亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(96)

2018-04-20 08:42:00 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
あれから1ヶ月が経った。

樋口の父が単身、また学園に訪れた。

樋口は素行の悪さもすっかり治り
制服もきちんと着用するようになった。
成績は元々そんなに悪くはなかったが
提出物を出さずにテストの点だけを取っても
評価は良くならなかった。
それも少しずつ改善されて、学習にも真面目に
取り組んでいることが形になって現れてきた。

誰しもが学園側の根気強い指導が実ったと
自負していたのである。

職員室で、樋口の父が訪ねてきたと聞いたとき
美月にはなぜか胸騒ぎがした。

「樋口。お父さん来てるよ。なんかあったの?」

美月は樋口のクラスに行き、さりげなく尋ねた。

「え?親父、今日も会社に行ったけど。
俺はなにも聞いてないよ。」

美月は首を傾げた。おかしいな。
子どもになにも言わずに、父親が学校に来るだろうか。







「あ、美月先生。」

学園長は上機嫌だった。

「え、樋口のお父さんは?」

美月は二棟離れた校舎の端から走ってきたが
間に合わなかったようだ。

「お帰りになったけど、美月先生と旦那さんには
改めてお礼がしたいと仰ってね。連絡先を訊かれて
ご自宅の住所をお伝えしたんだけど」

「はあああああああああああっ?!」

「そのうち、菓子折りでも持っていくと思うな。」

「その腐った脳みそのなかで個人情報保護観念も
腐って朽ち果てたか?!」

「ええええっ?」

美月はそれこそ脱兎のごとく
学園長室を飛び出して行った。






「亮?今どこ?」

美月はスマホで亮に電話をかけた。
保育延長の申請書を書きながら肩で耳に挟むように
しながら通話を続けていた。

「ああ。今日はこれからクライアントの会議に
出掛けるんだ。ごめんよ。遅くなる。」

「家なの?!」

「ああ。その会議の準備をしてたんだ。」

「家から出ないで!」

「どうしてさ?」

「樋口のお父さんが!そっちに行った!!多分!」

「何でだよ?訳がわからないよ!」

「とにかく家中鍵かけて!誰も入れないで!!」

「美月。そう言うわけにはいかないよ。
出掛けなきゃならないんだ。」

「何されるかわからないんだよ?!」

「今、窓から外見てるけど。誰もいないよ。」

「もうっ!少しでいいから!待っててよ!」

「……わかったよ。30分だけだよ?」

美月はモータープールに停めてある
愛車に飛び乗ってアクセルを踏み込んだ。




「トオル、ドウシタ?」

アルファとベータが森から帰ってきた。
彼らの出入り口は屋根裏の真上の小窓で
自分達で開け閉めをして出入りしている。

「外にへんなおじさんいなかったか?」

コウモリ兄弟は頷く。

「クロイオーラダシテルオジサン。」

「キモチワルイ。ブキミ。」

まさかコウモリからこんな言われ方しているとは
思わぬだろうが、なるほど何をするかわからない。

「まさか。俺を?」

亮は背中に冷たいものが伝う嫌な感覚を味わう。

「なんか危ないものを持っていた?」

「スナイパージャナカッタ。」

「ソウイウ、プロジャナイヨネ。」

「なるほどね。確かにな。」

逆に刃物を隠し持っていれば、コウモリ兄弟にも
分からなかっただろう。

亮は屋根裏の窓から外を見た。

40代後半くらいの貧相な中年男性が
玄関の前まで来ていた。
呼び鈴を鳴らす。
ピンポーン。
ピンポーン。
しばらくして、また。

亮は気配を消してずっと見ていた。
呼び鈴を鳴らすのをやめた男を見ていても
不安な気持ちがちっとも収まらない。

そのとき、聞き慣れた車のエンジン音がした。

「美月?!」

「ナンカヘンナニオイ!クサイクサイ!」

コウモリ兄弟は何の臭いかは分からないようだが
しきりに訴えてくる。そのうち亮の鼻にも
刺激臭がした。

「ガソリンか?!」

ポリタンクではなく、ペットボトルなどの容器に
何本か持ってきたようだ。鞄から出して玄関に
撒き始めた。

そこへ美月が駆け込んできた。

「何してんの?!」

「あんたが、あのヴァンパイアの女か。」

美月は少し躊躇ったものの、男に飛び掛かり
あっという間に取り押さえた。
背中に回した手を更に肩から蹴り回し
関節を外した。痛みにのたうつ男を足元に転がし
腹に数発蹴りを入れた。

「なかなか失神しないな。」

「美月!もうやめろ。」

そう美月を止めながら、亮が一発
男の腹に鋭い蹴りを食らわすと、
唸りを飲み込むようにして失神した。





「あ。すみません。長内です。
会議には参加します。フェイスタイムで。」

現場検証に、警察の事情聴取。
今日は会議には出向けそうになかった。

「長内くん。なんかあったの?」

「ちょっと。放火騒ぎで。」

「あれまあ。近所で?」

「ええ。すごく近所で。」

火は着けられなかったが、ガソリンの処理で
何日かは家に入れないようである。
亮は最低限のタブレットや充電ケーブルを
持ち出して車に積み込んだ。

「はい。それでは、プレゼンさせていただきます。
すみません。データとしてお送りしますので
そちらで投影していただければ。」

亮が車の中で会議に参加し始めた。

美月は一人で警察と話をしていた。

「だって!ガソリンなんか撒かれて、
火を着けられたらおしまいじゃないですか!
必死だったんですっ!!」

「それにしても肩の関節から外すなんて。」

美月はまた過剰防衛で警察から苦笑されて
いるのである。

「確かにご近所も巻き込むところだった
わけだし、やり過ぎですけどアリでしょう。」

「良かったあ。やっと分かってもらえた。」

「これからは一人でここまでしないで
すぐに警察を呼んでくださいね。」

美月はしおらしく肩をすぼめてみせた。
まあ、一つも反省していなかったが
振りをしただけでも上出来だった。

「あ。そろそろ保育時間終わっちゃうな。」

美月は当然のことながら学園長に電話をした。







「美月さんっ!!」

学園長は飛んできた。
文字通り、飛んできたのだ。

「学園長!!」

美月はたまげた。
普段、鳥人とのハーフであることは
隠している彼が、心配で飛んできた。
白鳥の翼は大きく、スピードもヴァンパイアに
負けないくらいである。

「樋口の父親が、うちに報復しに来ました。」

辺りにはガソリン臭が充満し、化学消防車が
処理をしている最中であった。

「火は着けられなかったけど。派手に撒かれて
家に入れないんです。」

「美月さん、双子ちゃんは?」

「時間延長で保育園に。」

学園長は不幸中の幸いとホッとした息をついたが
すぐに険しい表情で向き直った。

「私のせいで、こんなことに。本当に済まなかった。」

「謝ってもらっても仕方ないです。さしあたって、
生活を保証していただきたいですね。」

「困ったね。とりあえずホテルを手配しよう。」

「子ども二人一緒に泊まれるところに
してくださいね。ふたり、ですよ?」

美月は冷静に釘を刺した。
学園長は小さくなって頷いた。