【明日の神話】
本記事は、田母神前空将の国会参考人招致を採り上げたWashington Post記事の紹介です。出典は、” Ousted Japanese General Defends Comments About WWII,” November 11, 2008「解任された将軍、第二次世界大戦に関する自身の解釈を正当化」。尚、この参考人招致の全文と所謂「田母神論文問題」に関する私の基本的な考えについては下記URLをご参照ください。
・田母神氏招致・詳報<完全版>
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/194614/
・田母神空将の冷静沈着な論考とNYTの陳腐な批判記事
http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/55704191.html
田母神論文問題はシビリアンコントロールの問題だ。日本では多くのマスメディアがそう報じています。けれど、田母神前空将の評論『日本は侵略国家であったのか』が提起した大東亜戦争の見直しの直接の<当事者>である英米における報道はそうではない。蓋し、所謂「シビリアンコントロール」なるものを田母神論文事件に絡めて俎上に載せた記事はほとんどない。
結論から言えば、「田母神論文事件」なるものはシビリアンコントロールとは何の関係もない。法的にはシビリアンコントロールとは現行憲法66条2項「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」以上でも以下でもないのですから。よって、「本件がシビリアンコントロールの問題」と語る論者は、「シビリアンコントロール」の定義とその法的根拠(条文根拠または判例、ならびに、諸外国の立法例等)を明示すべきでしょう。
田母神論文が引用しているヴェノナ文書等々ソ連崩壊の前後に明らかになった資料により、コミンテルンの工作行為が戦前戦後の日本を始め自由主義諸国の脅威であったことは現在では自明(アメリカではよってマッカーシーの再評価が確定している)。要は、田母神論文は現在の「常識」を綴った極普通の論稿にすぎない。
けれども、歴史認識の「正誤」と田母神前空将の「更迭→停年退職」の「当・不当」は別問題。(残念ながら)ある程度合理的な理由がある限り、文武を問わずTopクラスの高官が時の政府からの信頼を失えば(少なくとも、給与と結びつく「職」ではなく地位としての)「任」を解かれることは当然。よって、そもそも「政治的決定」である高官の任命・更迭の是非に「内規違反」や「自衛隊法」「人事院規則」等はあまり関係がない。正直、自衛隊の実質No.2の立場にある方が、その認識が正しいからと言って歴代政権が採用する「外交的な建前の枠組み=外交的御伽噺」と矛盾する見解を公にした以上、麻生総理としても速やかな処分しか選択肢はなかったと思います。
しかし、「職」の領域に踏み込んだ「退職金返還要請」などは浜田ジュニアの悪乗り。たとえそれがどのようなものであれ個人の歴史観や国家認識を民間の懸賞論文に投稿することを規制することは現行憲法上できない(それは、地方公務員や看做し公務員が特定の政党のチラシを配布する行為とは全然異なる)。田母神論文事件とはこのような事象である。そう私は考えています。
A former Japanese air force chief, removed from his post last month for writing an essay that says Japan was not an aggressor in World War II, is refusing to quietly fade away.
Pugnaciously defending his version of Japan's role in a war that killed millions across Asia, Toshio Tamogami, 60, told parliament Tuesday that he does not see "anything wrong with what I wrote."
The ousted general's revisionism, together with revelations that 94 air force staff members might have written similar essays this year, has triggered demands in parliament for a full-scale investigation of the training given to military officers to determine if it is consistent with government policy, which states that Japan deeply regrets and apologizes for its wartime aggression.
Questions have been raised about officer training at the Joint Staff College, where Tamogami served as a commandant and personally revised the curriculum. Some of Japan's elite military leaders were trained at the college.
Members of parliament said Tuesday that Tamogami might have taught trainee officers to deny Japan's aggression in the war.・・・
先月、日本は第二次大戦における侵略者ではないという主旨の評論を書いたことにより、その地位を解任された日本空軍の前の参謀長が事態の沈静化に抗う構えを見せている。
アジア中で数百万人の命が失われた戦争における、日本の役割に関する彼独自の解釈を強く擁護する姿勢を崩すことなく、火曜日(11月11日)国会で、田母神俊雄氏(60歳)は「書いたことが何か悪いこと」とは思わない、「論文はいささかも間違っていない」と述べた。
解任されたこの将軍の歴史修正主義、実は、今年94名もの空軍の幹部士官が田母神氏と同様な内容の評論を書いたのではないかという疑惑が浮上しているのだけれども、田母神氏のこの修正主義が露見したことにより、日本軍の士官が受けている教育訓練に対する国会の総力をあげた調査が行われることになった。畢竟、戦時中の侵略行為を日本は深く遺憾に思っており謝罪するという、日本政府の姿勢とその研修が整合的であるかどうかが調査判定されることになったのだ。
疑念は田母神氏が校長を務め、直々にカリキュラムを改変した統合幕僚学校について浮上している。日本軍の中枢を占める指導者の中には統合幕僚学校で研修を受けた者もいるのだ。
火曜日、国会議員の中には田母神氏は研修生であった自衛隊の士官達に対して、日本は第二次大戦で侵略などしていないと教えていた疑いもあると述べた者もいた。(中略)
In parliament Tuesday, Tamogami said he had no regrets. "I was fired after saying Japan is a good country," he said. "It seems a bit strange."
The affair of the noisily unapologetic general, whose views echo those of many prominent nationalists in Japan, is turning into a substantial political liability for Prime Minister Taro Aso, who must call a general election in less than a year.・・・
Aso moved quickly to rid his government of Tamogami, who was demoted within hours of his essay's appearance on a Web site Oct. 31.
The Defense Ministry, however, said it could not fire Tamogami outright -- and deny him a $600,000 retirement bonus -- without waiting several weeks for paperwork to be processed. So it allowed him to retire with the bonus. Demands are growing, even within Aso's ruling party, for the government to withhold the money.
Tamogami will have none of it. He told parliament Tuesday he has no intention of voluntarily giving back his retirement bonus, which has yet to be paid to him.・・・
火曜日の国会で、田母神氏は後悔などしていない、「日本の国はいい国だったと言ったら、解任をされた」「変だなあというのが私の感想」だと述べた。
この将軍の歴史の認識は日本の多くの著名な民族主義者の歴史認識と通底していることもあって、自説を滔々と捲くし立てて謝罪する気など微塵もないこの将軍にまつわる出来事の焦点は、最早、この将軍の問題というよりも麻生太郎首相の政治的な信頼性が本当の所のどの程度のものかということに移りつつある。而して、麻生総理は遅くともこの一年の内には総選挙を実施しなければならないのである。(中略)
麻生総理は抜く手も見せぬ早業で田母神氏を麻生政権から斬り捨てるべく動いた。田母神氏は、10月31日、彼の評論があるウェブサイトにアップロードされてから数時間後には降格処分を受けたのだ。
防衛省は、しかし、その手続きに数週間を費やすことなしには田母神氏を決然と解雇することはできず、また、60万ドルの退職金の支給を拒むこともできないと公表した。而して、防衛省は田母神氏に退職金を支払った上での退職を認めることとなったのだが、麻生政権の与党内部でさえ政府にこの退職金の支払いを差し控えるべきだという声も大きくなってきている。
しかし、田母神氏の意向は退職金の不払いなどは認められないというもの(★註:事実からは、この箇所は「退職金の返還要請は拒否するつもりだ」となるが、記事原文に従った)。火曜日の国会で彼は退職金を自主的に返還する意思は全くないと述べた。而して、件の退職金はこれから田母神氏に支払われることになる。(後略)
本記事は、田母神前空将の国会参考人招致を採り上げたWashington Post記事の紹介です。出典は、” Ousted Japanese General Defends Comments About WWII,” November 11, 2008「解任された将軍、第二次世界大戦に関する自身の解釈を正当化」。尚、この参考人招致の全文と所謂「田母神論文問題」に関する私の基本的な考えについては下記URLをご参照ください。
・田母神氏招致・詳報<完全版>
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/194614/
・田母神空将の冷静沈着な論考とNYTの陳腐な批判記事
http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/55704191.html
田母神論文問題はシビリアンコントロールの問題だ。日本では多くのマスメディアがそう報じています。けれど、田母神前空将の評論『日本は侵略国家であったのか』が提起した大東亜戦争の見直しの直接の<当事者>である英米における報道はそうではない。蓋し、所謂「シビリアンコントロール」なるものを田母神論文事件に絡めて俎上に載せた記事はほとんどない。
結論から言えば、「田母神論文事件」なるものはシビリアンコントロールとは何の関係もない。法的にはシビリアンコントロールとは現行憲法66条2項「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」以上でも以下でもないのですから。よって、「本件がシビリアンコントロールの問題」と語る論者は、「シビリアンコントロール」の定義とその法的根拠(条文根拠または判例、ならびに、諸外国の立法例等)を明示すべきでしょう。
田母神論文が引用しているヴェノナ文書等々ソ連崩壊の前後に明らかになった資料により、コミンテルンの工作行為が戦前戦後の日本を始め自由主義諸国の脅威であったことは現在では自明(アメリカではよってマッカーシーの再評価が確定している)。要は、田母神論文は現在の「常識」を綴った極普通の論稿にすぎない。
けれども、歴史認識の「正誤」と田母神前空将の「更迭→停年退職」の「当・不当」は別問題。(残念ながら)ある程度合理的な理由がある限り、文武を問わずTopクラスの高官が時の政府からの信頼を失えば(少なくとも、給与と結びつく「職」ではなく地位としての)「任」を解かれることは当然。よって、そもそも「政治的決定」である高官の任命・更迭の是非に「内規違反」や「自衛隊法」「人事院規則」等はあまり関係がない。正直、自衛隊の実質No.2の立場にある方が、その認識が正しいからと言って歴代政権が採用する「外交的な建前の枠組み=外交的御伽噺」と矛盾する見解を公にした以上、麻生総理としても速やかな処分しか選択肢はなかったと思います。
しかし、「職」の領域に踏み込んだ「退職金返還要請」などは浜田ジュニアの悪乗り。たとえそれがどのようなものであれ個人の歴史観や国家認識を民間の懸賞論文に投稿することを規制することは現行憲法上できない(それは、地方公務員や看做し公務員が特定の政党のチラシを配布する行為とは全然異なる)。田母神論文事件とはこのような事象である。そう私は考えています。
A former Japanese air force chief, removed from his post last month for writing an essay that says Japan was not an aggressor in World War II, is refusing to quietly fade away.
Pugnaciously defending his version of Japan's role in a war that killed millions across Asia, Toshio Tamogami, 60, told parliament Tuesday that he does not see "anything wrong with what I wrote."
The ousted general's revisionism, together with revelations that 94 air force staff members might have written similar essays this year, has triggered demands in parliament for a full-scale investigation of the training given to military officers to determine if it is consistent with government policy, which states that Japan deeply regrets and apologizes for its wartime aggression.
Questions have been raised about officer training at the Joint Staff College, where Tamogami served as a commandant and personally revised the curriculum. Some of Japan's elite military leaders were trained at the college.
Members of parliament said Tuesday that Tamogami might have taught trainee officers to deny Japan's aggression in the war.・・・
先月、日本は第二次大戦における侵略者ではないという主旨の評論を書いたことにより、その地位を解任された日本空軍の前の参謀長が事態の沈静化に抗う構えを見せている。
アジア中で数百万人の命が失われた戦争における、日本の役割に関する彼独自の解釈を強く擁護する姿勢を崩すことなく、火曜日(11月11日)国会で、田母神俊雄氏(60歳)は「書いたことが何か悪いこと」とは思わない、「論文はいささかも間違っていない」と述べた。
解任されたこの将軍の歴史修正主義、実は、今年94名もの空軍の幹部士官が田母神氏と同様な内容の評論を書いたのではないかという疑惑が浮上しているのだけれども、田母神氏のこの修正主義が露見したことにより、日本軍の士官が受けている教育訓練に対する国会の総力をあげた調査が行われることになった。畢竟、戦時中の侵略行為を日本は深く遺憾に思っており謝罪するという、日本政府の姿勢とその研修が整合的であるかどうかが調査判定されることになったのだ。
疑念は田母神氏が校長を務め、直々にカリキュラムを改変した統合幕僚学校について浮上している。日本軍の中枢を占める指導者の中には統合幕僚学校で研修を受けた者もいるのだ。
火曜日、国会議員の中には田母神氏は研修生であった自衛隊の士官達に対して、日本は第二次大戦で侵略などしていないと教えていた疑いもあると述べた者もいた。(中略)
In parliament Tuesday, Tamogami said he had no regrets. "I was fired after saying Japan is a good country," he said. "It seems a bit strange."
The affair of the noisily unapologetic general, whose views echo those of many prominent nationalists in Japan, is turning into a substantial political liability for Prime Minister Taro Aso, who must call a general election in less than a year.・・・
Aso moved quickly to rid his government of Tamogami, who was demoted within hours of his essay's appearance on a Web site Oct. 31.
The Defense Ministry, however, said it could not fire Tamogami outright -- and deny him a $600,000 retirement bonus -- without waiting several weeks for paperwork to be processed. So it allowed him to retire with the bonus. Demands are growing, even within Aso's ruling party, for the government to withhold the money.
Tamogami will have none of it. He told parliament Tuesday he has no intention of voluntarily giving back his retirement bonus, which has yet to be paid to him.・・・
火曜日の国会で、田母神氏は後悔などしていない、「日本の国はいい国だったと言ったら、解任をされた」「変だなあというのが私の感想」だと述べた。
この将軍の歴史の認識は日本の多くの著名な民族主義者の歴史認識と通底していることもあって、自説を滔々と捲くし立てて謝罪する気など微塵もないこの将軍にまつわる出来事の焦点は、最早、この将軍の問題というよりも麻生太郎首相の政治的な信頼性が本当の所のどの程度のものかということに移りつつある。而して、麻生総理は遅くともこの一年の内には総選挙を実施しなければならないのである。(中略)
麻生総理は抜く手も見せぬ早業で田母神氏を麻生政権から斬り捨てるべく動いた。田母神氏は、10月31日、彼の評論があるウェブサイトにアップロードされてから数時間後には降格処分を受けたのだ。
防衛省は、しかし、その手続きに数週間を費やすことなしには田母神氏を決然と解雇することはできず、また、60万ドルの退職金の支給を拒むこともできないと公表した。而して、防衛省は田母神氏に退職金を支払った上での退職を認めることとなったのだが、麻生政権の与党内部でさえ政府にこの退職金の支払いを差し控えるべきだという声も大きくなってきている。
しかし、田母神氏の意向は退職金の不払いなどは認められないというもの(★註:事実からは、この箇所は「退職金の返還要請は拒否するつもりだ」となるが、記事原文に従った)。火曜日の国会で彼は退職金を自主的に返還する意思は全くないと述べた。而して、件の退職金はこれから田母神氏に支払われることになる。(後略)