KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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ベルリン・天使の疾走~世界選手権雑感 vol.7

2009年09月13日 | 五輪&世界選手権
キルイは2時間6分54秒の世界選手権大会最高記録でゴールした。2位のムタイも終盤、胃の中身を戻しながらもへばりつき、2時間7分48秒でゴール。3位はメルガではなく、1度は脱落したケベデだった。北京に続いて、高速ランナーが夏の世界選手権でも力を発揮するレースとなった。

そして、佐藤敦之。40km過ぎて順位は9位。ラスト1kmで、「佐藤劇場」が幕を開いた。アンナニだけでなく、もう1人のランナーの背中が見えた。しかも、かなりへたばっている。

ここまで、ぎりぎりで残していたエネルギーを一気に放出したかのような走りを見せた。ラスト1kmでどうしてここまで、と思えるほどの勢いでスパートをかけて1人を捕らえ、さらにアンナニの前へ出た。その直前にはサングラスを投げ捨てた。これで入賞はしっかり確保した。

7位でゴール、かと思ったら画面に出たテロップは6位。メルガが途中棄権していたのだという。7位にアンナニ。そして清水!しかし、ゴール手前で3人のランナーにかわされてしまった。前半の転倒からよくぞここまで順位を上げたと評価したいところだが、最後の詰めが甘かった。8位は北京五輪でも、前半唯一アフリカ勢に食らい付いていたスペインのホセ・マニュエル・マルティネス。昨年の福岡では入船、藤原の後塵を浴びたものの、選手権本番ではきっちりと結果を残した。9位にはホセ・モレイラ、10位にはルイス・フェイテリアのポルトガル勢が入った。スペインにポルトガル、かつてのマラソン強国だったが、この数年は目立つランナーがいなかった。これを復活の足がかりと出来るだろうか。

佐藤以外の日本人ランナーについて語ろう。

最後の最後で集中力を切らして、掌中の入賞を逃した清水将也。双子の弟、智也とは西脇工業、日本大で駅伝で活躍。ところが決して少なくない双子ランナーの中では珍しく、兄は旭化成、弟は佐川急便と別々の企業に入った。

兄の将也は日大時代に熊日30kmで1時間30分の学生最高記録をマークするも、優勝は逃した。(松宮隆行が1時間28分36秒の世界最高記録で優勝した年である。)同じレースを3年後に智也が優勝するも、タイムは兄より1分以上遅い。昨年、将也は延岡で5回目のマラソンにして初優勝を果たしたが翌月のびわ湖で智也は初マラソンで2時間10分の壁を切ってみせた。兄弟、どちらが強いか、単純に答えが出せないような結果を残しているところが面白い。

今年のびわ湖で初の兄弟直接対決が実現。先着した兄が今回の代表となったが、2時間10分台の持ちタイムで夏のマラソンで14分台というのは、自分の実力は出し切った結果だと思える。この兄弟がもっと、高いレベルで争っていければ、と思う。

14位でゴールした入船敏。34歳のベテランでトラック代表も含めると世界選手権に3度出場、アジア大会にも4位入賞しているが、総じて、海外でのレースでは力を出し切っていない傾向がある。悪い意味で「ベテランらしさ」が無い印象が受けるが、裏返せば、まだまだ伸びる要素が残っていそうだ。優勝か、自己記録の大幅更新で一皮向けて欲しい。

前回は10000mで代表入り。今年の東京で初マラソンで2位になり、代表となった前田和浩。所属先である九州の古豪、九電工からはメキシコ五輪代表の佐々木精一郎さん以来、41年ぶりにマラソン日本代表入りである。全日中優勝から、高校駅伝の強豪、白石高校から九電工入りし、駅伝で実力をつけてきたランナーだ。しかしながら、結果は39位。今回は経験不足が露呈した感じである。今年の東京は終盤強風にさらされ、優勝タイムも2時間10分台だったが、そんなコンディションでもサブテン(2時間10分切り)が出せるようでないと、世界の大舞台では戦えないということだろう。初マラソンが自己ベスト、で終わらないようにして欲しい。

前半は佐藤らについていた藤原新。昨年の東京で2時間8分40秒の好記録を残し、北京五輪の補欠代表に選ばれた。痙攣に見舞われながらも、ペースダウンを最少に抑えるレースぶりにたくましさを見たが、彼は好調時と不調時の差が大きすぎる。今回は61位、女子のトップにも届かない記録に終わった。僕が彼に対して最も不満に思うのは、マラソンとマラソンとの間に招待されるハーフマラソン等のレースで、きちんと結果を出していないところである。昨年の仙台ハーフ、今年の丸亀ハーフに札幌ハーフ、いずれも先頭からは大きく離れてゴールしている。「練習の一環」と割り切り、体調が悪い時は無理して追い込まないということにしているのかもしれない。それを全否定はしない。ただ、「マラソンウォッチャー」の立場からは、こうした大会で順位や記録をきちんと出してこそ、
「藤原は強いぞ。」
というアピールが出来るのに、と思うのだが。研究熱心といわれているが、理屈を越えた泥臭い走りも見せて欲しい。

ケニア、エチオピアの2大マラソン強国のランナーとの実力差は歴然としていた。とても、同じ土俵では戦えない。「不甲斐無い」
と思う人がいるかもしれない。しかし、円谷幸吉さんが銅メダルを獲得した東京五輪も、君原健二さんが銀メダルを獲得したメキシコ五輪でも、優勝したアベベ・ビキラ、マモ・ウォルデとは4分以上の差をつけられていた。金メダリストとがっぷり四つに組んで、勝負をした末に銀メダルを獲得したのは、バルセロナ五輪の森下広一さんが最初、で、もしかしたら最後かもしれない。

円谷さんも君原さんも、自分の力を信じて、トップの見えない背中を追い続けてメダルを獲得した。最後まであきらめなずに自分を信じること。それを忘れなければ、いつかはうっすらと、見えない背中が見えてくる。僕もそう信じよう。

かつてのマラソン強豪国だった、スペイン、ポルトガルも今回は自分のペースを守りぬく走りで上位に食い込んだ。彼らも、ケニア&エチオピアに追いつけず、苦悩しながら、「独自の戦い」がいつか身を結ぶと信じる道を選んだのかもしれない。

最後に、今回の中継アナは本当に言い間違いが多かった。マラソン中継は初めてでもないはずなのにどういうことか。



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