kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

アイアン・スカイ

2012年10月15日 | 年間ベスト3
月日:10月13日
映画館:サロンシネマ
パンフレット:B5横版700円。言うまでもなく、くどい解説入り。(笑)

1947年、先の大戦で一定の戦果を得たドイツ第三帝国は、宇宙開発を目的に宇宙省を設立、初代大臣にヴェルナー・フォン・ブラウンが就任した。宇宙省の母体はペーネミュンデのロケット基地とその組織が発展したものであり、それまでの経緯から陸軍が主導権を持ったが、宇宙飛行士の育成はドイツ空軍が行うこととなった。また、宇宙省でのロケットの開発は元陸軍が所管したが、宇宙空間での建造物は軍需省が建設し、宇宙空間利用については外務植民地省が担当するという、歪な組織であった。
元々、アドルフ・ヒトラーは宇宙開発には消極的であり、親衛隊も同様のスタンスであったが、1952年にはポーランドで宇宙エレベーター方式による開発をスタートさせた。その巨大な建造物は保守的な宗教関係者から「20世紀のバベルの塔である。」と批判された。
というのが、ワタシの知る妄想ナチス宇宙史である。(映画とは関係ありません。)

さて、この映画のインターネット予告編を始めてみたとき、あまり斬新な感じを受けなかった。というもの、フィクションのナチの残党は南米から南極のいたるところで悪事を企てており、オデッサを作ったり、ヒトラーのクローンを産み出したり、アメリカに核テロを仕掛けたり、ロンドンに吸血鬼飛行船で殴りこみをかけたり、米ソを衝突させてミュータントによる世界征服をたくらんだり、月面いっぱいにヒトラーの横顔を刻んだりと、もうやりたい放題してたのだから、ちょっと月面基地を作って、円盤を飛ばしたくらいではこちらも驚いたりしない。

それでも、実は本当に映画になるとも思っていなかったし、それが日本でも公開されると思っていなかったし、まして広島で観ることができるとも思っていなかった。恐るべし、第四帝国。

第二次世界大戦に敗北したナチスドイツの残党が月面に逃亡、月の裏側で巨大基地を作り、地球攻略を企んでいた。2018年、アメリカのプロバガンダ月面着陸船がそれを発見したことから・・・というSFアクションコメディだが、ただのコメディではなく、ポリティカルコメディとしても成立している特殊な映画。

月面ナチが攻めて来る設定が映画としても見せ所なのだが、個人的にむしろおかしいのはアメリカ大統領のパート。やりたい放題のペイリン大統領とその一派のムチャクチャさはアメリカ人では描けないのではないか。月面ナチに影響を受け、ゲッベルスばりのプロバガンダ戦略を展開し、「戦争を始めれば大統領に再選される!しかも相手がナチなら願ったりかなったり。何しろアメリカが正々堂々と勝ったのはナチだけだ!」なんてほざき、「テロリストとは交渉しない」と敵であれば女子供も皆殺しにしようとし、自国のことは棚に上げても他国を批判する姿はヨーロッパ的な視線のような気がする。無理がない範囲で英語とドイツ語を使い分ける展開もうまいと思うと同時にヨーロッパ的だ。笑いのオチのつけ方やネタの運び方もハリウッド映画とちょっと違う。

意外なことに主人公はラブ&ピースなナチの女性士官。パブリシティで主人公はガチガチナチだと想像していただけに、どう話を持っていくのかと思いきや、なかなか気の利いたストーリーで、しかも、「博士の異常な愛情」ばりのシニカルなラストは意外だった。人生のフェイバリット映画№1が「博士の異常な愛情」なので、かように同映画に敬意を払った映画を好きにならない訳がありません。

まあ、手放しで誉めるだけでなく、「戦争債」が原資の一部であるように予算的に厳しいせいでハリウッド映画に比べ、見劣りする部分があるのも確か。ナチの円盤にはもっと大暴れして欲しかったし、モブシーンは迫力不足。時間的にもあと15分くらいボリュームアップしても良かったと思う。

ところで、「ストレンジラブ博士!月の一部が欠けたことでどのような影響がある?」
「大統領、月の一部が損失したことで月の質量が不足し、地球との重力バランスに影響がでるものを思われます。これにより地球の自転軸がこれまで以上に大きく振れることとなり、地球上には未曾有の天変地異が起きる事でしょう。しかし心配いりません、ヒトラー・・・大統領でしたな。地底都市を建造し、優秀な人類をそこに収容すれば、必然的にウンターメンシュは淘汰され、われわれの生存圏が確立されることでしょう!総統!私は歩けます!!」






題名:アイアン・スカイ
原題:IRON SKY
監督:ティモ・ヴオレンソラ
出演:ユリア・ディーツェ、ゲッツ・オットー、クリストファー・カービー、ウド・キア


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