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女流プロ将棋界の独立に暗雲

2007年03月10日 13時04分14秒 | 徒然日記
画像:東京の駒込にある女流棋士独立の準備委員会事務局


●女流独立に「待った」…日本将棋連盟が意思確認文書送付
将棋の女流棋士の独立問題について、日本将棋連盟理事会が、女流棋士に「連盟に残留するか」「移籍するか」の決断をを迫る文書を送付していることが8日までに分かった。現在、女流棋士会(53人)は、準備委員会を中心に新法人設立の準備作業を進めている。この文書はそれに“待った”をかける形。回答は22日までと区切っており、女流棋士会の分裂の可能性も出てきた。

問題の文書は米長邦雄同連盟会長名で7日に郵送された。それによると、女流棋士の相当数が連盟に残留を希望するようになったと前置き。連盟に残った場合、棋戦の対局の権利を保証した上、従来通り、連盟関連イベントへの協力依頼もしていくという。一方、新法人へ移籍した場合は、対局の権利については、スポンサー、連盟、新法人の三者で決めていく-などとしている。

女流棋士の独立問題については、昨年12月、女流棋士会が臨時総会を開き、新法人設立について賛成44(委任13)、反対1、棄権8の圧倒的多数で準備委員会を設置した。連盟理事会にもその旨を申し入れ「前向きに対処する」との回答を得ている。現在、準備委員10人が中心となり、棋戦の自主運営などを目ざして、精力的に独立への準備作業を進めてきていた。

今回の文書について同連盟の中原誠副会長は「理事会としては女流の独立は全員一致を望んでいた。しかし準備委員会は弁護士を前面に立てて協議に当たったり、寄付、発起人、賛同人集めなどの準備に行き過ぎた面があり、女流の中に、反対、慎重派が増えたため、これ以上、放置できなくなった」と説明する。

これに対して、準備委員会側は「女流の圧倒的多数の賛成で決め、一生懸命、法人設立に向け準備作業を進めてきました。その中途で、連盟はこうした行動に出てきました。まるで踏み絵です。これじゃあ女流はいつまでたっても自分のことを自分で決められない。心外です」と怒りをあらわにした。(スポーツ報知:3月9日8時2分)



http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070309-00000082-sph-soci


将棋好きの、もとい、下手の横好きの私はこのニュースを複雑な気持ちで受け止めました。現在、将棋の女流トップ棋士の実力は「男子プロ棋士」の二段から三段くらいとよく言われます。大急ぎで訂正しておきますが、将棋の世界で「プロ棋士」と呼ばれるのは四段からであり(囲碁界では初段から)、男子プロ棋士の「二段」や「三段」は正確にはプロ棋士ではありません。彼等は、プロ(四段~名人)を目前にしてはいるもののプロではなく、プロ棋士を目指す若者を切磋琢磨させる日本将棋連盟内の育成機関(=「奨励会」)のメンバーなのです。

女流のプロ棋士が珍しくない囲碁界と異なり、プロ将棋の世界では女流棋士は今まで一人も奨励会を通過してプロ棋士になった方はおられない。彼女達はあくまでも「女流」という別枠のプロ棋士なのです。けれども、現在、名人戦とならぶ将棋界のビッグタイトルを争う竜王戦を始め女流棋士と男子プロ棋士が対戦する機会も増えてきており(十年くらい前、そう、記事の中にでてくる中原誠元名人と派手な不倫騒動を引き起こした、その相手の林葉直子元女流名人の頃までは、男子プロには全く歯が立たない状態だったのですが)、最近では女流のトップ棋士は男性のプロ棋士に10番に2回前後は勝っている。女流棋士はそれくらいには強いのです。

10番によくて2-3番。そう聞くと、「まだまだ」と感じる方もおられるかもしれません。しかし、もの凄く稀な例外を除けば(特に、年齢制限のある奨励会を二段や三段でクイットされ「アマ」に転向された方を除けば)、アマチュアの県代表クラス(アマ5段-6段)でも、真剣勝負の場合、奨励会初段にさえ100戦して、おそらく、10番は勝てない(本当の真剣勝負なら、まぐれの2-3勝がせいぜいでしょうか)。ならば、プロの男性棋士に真剣勝負で2-3割の勝率というのは凄いことではないでしょうか。

而して、アマの県代表クラスを一蹴する奨励会の初段が、ライバルの他の初段を凌駕する勝率をkeepすることで、初段→二段→三段と昇段し、最後に、(プロ四段よりも強いと囁かれる!)奨励会三段リーグの30余名の中から年間4名しか「プロ四段」にはなれない。これが将棋のプロの世界。

ならば、女流棋士が過去に1人も「プロ四段」になっていないのは事実としても、(女流棋士はある段階で、男子のプロ棋士志望者と伍して奨励会で研鑽を続けるか、「女流プロ棋士」になるかを選ばなければならないので、正確な比較はできないのですが)女流のトップクラスは間違いなく奨励会の二段の上位から三段程度(ということは、勢いが落ちたロートルのプロ四段や五段)の実力はもっておられると思います。

少なくとも、将棋に関しては、彼女達は「常人」ではない。学生時代に将棋部でならしたとかの腕自慢が集う街の将棋クラブでも彼女達には誰も歯が立たない。私自身もお相手していただいたことがあり、また、学生将棋の全国ベスト16になったこともある友人との対戦を傍で見たこともありますが、私などは「ゴミ」同然で、かっての腕自慢君なども、正に、鎧袖一触! 閑話休題。



このニュースの背景を説明するためとはいえ、将棋界の話が長くなりました。では、なぜにこのニュースを私は複雑な気持ちで受け止めたのか。それは、将棋の下手の横好きの私は、将棋界がもっと発展してくれれば嬉しい。単純にそうなればハッピーです。つまり、もっと多くの人がプロ棋士の将棋の内容や勝敗、そして、将棋の戦法、または、それらを編み上げた棋士の個性や時代の思想を堪能できるようになれば、今よりも多くのスポンサーもつくだろう。そうなれば、そうなれば、将棋の才能ある若者が全国から全世界からプロ棋士を目指すようになり、自ずと将棋のレヴェルもあがるだろう。そのためにはどうすればよいのか。

そのためには、少なくとも、女流棋士ならぬ二流棋士として、待遇も不安定で劣悪なまま捨て置かれながら、他方、日本将棋連盟のイベントにはコンパニオンとしてアクセサリー的に動員され酷使されている女流の現状。将棋連盟にも言い分はあるでしょうが、傍から見てそうとしか言いようがない女流棋士の現状は変える必要がある。大体、今のままでは人口の半分を占める女性から「プロ棋士」を目指そうという少女が出ることは稀であり、ならば、女性の将棋フアンの拡大にも限界があるに決まっています。そう思って私は「女流プロ将棋界の独立」に声援を送っていました。

けれども、女流棋士会が53人、男性のプロ棋士が約150人、合計200人余りの<男女のプロ棋士>の所帯で、『レジャー白書』によれば、約1000万人の国内の将棋人口を活性化することはかなり難しいし、まして、男女別々にそれを行うというのは不可能でしょう。更に、今後、海外にも将棋文化を広げていくことを考えた場合、女流プロ将棋界の独立は、男子プロと女子プロの双方の組織の協調関係が不可欠の前提だとも思っていました。この点はその経済規模からいって、男女のプロ組織がほとんど独立していてもその競技人口の維持増大に支障がないプロゴルフやプロテニスの世界とは全然違う。よって、女流プロ将棋界の独立問題が男女の組織の対立の様相を呈してきたというこのニュースは、将棋フアンの私にとっては悲しいことと受け止められたのです。

もちろん、だからといって、女流プロ棋士には今まで通り二流棋士のまま、男子プロのイベントコンパニオンで我慢しろとは最早言えない。将棋界と将棋の文化の普及と発展に関して女流棋士にほとんど発言権がないという現状は、将棋と将棋界のためにも放置されるべきではない。まして、極一握りの男子のトップ棋士を除けば、イベントの集客やTV番組の注目度では女流棋士が男性棋士を遥かに凌駕していることも事実なのです。つまり、53名の女流棋士のお陰で(トップ棋士7-8名を除く)150人余りの男性棋士は生活ができている現実を忘れるべきではない。

他方、トップ棋士でさえ女流の棋力は、落ち目の男子プロの四段か五段程度でしかなく、新進気鋭の奨励会三段にはまだまだ及ばず、まして、名人・竜王という男性のトップ棋士には到底太刀打ちできない。すなわち、将棋が<技術の文化>であり、それが<技術の文化>である以上、将棋も温故知新的な営為を繰し返しつつ日進月歩していることを考えた場合、正直、その文化の最先端の開拓には(総合的には)女流棋士はまだまだ貢献できていないのも事実でしょう。

女流棋士も男性棋士も「将棋という単一の文化を担っている」点で、すなわち、女流棋士を「常人」と隔絶させているものが実は男性棋士が開拓し続けている将棋の最先端の地平であることを鑑みるならば、女流棋士がまだまだ弱いことを根拠にその発言権や処遇に一定の男女差を認めることは満更理由がないわけでもない。これは、女子プロが男子プロより格段に弱くともそれがなんら男女のプロ組織の力関係に影響しないだろうゴルフやテニス、あるいは、バレーボールやバスケットボールの世界とは全然事情が違うのだと思います。では、

女流棋士新法人設立の問題はどう解決されるべきか


女流を二流のまま放置していてよいのか。蓋し、出来合いの結論はないのですが、プロ将棋界への女流棋士の財政的貢献・将棋人口の拡大と将棋文化の層を分厚くするために女流棋士の力が不可欠なこと・将棋の実力では男子プロと女子プロにはまだ差があること等々、これらのことを鑑みれば、まずやるべきは、 女流棋士の処遇改善とプロ将棋界での発言権の増大、そして、若い女流棋士育成制度の充実を男女の両団体が協力して行う体制作りであり、 女流棋士会が男子プロの団体である日本将棋連盟と別法人になるかどうかという器の形の決定などは、二次的なものにすぎないのではないか。私にはそう思われるのです。いずれにせよ、なんとか丸く収まり、将棋フアンを早く安心させていただきたいものです。

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