亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(94)

2018-04-18 09:13:54 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「どう?頭冷えた?」

「俺は冷静だけど?」

野田先生は、翌日の放課後に
また樋口を保健室に呼んだ。

「別にあんたがヴァンパイアを嫌いになるのは
自然なことだ。そういう経緯なら仕方がない。」

「え?」

「嫌いって感情は悪いものではないよ。」

樋口は多分、想像していたことと
全く違うことを言われたので呆けている。
不意な攻撃とは、受けた側を頭悪そうに見せるなと
野田先生は思った。

「あたしは、AKBやらなんたら娘やらが嫌いだ。」

「一緒にすんなや!!」

「これはあたしの問題だし、普段人に喧伝したりは
しないよ。反対に、あいつらをこよなく愛し
金を惜しまないやつらもいる。」

話が変な方向に進んでいる。
樋口は露骨に嫌そうな顔をした。

「でもあたしは、あんたがAKBが好きでも
あいつらのグッズやCDを買ってにへにへしても
それを攻撃したりはしない。」

明らかに樋口が刺された痛い顔をした。

「お前AKB好きなの?バッカみてえ!」

「俺は別にあんなの好きじゃねえ!!」

「あんな枕営業で仕事取ってくるクサレマ●コども
どこがいいんだよ!」

「な、なにいってんだよあんた。」

「もし、あんたが本当にAKBが好きだったら?」

「え…」

「こんな風に言われたらどう思う?」

「やだ、な。」

野田先生は、まあ一口に好きとか嫌いとか言っても
それぞれなんだけどね、と挟むと笑う。

「あたしは日常生活困らないから、アンチアイドル
だとか公言してない。でもあいつらを盲信してる
やつらの中には信者を増やそうと猛烈にプッシュ
してくるやつらもいるんだよ。」

「プッシュ。」

「そういうやつには、あたしは嫌いだから!って
意思表示をする。ほとんどはそれで引いていくけど。
それは良さがわかっていないだけ、食わず嫌いは
駄目だ!なんて言い出すのもいるんだな。」

「うわ、最悪。」

「ここまでされたら。自己防衛として
攻撃してもいいとあたしは思うよ。」

「そっか。」

野田先生は言いたいことをいい終えると
樋口の方を見た。

「美月先生の旦那さんはヴァンパイアだ。
人間との混血らしいけどな。」

「ふうん。」

「あんたは別に仲良くする必要なんかないし
もう、二度と会わないかも知れない。」

樋口は昨日の亮を思い出していた。
ヴァンパイアが怖いのかと言った。
自分は、怖いと思うほどヴァンパイアのことを
知らない。母を連れ去られた怒りしか。

「美月先生に、暴言を吐くのは違うね?だろ。」

黙り込む樋口に、野田先生は笑いながら肩を叩く。

「ま、そんなこと分かってるよな。はじめから。」

「俺は、その……」

「謝った方がいいかもしんないけど、今後絡まない
ようにすれば十分だとは思うよ。」

反省すればそれでよしと野田先生は言った。






大人しくなった樋口は、授業中に騒いで妨害することも
なくなったのだが、相変わらずの素行の悪さで
要注意人物のリストから外れることはなかった。
授業に出てこないことも珍しいことではなく
学校からも再三家庭訪問をするなどして
改善に努めていた。

そんなある日。
樋口が父親に連れられて学校にやってきた。

「うちの息子がこんな風になってしまった理由が
わかりましたよ。」

父親は学校側に問題があるといい、担任教師では
話にならないからと学園長を出せとゴネ始めた。

学園長は普段あまり使わない、奥の応接室を開けて
面談に応じたのだが。

「おたくの教師の中に、非常識な女性教師が
いるというじゃないですか。」

父親はかなり興奮していて、そう簡単に話を聞いて
くれる状態ではなかったが、何とか落ち着かせ
なければならないと学園長は思う。

「何があったか、順を追ってお話願えますか。」

「ご存知のように、うちは片親で。でも愛情かけて
きちんと育ててきたんですよ!」

学園長はしばらく父親の言い分に
黙って耳を傾けることにした。

「うちの息子はヴァンパイアが大嫌いなんです!
なのにヴァンパイアと結婚している女性教師に
教えられて、精神的に不安定になってしまった!」

学園長は、ああこれが以前真知子の言っていた
センシティブなヴァンパイア嫌いの少年かと
はじめて思い当たる。

学園長は父親の方を無視して、樋口本人を見た。

「樋口くん。それは、長内先生のことかね。」

「……」

樋口はだんまりを決め込む。

「光紀!言ってやれ!お前がどんなに辛かったか。」

「生徒に対して暴言を吐いたり、虐待したり
といった事実があれば即刻処分しなくてはならない。
もう、君には危害を加えないようにさせなくては。」

学園長がこうも話を大きく言ったのは
逆に美月はこんなことをしていないと
信用していたからこそなのだが。

「すぐにその教師を配置代えしていただきたい!
もう息子の目に触れないようにしてください!!」

また父親の言うことは無視して、樋口に
話しかける学園長。落ち着いて、やさしく
ゆったりと語りかけている。

「長内先生から、何を言われて、どう嫌だったか。
具体的に聞かせてくれないかね。
教師も人間だ。保身に走る。他の生徒にも
聞き取りをするから、詳しく話してくれ。」

「何も言われてねえよ!!」

樋口は急に拳でテーブルを打つと立ち上がった。

「あいつは何にもいってねえよ!でも!
我慢出来なかったんだ!汚らわしい!
俺は下品な言葉でヤジを飛ばしたよ。でも
長内先生は取り合わなかった。」

父親は一瞬怯んだが、どうしても美月を
悪者にしないと収まらないと思ったのか
負けじと学園長に詰め寄った。

「こんなにうちの子が嫌悪感を抱いているのに
どうして分かっていただけないんですか!」

「やめてよ、もうやめて、父さん。」

「光紀。」









それから、野田先生が樋口を引き取りに来た。

大人がよってたかって
傷だらけの子どもになんてことするんだ。

父親も学園長も黙って下を向いていた。

野田先生が樋口を連れて出ていくと
学園長は父親に話しかける。

「あんた。女房に逃げられたのをまだ
ウジウジして、恨み辛みで一杯にしてるんだな。」

「はあ?!」

「そんなだから、息子がひん曲がっちまうんだよ。」

「何だと?あんたに何がわかる?!」

「あの子はあんたの恨み辛みまで背負わされて
抱えきれない怒りに押し潰されそうになってる。
なんでこんなことにしちまったんだよ。」

「俺だって辛い!!それでも息子のことは
大事にしてきたんだ!」

「大事に仕方を、間違ってたんだよ。」

「どういうことですか。」

「まあ、あんたも男手一つでたいへんだったろ。
でも、子どもってのはやさしいからな。
あんたは言うともなしに恨みを口にして
いたんだろうが、一緒になって憎しみを
募らせていたんだよ。あんな小さな体でさ。」

「じゃあどうしたら良かったんですか!」

「早く、忘れることだよ。」

「もう、あんな女のことは忘れてますよっ!」

「いや。奪われた、逃げられたってことを
もう手放した方がいいってことだ。」

父親はすぐに違いが分からなかったようだが
もう学園長は言いたいことは言い終わったようだ。
なにも言わずに応接室を後にした。






「かわいそうにな。お前はようやく気づいたんだ。
このままじゃいけないって。」

「苦しい。こんな自分がたまらなく嫌だ。」

野田先生は誰もいないベッドの片方に飛び込んだ。

「な、なにしてんだよ!」

「あんたも隣、寝っ転がって話そうよ。」

樋口は控えめに腰をおろすと
靴を脱いでベッドに横になる。

「あら、行儀がいい。」

野田先生もサンダルを脱いで足をバタつかせながら
うつ伏せになる。

「再三言うけど、あんたがヴァンパイアを嫌いに
なるのは自然なことだ。」

「でも、理由なく何かを嫌いになるなんて
やっぱりおかしい。俺は長内先生の旦那さんにも
たまらなく嫌悪感を覚えた。こんなのは……」

「また。会ってみるか?」

「え。」

「あの人、いやあのヴァンパイアは信用出来る。
あの人と分かり合えたら、ヴァンパイア嫌い
治るかもしんないよ。」

あとで話を聞いた亮は
なんて無責任なんだと怒っていた。