亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(87)

2018-04-10 19:52:27 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「鞠。ごめん。俺も手伝うから。」

「うん。正直、圭一くんから研究内容聞いても
ちんぷんかんぷんなんだもの。」

夜、晩御飯を食べたあと。
二人でお茶を飲んでいる。
シンの職場に実習生として入所して
1ヶ月ちょっと経過した。
鞠はもう、仕事中のシンが素敵で
そんな彼のアシスタントが出来て
すごく幸せな日々を過ごしている。

シンは決して仕事をそのまま投げたりせず
鞠がすぐに取りかかれるように調えてくれる。
鞠が研究の細部までわからないこともあるが
その細やかな気遣いは、前戯のやさしい
触れるだけのキスにも似ていた。

あん。本当にシンて素敵なひと、いえ
素敵なヴァンパイアだわ。

今回のことに関しては
所長から売られた喧嘩と思う。
あたしに喧嘩売ったことはいつか
後悔させてあげるから。

明日からはシンに甘くされていた分
圭一との、山にイガ栗を素手で拾いに行くような
毎日が待っているのである。
必ずやきっちり仕上げて有終の美を飾ってやる。

「鞠。無理しないでくれよ。」

「大丈夫よ。」

「論文は英語だ。肝心なのは専門用語だから。
使いそうな単語のリスト、明日出してやるからな。」

「ありがとう。でも将来的にもシンと一緒に
働くなら、圭一くんのアシストありきだと思うし
今から予行演習だって考えれば、ね。」

「鞠。」

シンは鞠の髪をうなじまで掻き上げる。
アザのようになった牙の痕を指でなぞり
そっと唇から近づいた。

「あん…」

唇を開いて吸い付き、舌でやさしくねぶる。

「や、はあ…ん。」

牙の痕に二本の牙を添わせて刺し入れる。

「くぅっ、んん。」

鞠は喉を見せるように反り返り
やるせない表情になる。
なんだろう、細く小さな鞠の首がことさらに
長く艶かしくしなり、堪らなくなる。
ヴァンパイアだからなのだろうか
女の首にはセックスアピールを感じるのだ。

「あ、あん、んんっ。」

少しだけ鞠の血を吸い上げる。
相変わらずフルーティーでこっくりとした
コクも持ち合わせた味わい深い血である。

牙を抜くと、その痕をキスで閉じてやる。

「あ、あん、シン…素敵ぃ。」

「さて。次はお前が吸う番だ。」

「来てぇ。」








昨夜はいささか張り切りすぎたと
シンは襲い来る眠気と戦いながら独りごちる。
あくびしてる場合じゃねえ。
今朝は鞠も不安そうだった。

「圭一くんて、どのくらい英語苦手なの?」

「ん。あいつ、英検三級持ってるけど。」

「微妙というか使えないというか。」

「いや、まぐれ当たりだったって。」

選択問題は全部鉛筆を転がしたといい
得点源はほとんどそれだったというのだ。

「俺もTOEFLくらいは持ってる。」

鞠は絶句した。

「純粋に翻訳しか出来ないから、論文は日本語で
起こしてもらって。そこからになるわ。」

シンは頷きながらも心配になる。
そんな暇が圭一にあるのだろうか。
通常業務として次から次へと仕事があるのだ。
企業向けの共同開発のプロジェクトでも
圭一はなかなかの働きぶりだ。
逆に言えば自分の論文を書いている暇がないのだ。

「SOS。」

鞠はげんなりした顔で、シンの研究スペースに
入ってきた。

「圭一は?」

「これを置いて出掛けちゃった。」

ファクトリーに出ずっぱりだという。

「まさか、この記録から起こせって?」

料理で言えばレシピが箇条書きになったような
ものが束になっている。

これをまんま訳したところで論文にはならない。

「あいつ、日本語もどっちかっていえば
不自由だもんなあ。」

圭一にしてみたら、そんなに急いで論文を
発表する意義はない。
論文なんか博士課程ででっかいのを書かなければ
ならないのだし、その時に苦労したら良い。

「所長は期待の新人に唾つけたってアピールを
したいんだよな。それだけあいつはすごいんだ。」

鞠には今一つ解らないのだが、これも自分が
研究者としての資質がない証明なのだと納得した。

「これは、あたしが彼のおしりを叩かなきゃならない
ってことなのかしらね?」

ママじゃないんだから。

「本当に叩いていいのかしら?」

シンは薄ら笑いを浮かべる。
胸で十字を切った。アーメンというと笑った。

「ご存分に。」

鞠はスマホを取り出すと何処かにメールを打ち始めた。

「どうした?」

「美久ちゃんにね。しばらく彼にべったりする
ことになるけど許してねって。」

あれから美久とも友達になった鞠。
圭一のことも話題に上がるようで、特に研究室に
入ってからは頻繁にやり取りをしているみたいだ。







「あのさ。何でこんな朝早く叩き起こされなきゃ
ならないんだ?」

圭一は始業まで三時間の、いつもは夢の中の時間帯に
部屋のドアが破れんばかりにノックされた。
借金もないのに借金取りかと胆を冷やした。

「とりあえず、口伝で論文を書こうと思うのよ。」

「鞠ちゃんさ。あれは別に締め切りのある仕事じゃ
ないわけだし。所長だって本気じゃないよ。」

「論文の締め切りはあるわ。あと2ヶ月。」

圭一は何故鞠がこんなにムキになるのか
よくわからなかった。

「ついでだから、朝ごはん作ってあげるわ。」







「おはようございます!」

圭一はいつも遅刻ギリギリで出勤してきて
30分くらいはボサーッと座っているのだが
今朝はシャキッとしていてやる気に満ち溢れていた。

「鞠。いや、指宿くん。」

「どうしたの?先生。」

シンは複雑な顔をしていて、鞠はその顔を楽しげに
覗き込むように、爪先立ちで寄り添った。

「今朝はお早いお発ちだったじゃないか。」

「だから言ったでしょ。圭一くんから
聴取しながら進めるって。」

一度日本語で組んだらチェックしてもらうから。
そういい残して、鞠は忙しなくキーボードを
打ち始めた。

「鞠ちゃん、料理上手ですね。朝飯食うの
久しぶりだったけど、体調すこぶるいい!!」

「よろこんで頂けて何よりだよ。」

シンはあからさまに仏頂面である。

それから、鞠はしばらく圭一とぺったりくっついて
過ごした。休みの日にも美久とともに論文の話をして
英語表現については美久とも色々と相談していた。
シンはそんな中に無理やり混じって、鞠を追いかける。

「ごめんね、シンさん。うちの圭ちゃんが
出来ない子なばっかりに。」

まあ、シンにとっては面白くない日々が続いている。
鞠は朝早くに圭一の部屋に行ってしまうし
そのまま一緒に研究室に出てくるので
シンはここんところ一人でモーニングを食べている。
もちろん鞠はシンの朝食も用意して行くのだが
鞠の作った料理を鞠と一緒に食べられないのは
とても寂しい。

「シンさんには、あたしが朝食作りに行こうか?」

冗談まじりに美久が言うと、鞠がすっ飛んできた。

「み、美久ちゃん。彼のは私が作っているから。」

右腕に胸から絡みついてきた。

「鞠ぃ。」

シンは嬉しくなり鞠を抱き締めた。

「大好きだ。愛してる。」

「や、やん。シンったら。」

「くそう。マント着てくりゃ良かった。」

美久と圭一も体を寄せあっている。

「これは圭ちゃんも頑張って、論文を早く
片付けなきゃね。んふふ。」

「何か大変だよ。俺はそんな急いでちっちゃい
論文発表する必要ないと思うんだ。」

「見込まれてるのに分かってないのね。」

美久には分かるようだ。

「あの研究室に所属しているってアピールを
するのが目的よ。高校の時からずっと声を
かけられてたじゃないの。」

「そりゃそうだけど。」

「鞠ちゃんには気の毒だけど。シンさんにも
アドバイスもらいながらやってみるって。
貴方と違って彼女は無報酬なんでしょ。
圭ちゃん自身がしっかりしなきゃ。」

圭一も思うところがあったようだ。
それから、圭一も協力的になっていき
作業は着々と進んでいった。