワも追いつけず。昨年の世界選手権銀メダルのブリスカ・ジェプトゥーも必死で追うがゲラナが逃げ切った。タイムは2時間23分7秒の五輪新記録。2位はジェプトゥー、これでケニアは3大会連続銀メダルである。3位はペトロワ。アトランタ五輪銀のワレンティナ・エゴロワ以来、16年ぶりのメダルである。おっと、エチオピアの金メダルもファトゥマ・ロバ以来16年ぶりだった。4位にケイタニー、5位にハメラシュミルコ、6位に朱曉琳、彼女は5年前の大阪での世界選手権以来、世界選手権は3大会連続、五輪は2大会連続入賞である。2年前のアジア大会は銀メダル、と油谷繁さんと伊藤国光さんを足して2で割ったようなランナーに思えた(マラソン・マニアでないと分かりにくい喩えかも。)。7位はポルトガルのジェシカ・アウグスト。彼女もペトロワ同様に、3000m障害の代表で北京五輪では5位に入賞している。ポルトガルと言えば、ソウル五輪で金メダルを獲得し、日本でも人気が高かったロザ・モタを思い出す。カトリックの国で女性が素肌をさらすマラソンは、陸連からも冷遇されていたという。モタが日本を愛したのも、日本人がマラソンを愛し、優れたマラソンランナーには国籍を超えて敬意を示すからだったというが、モタの後継者だったマニュエラ・マシャドも、五輪や世界選手権では強かったのも、国内における女子マラソンの地位を高めるためだったのかもしれない。横浜国際女子や大阪国際女子でも入賞しているマリサ・バロスもゴールして、アウグストと抱き合っていた。8位はレース前半、先頭を引っ張っていたイタリアのヴァレリア・ストレイネオ。沿道に笑顔で手を振りながら走る姿が中継アナと解説の有森さんの笑いを誘っていたが終盤かなり粘った。短絡的な連想では、イタリアというと陽気で快楽志向が強くて、忍耐とか勤勉といったイメージのマラソンとは縁が無さそうだが、男子マラソンでは2人も金メダリストを生み出している国である。9位にはマヨロワ。10位、11位にはシャレーン・フラナガン、カラ・ガウチャーとアメリカのランナーが揃って入った。2人ともマラソンのベスト記録は日本選手より下回るが、10000mのメダリストである。14位にはドイツのイリーナ・ミキテンコ。今年40歳だが五輪は初めて。4年前の北京に欠場直後のベルリンで2時間19分台を出しているランナーだ。全盛期が五輪とは重ならなかったのが惜しまれる。

こうして書いていくと、日本選手の前にゴールしているランナーも錚々たる顔ぶれだなと思えてきた。木は16位。尾崎は19位。十分なトレーニングが積めなかったという重友は78位だが、日本人上位2人のタイムは2時間27分台。過去の日本人ランナーの五輪のタイムとしては、アテネでの野口みずきのタイムに次ぐものである。高橋尚子さんが五輪新記録を出したシドニーで7位入賞の山口衛里さんのタイムは上回っている。

しかし、もはやそのタイムでは世界のトップ8にも入れない。

地元英国代表のマーラ・ヤマウチ。日本人の夫を持つ元外交官で、日本でもファンの多かったランナーだが9kmでリタイア。大黒柱であるポーラ・ラドクリフが欠場したが、彼女も足を痛めていたようだ。スタートラインに立った彼女の心境は4年前の土佐礼子さんと似たものだったかもしれない。


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