私はまるっきり霊感がない。しかし霊的な方面での恐怖体験はある。
せっかく夏なので、人生における恐怖体験を全部書ききってみたい。
人生初の恐怖体験は、小学校時代の怪談大会。私の自宅に友人3人が
やってきて、雨戸を閉めて真っ暗にして、中央のテーブルにろうそくを
立てて火をともし、4人で怪談をはじめた。
1人がぽつりと言った。
「…霊がいるときって、ろうそくの火が丸くなるんだって」
ろうそくの火は確かにその時、縦長でなく縦横比同じくらいの円に
なっていたが、当時は「たまたまろうそくの加減でそんな火の形に
なったから、それっぽいことを言って盛り上げてるんだろうな」
としか思わなかった。ほんとに「火が丸くなると霊が…」っていう
話があるのね。知らなかった…
他の2人もそのくらいの認識だったらしくて、怪談はそのまま続いた。
だが、途中で突如、何の前ぶれもなく「キャー!」「やだー!」と
叫び声をあげて、友人3人がいっせいに部屋を出ていってしまった。
慌てて追いかけて聞いてみると…
「〇〇ちゃんの横に、人の影がもう一つあった」
ふと気づいたら私の影の横に影が増えていて、気づいた子の視線の
動きであとの2人も気がついて、いっぺんに逃げだしたらしい。
私は自分の背後を見ていないので、置き去りになったというわけだ。
みんなの荷物は怪談部屋に置きっぱなし。
でも、みんなが涙目で「あの部屋に戻るのやだ」と言っている。
私は影を見ていないので、気味は悪かったが部屋に戻ってまず電気を
つけて、みんなの荷物を取ってきて、会はそれでお開きになった。
それから2、3年、私はその部屋で寝起きしていたが、とくだん奇怪な
ことは起こらなかった。
次は中学校、福岡時代の「九重キャンプ」。
福岡時代に1学期だけ通った中学、出席番号は女子が先の通し番号で、
A組出席番号5番の私は1番のテントの割り当てだった。
「このキャンプ場、1番テントが『出る』んだって」とのウワサ。
いやいや普通は4番とか13番とかでしょ。
夜、消灯後、一人の子が不審げにつぶやいた。
「…なんか、このテントの周りをうろうろしてる人がいない?」
時々、外のライトが人影で遮られているらしい。しばらくみんなで
テントの外をうかがっていたら、「あっ」「今、通ったよね」など
影を見つけた人が声をあげた。私は全然わからなかった。
消灯後はテントを出てはいけないことになっている。人が通るはずは
ないが、悪ガキ男子かもしれないし、あるいは不審者かもしれない。
それで我々はみんなで様子を見るために、全員(5人)で外に出た。
「こらっ、おまえたち、外に出るのは禁止だぞ」
見回りの先生にソッコー見つかり、皆で事情を説明した。
「いや、交替で見張りしてるけど、誰もうろついてないぞ。君たちが
出てきたのもすぐわかったくらいだし」
結局そのままテントに戻って、そのまま平和にキャンプを終えた。
影を見た人たちは「怖い」と気味悪がっていたが、影を見ていない
私は「気のせい、気のせい」と、平和なものだった。
私が高校1年生のとき、東京都板橋区にある私の家は建て替えられた。
数年後、弟が余計なことを言う。
「俺の友達で、霊が見えるっていう人がいて、怖いから俺の部屋は
見てもらわなかったんだけど、おまえの部屋は2人いるって」
勝手に人の部屋を霊視させんな! まあ、私は見えてないからいっか、
と気にしないことにした。
大学時代、漫研のお泊まり会的なものを我が家でやった。
来たのは大半男で、私以外の唯一の女子は早々に一人で私の部屋に
引っ込んで寝てしまった。私の部屋は二階にある。
LDK部分でみんなでゲームをやって次々寝落ちしたので、他の人は
全員一階から出ていない。
女子は翌朝、下りてきて開口一番、
「昨夜、起こしに来たの誰? 〇〇ちゃん?」
と言う。漫研文化では、女子の一人で寝ている部屋にうっかり男子が
行こうものなら大事件の大惨事となる。二階に行く可能性があるのは
唯一、私だけ。だが、私はゲーム「かまいたちの夜」が怖くて布団を
かぶっていたらそのまま寝てしまったので、一階で朝を迎えた。
彼女が言うには、足もとを揺すられて起こされたのだとか。
二階に行き、部屋のドアを開けて入らないと、彼女の足は揺すれない。
誰も該当しないので、彼女は「おかしいなー、揺すられて、誰かが
起こしに来たんだなーと思ったんだけど」と首をかしげていた。
ふと、弟の友人が「2人いる」と言っていたのを思い出したが、
彼女にはそのことは言わなかった。
さて、大学の研修旅行。霊的体験としては、これが私自身、一番の
恐怖体験。でも実際は何があったわけでもないので、一生懸命書いた
ところで何も伝わらないと思う。
研修旅行は日本文学科の仲良し6人組で班になっていて、一泊めの
「〇〇シーサイドホテル」というところでは和室で6人一緒だった。
1人は早々に寝てしまい、1人が超ハイテンションであれこれ妙に
しゃべっていて、4人は相槌を打ったり合いの手を入れたりしながら
楽しい夜を過ごした…というのは見せかけの話。
実は、何が…かはわからないが、すさまじく怖かった。
1人が明るく楽しくしゃべっていてくれるのがほんとに救いだった。
重苦しい圧迫感と、「何も起こってくれるな」という切迫感があり、
夜が更けていつの間にか寝てしまうまで、2、3時間くらいの間、
とにかく怖くて怖くて怖くて怖くて、どうしようもなかった。
翌朝、なんと、同室の1人が「なんか、実は昨夜、意味もなく妙に
すっごい怖かったんだよね…」と言いだした。まじで!!!
「実は私も!」と私が言うのと同時に「やっぱ!?」「ほんとに?
私だけかと思ってた!」と他の2人も言った。すると、1人でやたら
盛り上がってた子がマジな目で言った。
「実は私、なんかものすごく怖くて、ずっとしゃべってないと絶対に
まずい、と思ってあんなにしゃべってたんだよね…」
早々に寝た1人は何も感じないでただ寝てただけだった。でも、
起きていた5人は全員、理由もなく「なぜか、怖い」と怯えきって
いたらしい。みんなが同様に「怖い話とかは絶対にしてはいけない」
「誰かが怖い話を始めたりしないように面白い話題を続けなければ」
などと思っていた。理由はわからない。
なお、二泊めは2人ずつの部屋に分かれての宿泊となったが、前日に
こんな思いをしたというのに、5人全員が「今度は全然怖くなかった」
と意見が一致した。(寝てた1人は蚊帳の外、笑)
これは「なんか、皆で、怖かった」としか書きようがなくて、怪談と
してはまったくインパクトがないが、あの重苦しい恐怖感はいったい
何だったのか、まったく説明がつかない。
集団心理でそうなったわけではなく、当日は「なんで私、一人で
こんなに怖い気持ちになっちゃってるんだろう、皆は楽しんでるのに」
と思っていた。しかもそれが全員だった。他のそれっぽい出来事より、
私はとにかくこの時の出来事が人生で一番怖かった。
親友が金持ちの息子だったので、悪友どもと奴の家の別荘に集まって
ゲーム合宿をするのが恒例だった。
夜、調子に乗って海辺に出かけて散歩をすることも多々あった。
ある日、ボードウォークを一列になって歩いていると、私の前を歩く
3人がいっせいに振り返った。
「えっ、なになに?」
最後尾を歩いていた私はそれを見てきょろきょろした。
「…今、ビーチサンダルをはいた人がすぐそばでボードウォークに
飛び乗ったみたいな振動がありましたよね」
4人で歩いてるのに、別の誰かがぽーんと近くに乗っかってきた
感触があって、見知らぬ変な人だったら嫌だから慌てて振り返った
そうだ。いや私は全然そんなの感じなかったよ?
「いや絶対誰か乗った感覚ありましたって」「はっきり感じましたよ」
うーん、確かに3人同時に振り返ったなあ…。
「私の歩いてる振動じゃないの?」
「それはちゃんと、ずっと伝わってるんですよ。それとは別」
「絶対、誰かが飛び乗りました」
3人は気味悪がってたけど、私は感じなくてよかったー。
社会人になって、現ダンナ、当時彼氏が我が家に泊まった時のこと。
彼は私の部屋に一人で寝て、私は母の部屋に母と寝たんだけど…
朝、彼が「昨夜、足元を踏まれたんだけど、入ってきてないよね」と
言うではないか。いや全然行っとらん。
「一回は気のせいかなーと思ったんだけど、もう一回、足と足の間
くらいをしっかり踏まれた感覚があって…」
その位置、前に漫研合宿で「足を揺すられた」と言ってた女子と同じ。
(ベッドでなく布団敷きなので常時布団位置は変化するが、この時の
足の位置はドンピシャで同じだった)
しかも、現ダンナ・当時彼氏のこの人は、そういう冗談を言う人でも
変に私を怯えさせようとする人でもない。温厚温和で冷静かつ聡明な
現実主義者だ。実際に踏まれた感触があって言っているのだろう。
これはさすがに、私としては「やっぱり、私の部屋、『2人いる』
って話だったからなー」という結論になった。しかも、「つまりは
この場所にいるのかも?」という位置が1つ、確定したようなもの。
私はなーんにも感じたことないけどね。霊感なくてよかった。
以来、私は座右の銘を「知らぬが仏」にした。
さて、1997年とか1998年とかいう頃になっても、私は
友人との通信にまだまだFAXを愛用していた。絵を描いた方が
伝わりやすかったり、字の加減でノリを表現できたりして便利だ。
ただ、古いFAXをダイヤル信号のボロ電話につないでいたので、
いろいろ不便な仕様になっていた。
・「受信」ボタンを押さないとFAXが受信できない。
(自動受信設定は電話に差し支えるので常時手動にしてた)
・電話を取って「ピ~ヒャラヒャラ…」というFAXの音を聞いて
から受信ボタンを押すため、その「はい、〇〇ですが…、あ。」
などの電話応対の声が先方にまる聞こえ。
ある日、私と弟と両親は揃って外食に行った。我が家はめったに
外食をしないのだが、十年に一度くらいのレアな外食。
帰宅してみるとFAXからべろーんと紙が出ている。
ええっ!? 手動じゃないと受信できないはずのFAXが…??
疑問に思った私はFAXの発信者である友人に問い合わせてみた。
「FAXは普通に送れたか、何か普段と違うことはなかったか?」
返事はこうだった。
「え、普通に送れましたよ。ああ、でも、取ってくれたのおばあ様
だったんじゃないですかね、FAXのことがわかんないみたいな、
あれ、あれ…って戸惑ったような声が電話から聞こえてました」
同居してた祖母、1年前に死去してますが!
その時刻、我が家はまるっきり留守でしたが!
これは「何かしら、機械の加減だろう」ということにしたものの、
本当はどうだったのか、いまだにわからない。
いつも我が家にFAXを送って「はい〇〇ですが…あ、FAXか」
という声を聞いている友人が、いつもどおりの対応を受けて送信
したはずなんだけどね…。電話に出たのは、誰!?
ということで、怖い話が苦手な人でもとくだん怖くない怪談は
これでおしまい。
他の人が「何か」を感知してもまるっきり気がつかなかった…
という話ばかりで、私の霊感のなさ加減が際立つ。
だが、その私が重い霊的恐怖に震えて過ごしたあのホテルって…。
これらはすべて二十代のころまでの話。三十を過ぎてからは、
それに近いことも何も起こっていなくてホッとする。
怪談になるような武勇伝なんて、ないのが一番。知らぬが仏だね!
せっかく夏なので、人生における恐怖体験を全部書ききってみたい。
人生初の恐怖体験は、小学校時代の怪談大会。私の自宅に友人3人が
やってきて、雨戸を閉めて真っ暗にして、中央のテーブルにろうそくを
立てて火をともし、4人で怪談をはじめた。
1人がぽつりと言った。
「…霊がいるときって、ろうそくの火が丸くなるんだって」
ろうそくの火は確かにその時、縦長でなく縦横比同じくらいの円に
なっていたが、当時は「たまたまろうそくの加減でそんな火の形に
なったから、それっぽいことを言って盛り上げてるんだろうな」
としか思わなかった。ほんとに「火が丸くなると霊が…」っていう
話があるのね。知らなかった…
他の2人もそのくらいの認識だったらしくて、怪談はそのまま続いた。
だが、途中で突如、何の前ぶれもなく「キャー!」「やだー!」と
叫び声をあげて、友人3人がいっせいに部屋を出ていってしまった。
慌てて追いかけて聞いてみると…
「〇〇ちゃんの横に、人の影がもう一つあった」
ふと気づいたら私の影の横に影が増えていて、気づいた子の視線の
動きであとの2人も気がついて、いっぺんに逃げだしたらしい。
私は自分の背後を見ていないので、置き去りになったというわけだ。
みんなの荷物は怪談部屋に置きっぱなし。
でも、みんなが涙目で「あの部屋に戻るのやだ」と言っている。
私は影を見ていないので、気味は悪かったが部屋に戻ってまず電気を
つけて、みんなの荷物を取ってきて、会はそれでお開きになった。
それから2、3年、私はその部屋で寝起きしていたが、とくだん奇怪な
ことは起こらなかった。
次は中学校、福岡時代の「九重キャンプ」。
福岡時代に1学期だけ通った中学、出席番号は女子が先の通し番号で、
A組出席番号5番の私は1番のテントの割り当てだった。
「このキャンプ場、1番テントが『出る』んだって」とのウワサ。
いやいや普通は4番とか13番とかでしょ。
夜、消灯後、一人の子が不審げにつぶやいた。
「…なんか、このテントの周りをうろうろしてる人がいない?」
時々、外のライトが人影で遮られているらしい。しばらくみんなで
テントの外をうかがっていたら、「あっ」「今、通ったよね」など
影を見つけた人が声をあげた。私は全然わからなかった。
消灯後はテントを出てはいけないことになっている。人が通るはずは
ないが、悪ガキ男子かもしれないし、あるいは不審者かもしれない。
それで我々はみんなで様子を見るために、全員(5人)で外に出た。
「こらっ、おまえたち、外に出るのは禁止だぞ」
見回りの先生にソッコー見つかり、皆で事情を説明した。
「いや、交替で見張りしてるけど、誰もうろついてないぞ。君たちが
出てきたのもすぐわかったくらいだし」
結局そのままテントに戻って、そのまま平和にキャンプを終えた。
影を見た人たちは「怖い」と気味悪がっていたが、影を見ていない
私は「気のせい、気のせい」と、平和なものだった。
私が高校1年生のとき、東京都板橋区にある私の家は建て替えられた。
数年後、弟が余計なことを言う。
「俺の友達で、霊が見えるっていう人がいて、怖いから俺の部屋は
見てもらわなかったんだけど、おまえの部屋は2人いるって」
勝手に人の部屋を霊視させんな! まあ、私は見えてないからいっか、
と気にしないことにした。
大学時代、漫研のお泊まり会的なものを我が家でやった。
来たのは大半男で、私以外の唯一の女子は早々に一人で私の部屋に
引っ込んで寝てしまった。私の部屋は二階にある。
LDK部分でみんなでゲームをやって次々寝落ちしたので、他の人は
全員一階から出ていない。
女子は翌朝、下りてきて開口一番、
「昨夜、起こしに来たの誰? 〇〇ちゃん?」
と言う。漫研文化では、女子の一人で寝ている部屋にうっかり男子が
行こうものなら大事件の大惨事となる。二階に行く可能性があるのは
唯一、私だけ。だが、私はゲーム「かまいたちの夜」が怖くて布団を
かぶっていたらそのまま寝てしまったので、一階で朝を迎えた。
彼女が言うには、足もとを揺すられて起こされたのだとか。
二階に行き、部屋のドアを開けて入らないと、彼女の足は揺すれない。
誰も該当しないので、彼女は「おかしいなー、揺すられて、誰かが
起こしに来たんだなーと思ったんだけど」と首をかしげていた。
ふと、弟の友人が「2人いる」と言っていたのを思い出したが、
彼女にはそのことは言わなかった。
さて、大学の研修旅行。霊的体験としては、これが私自身、一番の
恐怖体験。でも実際は何があったわけでもないので、一生懸命書いた
ところで何も伝わらないと思う。
研修旅行は日本文学科の仲良し6人組で班になっていて、一泊めの
「〇〇シーサイドホテル」というところでは和室で6人一緒だった。
1人は早々に寝てしまい、1人が超ハイテンションであれこれ妙に
しゃべっていて、4人は相槌を打ったり合いの手を入れたりしながら
楽しい夜を過ごした…というのは見せかけの話。
実は、何が…かはわからないが、すさまじく怖かった。
1人が明るく楽しくしゃべっていてくれるのがほんとに救いだった。
重苦しい圧迫感と、「何も起こってくれるな」という切迫感があり、
夜が更けていつの間にか寝てしまうまで、2、3時間くらいの間、
とにかく怖くて怖くて怖くて怖くて、どうしようもなかった。
翌朝、なんと、同室の1人が「なんか、実は昨夜、意味もなく妙に
すっごい怖かったんだよね…」と言いだした。まじで!!!
「実は私も!」と私が言うのと同時に「やっぱ!?」「ほんとに?
私だけかと思ってた!」と他の2人も言った。すると、1人でやたら
盛り上がってた子がマジな目で言った。
「実は私、なんかものすごく怖くて、ずっとしゃべってないと絶対に
まずい、と思ってあんなにしゃべってたんだよね…」
早々に寝た1人は何も感じないでただ寝てただけだった。でも、
起きていた5人は全員、理由もなく「なぜか、怖い」と怯えきって
いたらしい。みんなが同様に「怖い話とかは絶対にしてはいけない」
「誰かが怖い話を始めたりしないように面白い話題を続けなければ」
などと思っていた。理由はわからない。
なお、二泊めは2人ずつの部屋に分かれての宿泊となったが、前日に
こんな思いをしたというのに、5人全員が「今度は全然怖くなかった」
と意見が一致した。(寝てた1人は蚊帳の外、笑)
これは「なんか、皆で、怖かった」としか書きようがなくて、怪談と
してはまったくインパクトがないが、あの重苦しい恐怖感はいったい
何だったのか、まったく説明がつかない。
集団心理でそうなったわけではなく、当日は「なんで私、一人で
こんなに怖い気持ちになっちゃってるんだろう、皆は楽しんでるのに」
と思っていた。しかもそれが全員だった。他のそれっぽい出来事より、
私はとにかくこの時の出来事が人生で一番怖かった。
親友が金持ちの息子だったので、悪友どもと奴の家の別荘に集まって
ゲーム合宿をするのが恒例だった。
夜、調子に乗って海辺に出かけて散歩をすることも多々あった。
ある日、ボードウォークを一列になって歩いていると、私の前を歩く
3人がいっせいに振り返った。
「えっ、なになに?」
最後尾を歩いていた私はそれを見てきょろきょろした。
「…今、ビーチサンダルをはいた人がすぐそばでボードウォークに
飛び乗ったみたいな振動がありましたよね」
4人で歩いてるのに、別の誰かがぽーんと近くに乗っかってきた
感触があって、見知らぬ変な人だったら嫌だから慌てて振り返った
そうだ。いや私は全然そんなの感じなかったよ?
「いや絶対誰か乗った感覚ありましたって」「はっきり感じましたよ」
うーん、確かに3人同時に振り返ったなあ…。
「私の歩いてる振動じゃないの?」
「それはちゃんと、ずっと伝わってるんですよ。それとは別」
「絶対、誰かが飛び乗りました」
3人は気味悪がってたけど、私は感じなくてよかったー。
社会人になって、現ダンナ、当時彼氏が我が家に泊まった時のこと。
彼は私の部屋に一人で寝て、私は母の部屋に母と寝たんだけど…
朝、彼が「昨夜、足元を踏まれたんだけど、入ってきてないよね」と
言うではないか。いや全然行っとらん。
「一回は気のせいかなーと思ったんだけど、もう一回、足と足の間
くらいをしっかり踏まれた感覚があって…」
その位置、前に漫研合宿で「足を揺すられた」と言ってた女子と同じ。
(ベッドでなく布団敷きなので常時布団位置は変化するが、この時の
足の位置はドンピシャで同じだった)
しかも、現ダンナ・当時彼氏のこの人は、そういう冗談を言う人でも
変に私を怯えさせようとする人でもない。温厚温和で冷静かつ聡明な
現実主義者だ。実際に踏まれた感触があって言っているのだろう。
これはさすがに、私としては「やっぱり、私の部屋、『2人いる』
って話だったからなー」という結論になった。しかも、「つまりは
この場所にいるのかも?」という位置が1つ、確定したようなもの。
私はなーんにも感じたことないけどね。霊感なくてよかった。
以来、私は座右の銘を「知らぬが仏」にした。
さて、1997年とか1998年とかいう頃になっても、私は
友人との通信にまだまだFAXを愛用していた。絵を描いた方が
伝わりやすかったり、字の加減でノリを表現できたりして便利だ。
ただ、古いFAXをダイヤル信号のボロ電話につないでいたので、
いろいろ不便な仕様になっていた。
・「受信」ボタンを押さないとFAXが受信できない。
(自動受信設定は電話に差し支えるので常時手動にしてた)
・電話を取って「ピ~ヒャラヒャラ…」というFAXの音を聞いて
から受信ボタンを押すため、その「はい、〇〇ですが…、あ。」
などの電話応対の声が先方にまる聞こえ。
ある日、私と弟と両親は揃って外食に行った。我が家はめったに
外食をしないのだが、十年に一度くらいのレアな外食。
帰宅してみるとFAXからべろーんと紙が出ている。
ええっ!? 手動じゃないと受信できないはずのFAXが…??
疑問に思った私はFAXの発信者である友人に問い合わせてみた。
「FAXは普通に送れたか、何か普段と違うことはなかったか?」
返事はこうだった。
「え、普通に送れましたよ。ああ、でも、取ってくれたのおばあ様
だったんじゃないですかね、FAXのことがわかんないみたいな、
あれ、あれ…って戸惑ったような声が電話から聞こえてました」
同居してた祖母、1年前に死去してますが!
その時刻、我が家はまるっきり留守でしたが!
これは「何かしら、機械の加減だろう」ということにしたものの、
本当はどうだったのか、いまだにわからない。
いつも我が家にFAXを送って「はい〇〇ですが…あ、FAXか」
という声を聞いている友人が、いつもどおりの対応を受けて送信
したはずなんだけどね…。電話に出たのは、誰!?
ということで、怖い話が苦手な人でもとくだん怖くない怪談は
これでおしまい。
他の人が「何か」を感知してもまるっきり気がつかなかった…
という話ばかりで、私の霊感のなさ加減が際立つ。
だが、その私が重い霊的恐怖に震えて過ごしたあのホテルって…。
これらはすべて二十代のころまでの話。三十を過ぎてからは、
それに近いことも何も起こっていなくてホッとする。
怪談になるような武勇伝なんて、ないのが一番。知らぬが仏だね!