本編記事(下記URL参照)でも紹介したように、ロシアの銀メダリスト、プルシェンコ選手の問題提起等、今回のバンクーバーオリンピックのフィギュアスケートを巡っては採点システムについて幾つかの疑義が出されています。私が応援していたキムヨナ姫の優勝に関しても、日本の浅田真央選手の贔屓筋の中でもプルシェンコ提起と一部重なる批判がブログを賑わせているようです。
而して、このイシューを考える上での「資料」として、以下、フィギュアスケートの採点基準の来し方行く末を俎上に載せたコラムを紹介します。出典は、フィギュアスケート女子フリー終了直後、バンクーバー現地時間2010年2月26日にWashington Post紙に掲載された、Hamilton女史の“Figure skating scoring is not what it used to be”です。資料の前後に私自身の「論点整理」と「一般的な「ルールの性質と運用」についての法学方法論からのコメント」を併せて記すことにしました。ご興味があればそれらもご一読いただければ嬉しいです。
●本編記事
・浅田真央は「ルール」を理解できなかった愚者か(上)(下)
http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/52ebd16456cd3397453fa66f24f5e9d9
プルシェンコ選手の問題提起は一言で言えば、「男子の4回点ジャンプ、女子の3回転半ジャンプ等、高い難易度のエレメントの得点を相対的に低く抑えている現行の採点基準は、フィギュアスケートの進歩を抑制する足枷になっており、また、現行の採点基準はそのことで競技会をエレメントの出来栄えという枝葉末梢の事柄を競う競争に矮小化しているのではないか」と言い換えることができると思います。これについてIOCはこう反応しています。
●「ジャッジは正しく採点」=フィギュアに関しIOC会長〔五輪・フィギュア〕
国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長は28日、今大会のフィギュアスケートについて、「あくまで国際スケート連盟(ISU)の現行ルールに基づけば、正しく採点されていたと思う。採点自体には問題はなかった」との見解を示した。
4回転ジャンプを跳んだ男子のプルシェンコ(ロシア)、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を計3度決めた浅田真央がともに銀メダルにとどまり、「高難度の技が得点に十分反映されない」(プルシェンコ)といった不満の声も少なくなかった。これについてロゲ会長は「あとはISUがフィギュアのスポーツ性をどう考えるか。プルシェンコが不満なら、ロシア連盟を通じてISUに(ルール改正を)働きかけていくべきだ」と述べた。(時事通信:2010年3月1日)
他方、あくまでもブログや掲示板で確認する限りですけれども、浅田選手の贔屓筋はこのプルシェンコ提言に加えて、①「特定の選手(具体的には、キムヨナ姫)に有利になるような採点基準の改訂と運用が少なくともバンクーバーオリンピックまでのこの1~2年間継続して行なわれてきたのではないか」、いずれにせよ、②「フィギュアスケートの採点基準は(就中、演技構成点とGOEに関しては)曖昧で抽象的であり、審判員の主観や政治的謀略によって左右される度合が大きすぎる」という主張のように見受けられます。
要は、キムヨナ姫の金メダルは、韓国やスポンサーの意向を受けた国際スケート連盟(ISU)内部の政治的策動の結果であり(具体的に、金銭授受があったかどうかは別にして、それが「出来レース」であったという意味では、それは)「八百長」に他ならず、「キムヨナ=八百長女王」である。と、最大公約数的と最小公倍数的に浅田選手の贔屓筋の言説をまとめれば、大体、その主張は以上のようなものだと私は考えています。而して、フィギュアスケートの採点基準に投げ掛けられている疑義、つまり、採点基準再改定の要求内容は、概略、次の4点に収束するのではないかと思います。すなわち、
・高難度のエレメントの得点引き上げ
・演技構成点とGOEの得点引き下げ、もしくは、廃止
・採点基準改定プロセスの可視化と説明責任の付加
・採点基準の明確化と審判過程の可視化(責任所在の明確化)
このような採点基準に対する疑義に対して、本稿で紹介するコラムの中で著者のHamilton女史は、現行の採点基準があまりにも「技術的」になっており、フィギュアスケートの演技の中で本来具現すべき「感性的」なsomethingがないがしろにされているという認識から、少なくとも、日本の浅田選手贔屓筋とは全く反対のベクトルから採点基準に対する疑義とその改定指針を挙げておられる。すなわち、次の項目。
・マストとして盛り込まねばならないエレメントの個数の削減
Hamilton女史が述べておられるように、「採点基準=ルール」は「石に刻まれたものの如く変更不可能というものではない。而して、採点基準は、客観性をより志向する地点と主観性をより志向する地点の間を常に揺れる振り子のようなもので、今は前者の地点から前者と後者の中間の地点に「採点基準改定の動き=振り子の針」は動こうとしている」のかもしれません。実際、次のような報道を目にすると近々大きな変更が採点基準に施される予感は誰しも感じることではないでしょうか。
●回転不足で「中間点」導入へ=高難度ジャンプ挑戦を促進−国際スケート連盟〔五輪〕
フィギュアスケートで回転不足とされたジャンプの基礎点について、国際スケート連盟(ISU)が来季から「中間点」に相当するルールを導入する見通しであることが26日、分かった。五輪終了を受け、6月のISU総会での改正に向けた詰めの議論が行われる。
現行ルールでは回転不足のジャンプは1回転少ないジャンプと見なされて大幅な減点になるが、その減点幅を縮小し、難度の高いジャンプへの挑戦を促すのが狙い。ISU技術委員会関係者によると、以前から話し合いが続けられていた。(中略)
近年は高難度のジャンプに対するルール緩和が行われてきた。昨季はトリプルアクセルと4回転の基礎点が引き上げられ、今季からは回転不足のジャンプに対してジャッジが評価点(GOE)を必ずしも減点する必要がなくなった。(時事通信:2010年2月28日)
蓋し、採点基準の再改定もそう遠くないの、鴨。
ならば、月並みですが、
現下の諸々の事実、現行の採点基準のメリットとデメリットを踏まえ、かつ、その採点基準改定によってどのようなフィギュアスケートを具現したいとこの競技のステーツホルダー(選手・連盟・スポンサー、そして、スケートファン)が願っているのかを明らかにした上で、「論理的-政治的」にこの問題にはアプローチするしかないの、鴨。要は、事実も重要だが、フィギュアスケートにどんな<美の世界>の具現を期待するのかが死活的に重要ということ。と、そう私は考えています。
いずれにせよ、浅田選手の贔屓筋はバンクーバーオリンピックにおけるキムヨナ姫の演技に対する世界の評価を踏まえた上で、「陰謀論」や「回転不足疑惑」などは主張すべきであろうと思います。蓋し、世界のフィギュアスケート専門家およびファンの評価こそ採点基準改定を具現する上での鍵になることは自明でしょうから。
而して、asylum.comの「バンクーバーオリンピックの美人選手ランキング」で堂々第5位にランクインしたとかは別にしても(笑)、私がこの80時間余り目を通した限りでは、少なくとも、英米独のメディア報道の中に、「キムヨナ=八百長女王」説などという「負け犬の遠吠え」にしても失礼千万な認識はほぼ皆無であり、それどころか、世界はキムヨナ姫に対する絶賛の嵐状態なのです。以下、その一例を挙げておきましょう。出典はキムヨナ姫の戴冠直後の2月26日、New York Timesの“As Kim Raises the Bar, South Korea Delights”「キムヨナ選手、女子フィギュアスケートに新しい地平を開く-歓喜に沸きかえる韓国」 です。
Dressed in azure, accompanied by Gershwin, Kim Yu-na of South Korea seemingly floated to the clouds with her soaring jumps and airy elegance Thursday night, winning an Olympic gold medal and her rightful place as one of the greatest women’s figure skaters of any era.
コバルトブルーのドレスに身を包み、ガーシュインの曲に乗って、韓国のキムヨナ選手が高く優雅に舞い上がるとそれは雲にも届きそうに見えた。木曜日【2010年2月25日】の夜のことである。而して、彼女はオリンピックの金メダルを掌中にし、かつ、彼女があらゆる時代を通じて最も偉大な女子フィギュアスケート選手の1人であることを万人に認めさせたのだ。
Scott Hamilton, the 1984 men’s Olympic champion, compared Kim to Seabiscuit, the thoroughbred, as dominant athletes who broke their competitors’ will.
“Yu-na has only been at the top of her game for a couple of years,” Hamilton said. “But if she’s here another four years at this level, a lot of skaters would break down. They would try to up their games so much, there would be injuries. There’s no weakness there. Compare her with anybody; she’s got it all. Under any system, anywhere, any time, she’d win.”
1984年サラエボオリンピック男子金メダルのスコット・ハミルトン氏は、キムヨナ選手を、天下無敵の伝説的競走馬シービスケットに喩えて、ライバルの戦意を喪失させる圧倒的な存在と見ている。
「ヨナはここ数年は出場した大会でほとんど優勝しただけだった。けれども、彼女があと4年間、現在のレベルを維持するとしたら、他の選手は手も足もでなくなるだろう。否、焦りが無理につながり、けがをしてしまうかもしれない」とハミルトン氏は語ってくれた。「彼女には全く死角が見当たらないし、誰と比べてもその比較が意味をなす限度を超えている。どんな採点基準の下であろうと、大会がどこでいつ行なわれようと優勝するのはキムヨナ以外にはあり得ない」とも。
以下、Tracee Hamilton女史のコラムの紹介に続きます。
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