亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(95)

2018-04-19 11:01:59 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「俺は気が進まない。」

「正直あたしもなんだけどね。」

美月は数日前、野田先生から呼び出され
いきなり拝み倒された。

「どう考えたって無理があんだろ?」

「あたしもべつに担任ってわけでもないし。」

美月は、もし樋口が自分を気に入らないなら
教科担任を替えてもらえばいいと思う。
幸いにも新学期が始まったばかりだ。
交代してもらうタイミングとしては悪くはない。

「まあ、将来あのままでヴァンパイアのいる
職場に入っちゃったら散々だと思うけどさ。
俺を見ただけであんな過呼吸になるくらい
不安定なんだから。今、無理しなくても。」

保健室でカウンセリングをするくらいの
専門家が言うのだから、何とかなるのかもしれないが
それを丸投げされてしまうのはいささか乱暴だと
思う亮であった。

「とりあえず、樋口自身は納得してるらしい。」

「はあ。」

はじめは『休日に長内邸を訪問する』という
無茶なプランをぶつけてきた野田先生だったが
何とか粘って保健室のカウンセリングに同席する
という条件に落としてもらった。

亮はフリーの強みで、平日の放課後に学園を訪れる
ことにしたのであった。





「この間はすみませんでした。」

亮が保健室に入ると、もう樋口はテーブルに
ついていた。立ち上がると頭を下げる。

「あれ?ピアス、外したんだ。」

耳と鼻につけていたピアスがなくなっている。
亮は少しホッとしたのだった。

「服、着替えるとき、引っ掛かるし。」

「あ、そうなんだ。やっぱり。」

自分の机に座って、仕事をしている野田先生は
こちらを見もしない。困る。すごく困る。

「俺は何をしたらいいのかな。」

まあ、樋口に聞いても困るだろうと思いながらも
間が持たないので、こんな質問をした。

「ヴァンパイアって。人間とどう違うんですか。」

「はあ。」

「説明してやって。旦那さん。」

あら、野田先生聞いてたんだ。人が悪い。

「俺は生物学的なことは分からない。
それこそ女房の方が専門家だから、それは
あいつに授業終わってからでも聞いてくれ。」

ただ。亮は続けた。

「ヴァンパイアは人間よりも頑丈だし
長生きだし、力もちょっとだけど強い。」

「……」

樋口は亮を見る。上から下まで、観察する。

「見てくれはあんまし変わんないけど。
ヴァンパイアの血が濃ければ濃いほど強いかな。
純血のやつらは人差し指と親指で、女の首を
摘まむだけで殺せると思う。」

樋口の目が怯える。
亮はそれでも誤魔化したことを言うのは
違うと思ったから話していた。

「でも、人間だって小さい子を触るとき
優しくしたりするだろ。プリンやケーキの
入った箱を握りつぶしたり振り回したりしない。」

ヴァンパイアは人間を嫌いではない。
特に儚げな人間の女が懸命に生きているのを
見ていると、どうにも愛しく守ってやりたく思う。

「血を吸わないと生きていけないのは
純血のやつらだけ。俺は1/8人間の血が入ってて
血を吸わなくても生きていける。吸えば美味いけど
今まで吸ったことがあるのは女房ただひとりだ。」

「長内先生?」

「ああ。はじめは牙が通らなくて
すごく痛がってた。ちょっと慣れるのに
時間がかかったね。」

「美味しいの?人の血なんて。」

「ん。あいつの血はとても美味いよ。」

「それは、好きだからなの?」

意外な切り口からの質問に亮は顔を赤らめた。

「や、ああ、それは好きだし、美味いし。だな。」

「人間だから、好きになったの?」

「いいや。あいつだから、好きになった。
こんなのどこのどんなやつに聞いても答えは一緒だ。
好きになるのは、唯一無二の相手と思ったからだよ。」

きっかけとして左右はするかもしれないが
好きになるってそういうことだ。
亮がそういったとき、野田先生が少しだけ
肩を揺らしたのを二人とも気づいてはいない。

「体格や能力の違い、文化的な違いはあるよ。
でもヴァンパイアと人間はそんなに違う生き物
って訳ではないし、考え方もそんなに隔たりはない。」

樋口はしばらく黙っていたが、大きく息をついた。

「ヴァンパイアは人間を獲物みたいに捕まえに
くるんだと思ってた。」

血を吸って。体を弄んで。散々遊んで捨てるのだと
そう思っていた。そんなヴァンパイアにホイホイ
ついていく人間の女も淫乱なのだと思った。

「え?どんなクラシックなホラー映画観たのさ?」

亮が呆れたように笑う。

惚れた女に惚れてもらうのに必死だよ
弄ぶなんてとんでもない。

樋口は、亮が話を終えて保健室を後にする頃には
大分表情も自然にやわらかくなり
別れ際には笑って手を振ってくれた。

でも、もう勘弁してもらいたいと思った。






「亮。今日は樋口からお礼をいわれたよ。
旦那さんによろしくって。」

「まあ、あいつの気持ちが少しでも楽になれば
それが一番だけどさ。専門外なのもいいところ
だよ。もう二度とごめんだな。」

ふたりとも、終わったと思った。
やれやれ、と厄介払いをした気分。


だが、本当の厄介はこれからだった。