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<アーカイブ>日本の改憲は賢明かつ時宜に適ったもの☆フィナンシャル・タイムズの社説紹介

2015年12月15日 16時41分34秒 | 英字新聞と英語の雑誌から(~2010年)
 
(2006年11月3日:yahoo版にアップロード)
 
 
国際経済と国際政治の分野では、その情報収集能力と分析力において(一般紙としては)世界最良のプレス・メディアとの評価を確立享受しているThe Financial Timesが日本の憲法改正の動向を支持する社説(Editorial comment)を掲載した。 「日本の憲法」(”Japan's constitution,” November 2, 2006)です。

アメリカではそのあまりのリベラルさゆえに、共和党支持者に比べよりリベラルと言われる民主党支持者も含め通常のアメリカ国民からはほとんど真面目に相手にされていないNew York Times の、しかも、「戦前の日本=軍国主義」というステレオタイプの図式から繰り出される大西記者の記事とは異なり、よく日本の政治の底流に目配りされた見事な社説だと思う。さすが、Financial Timesである。而して、今日、11月3日の産経新聞は、「英紙フィナンシャル・タイムズ 社説で日本の改憲支持「9条は実体失っている」」という見出しの下こう紹介していた。

【ロンドン=蔭山実】2日付の英紙フィナンシャル・タイムズは、社説で日本の安倍晋三政権下の憲法改正論議を取り上げ、改正が日本の軍国主義復活の懸念を引き起こすことはあっても、そうした懸念は的がはずれていると主張し、日本の憲法改正を支持する見解を示した。

社説は「憲法を改正したいという安倍首相の意向を恐れる理由など何もない」との見出しで、「改正をめぐる首相の考えは、日本のナショナリズムを復活させるというおそれをアジアや西欧に抱かせるだろう」と指摘。だが、「それは見当違いだ。最大6年の任期内に憲法を改正したいという安倍首相の意図は理にかなったもので、長く待ち望まれていたことだ」と論じた。

安倍晋三首相は就任後、社説に先立って同紙とのインタビューに応じて憲法9条(戦争の放棄)改正に意欲を示しており、社説は「日本の新たな時代を切り開きたい」という首相の言葉に、軍事専門家は一切驚きはしないとの見方も示した。

その上で、焦点の憲法9条について、「9条はすでに実体を失っている」とし、「自衛隊という強力な軍隊を有している現実を覆い隠すとともに、国際的な平和維持活動では、自衛隊が非戦闘分野にしか参加できないという制約を生む要因となっている」と主張した。


改憲-護憲の議論を深める一助になればと思い、以下、その出版機関が世に所見を問う社説ということもあり(著作権の制約はより緩やかであると考え)全文を紹介する。


●Japan's constitution
A plan by a nationalist Japanese prime minister to revise the country's pacifist postwar constitution will inevitably revive lingering concerns in Asia and the west about a possible return of the militarism that did so much damage in the 1930s and the 1940s.

Shinzo Abe, who has replaced Junichiro Koizumi, is indeed a nationalist, and any revision of the constitution now will certainly mean watering down the eternal renunciation of war enshrined in Article 9.


●日本における憲法の今
民族主義者である日本の首相による、その国の戦後にできた平和主義的な憲法を改正しようという意図はアジアと西洋諸国が払拭しようとしても難しいある種の懸念を、しかも、不可避的によみがえらせるであろう。すなわち、日本が1930年代から1940年代にかけて(世界とアジアに対して)多大な損害をもたらした軍国主義に復帰するかもしれないという懸念のことである。

安倍晋三氏は小泉純一郎氏を襲って首相の座についたのだけれども、その安倍氏は正真正銘の民族主義者であるし、他方、どのようなものであれ近い将来においてもし憲法の改正が行われるとするならばそれは憲法9条に規定されている永久の戦争放棄を弱めることを意味しているからだ。


Such fears, however, are misplaced. Mr Abe's intention to rewrite, within his maximum six years in office, the constitution imposed by the US occupation forces in 1946 is sensible and overdue. There is nothing to alarm military strategists about his comment to the Financial Times - in his first newspaper interview since taking over - that he wants to "open up a new era for Japan".

Japanese liberals and women may have more grounds for complaint, given that some of the proposals drafted by Mr Abe's ruling Liberal Democratic party could undermine the egalitarian idealism entrenched in the existing constitution by its American authors.


しかし、そのような懸念は筋違いである。その最長6年の任期中に改憲を実現したいという安倍首相の意図は、その憲法が1946年にアメリカ占領軍によって押しつけられた代物であることを鑑みるならば賢明かつ時宜に適ったものと言うべきだろう。本紙Financial Timesとのインタヴューが首相就任後、新聞社との最初のインタヴューだったのだけれども、安倍氏が本紙に語ってくれた内容には軍事戦略の専門家筋が危惧を感じるようなことは何も含まれてはいなかった。

日本のリベラルはや女性活動家は彼等特有の不満の理由を持っているのかもしれない。それというのも、アメリカ人の手によって書かれた現行憲法の中には理想主義なまでの平等主義が組み込まれているのだけれども、安倍首相率いる与党自由民主党がまとめた憲法改正案にはそれらを掘り崩す規定が幾つか存在しているのだから。


 
 
On the military side, the promise in Article 9 that "land, sea and air forces, as well as other war potential, will never be maintained" has already been flouted, although a verbal figleaf to cover up the reality of Japan's powerful navy, army and air force is maintained by calling them the "Self-Defence Forces" and restricting them to non-violent roles in international peacekeeping operations.

Revisions to the pacifist language of the constitution are in any case likely to be cautious, if only because Mr Abe and the LDP must win broad political and public support to push the changes through parliament and have them approved in a referendum.


 
軍事的観点からは、しかし、第9条が誓約している「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という規定はすでに誰からも相手にされない嘲笑の対象でしかない。もっとも、日本が強力な陸海空の軍事力を保持しているという現実を覆い隠すべくそれらを「自衛隊」と呼ぶことや、国際的なPKO活動において日本軍(=「自衛隊」)の活動を非暴力的なものに制約する言い訳、謂わば、不正を隠すための言葉の「イチジクの葉」としてこの9条の規定は今でも存在しているとは言えるだろうけれども。

日本の現行憲法の平和主義的な言辞を改定することはどのような場合にも慎重であるしかないように見える。もし、これらの規定の改正を実現しようとするならば、安倍氏と自民党は改憲に向けて広範な政治的と世論の支持を獲得した上で、国会において改正し、而して、国民投票においても(国会を通過した)改憲案を承認してもらわなければならないのだから。



The tricky part will be to change the constitution without antagonising China, which suffered under Japanese occupation before and during the second world war and is wary of Japan's increasing self-confidence and its strong military alliance with the US.

So far, Mr Abe has handled the China relationship deftly, defusing the vexed issue of prime ministerial visits to the Yasukuni shrine in Tokyo (which commemorates Japanese war criminals as well as other soldiers) and securing within 10 days of taking office a summit meeting in Beijing that had eluded Mr Koizumi for the previous five years.

Mr Abe, the first Japanese prime minister born after the war, has done this by holding out the hand of friendship to China while refusing to say publicly whether he does or does not intend to visit Yasukuni as prime minister. China, having focused almost obsessively on Yasukuni, will now find it hard to complain about modest revisions to a 60-year-old constitution provided Mr Abe does not actually visit the shrine.


一工夫要するのは支那の敵対心を引き起こすことなしにいかにして憲法改正を成し遂げるかということだろう。なぜならば、支那は第二次世界大戦中とその前の日本の占領下、(日本に)苦しめられた経験を持っており、また、日本の自信の増大と日本とアメリカとの間の強固な軍事同盟に支那は猜疑の目を向けているのだから。

今までの所、しかし、支那との関係を安倍首相は上手く処理してきている。というのも、東京の靖国神社への首相の参拝(靖国神社には戦死した日本の兵士だけでなく戦犯も祀られている)(★)という懸案を彼が取り除いたこと、また、首相就任後10日にして北京での首脳会談を実現したことが大きい。この北京での日中首脳会談は安倍氏がそれを今度行うまでの5年間小泉首相が実現できなかったことなのである。

戦後生まれの始めての日本の内閣総理大臣として、安倍首相は支那に友好の手を差し伸べることで支那の首脳との会談を実現してみせた。他方、靖国神社に行くか行かないかをその首相在任中は公表することはしないというスタンスを安倍氏は取っている。支那、それまで靖国の強迫観念に取りつかれたようなその支那は、よって、もし安倍首相が実質的に靖国神社に参拝しないのであれば、制定から60年を経たその憲法の極控えめな改正に反対するのは、最早、困難であるということを理解するものと思われる。
 


 
 
 
★KABU註:
東京裁判は事後法による<勝者の敗者へのリンチ>にすぎず、それは、なんらの法的正当性も持たない。よって、東京裁判によって裁かれた所謂「A級戦犯」なるものが、「戦犯」ではないことは確実である。また、国内法的にも「戦犯」は存在していない。よって、本分の” Japanese war criminals”を「日本の戦犯」と訳するのは事実に反するが、原文に従いました。

また、靖国神社に祀られているのは「英霊」であり単なる”soldiers”や”the war dead,” ”the fallen soldiers”ではない。英語で強いて記せば「英霊」は”The noble souls of Yasukuni,” “deities worshiped at Yasukuni”と表記すべきであり、正確に英語に訳せないのならFinancial TimesのEditorial Writerは”Eirei”と記すべきだったと思います

尚、現行憲法9条を巡る私の理解については
下記拙稿を参照いただければ嬉しい、鴨。

而して、唯一の「実戦における被爆国」の日本は、少なくとも、核武装することを要求する道徳的な権利があるはずである。ならば、核武装の損得をにらみながら、いよいよ、日本も核兵器保有国になるべきかどうかそろそろ決断をすべきなのではないか。と、そう私は思います。

 
・集団的自衛権を巡る憲法論と憲法基礎論(上)(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/65232559.html

 
・国連憲章における安全保障制度の整理(上)(下)
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/9a5d412e9b3d1021b91ede0978f0d241 
 

・米国にとって日本の核武装は福音である☆<Frum>論説紹介
 http://kabu2kaiba.blog119.fc2.com/blog-entry-110.html
 
・第二次世界大戦の終焉☆海外の日本核武装推進論紹介
 http://kabu2kaiba.blog119.fc2.com/blog-entry-107.html
 
 




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