「通勤ライナー」はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのかー有料座席列車導入は鉄道活性化のカギ

こんにちは。大塚良治『「通勤ライナー」はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)で鉄道活性化策を提言しています。

全てのステークホルダーに「メリット」を―「生活バスちばにう」が目指すもの

2014-03-11 23:23:14 | 日記
皆様、こんにちは。

3月9日(日)に印西市で「生活バスちばにうミニ・シンポジウム」が開催されたことは、前回の記事でお伝えした通りです。新聞でも大きく報道され、大きな反響を呼んでいます。

「生活バスちばにう」は北総線に対抗する交通手段ではなく、北総線から乗客を奪おうとは毛頭考えていません。安価な交通手段を提供することで、マイカーからのシフトを促したり、これまで高運賃の北総線を利用できなかった人たちの需要を新たに創出したいと考えています。

そもそも、「生活バスちばにう」の1日目標乗車人員は400人に過ぎません。千葉ニュータウン中央駅の1日乗車人員16,025人(平成23年度)に到底及びませんし、北総線利用者がバスに全てシフトすることもありえないことです。仮に400人が北総鉄道からバスにシフトしたしても、北総鉄道の経営への影響は限定的なものに留まるでしょう。繰り返しになりますが、私たちは今まで自宅に引きこもっていた人たちやマイカーの人たちの需要を創発したいと考えています。

私たちの願いは、バス運行を通じて「満たされないニーズを充足し、需要を開発する」ことを通して、住民のQOL(生活の質)を向上させ、「子や孫の代まで安心して暮らせる千葉ニュータウン」を実現することにあります。

そもそも「生活バスちばにう」のアイデアは、愛知県小牧市の「桃花台バス」(あおい交通(株))と福岡市における鉄道とバスの対等な競合に着想を得たことに始まりました。

交通権学会の前田会員と私は、2013年3月23日(土)に、愛知県小牧市にあるあおい交通株式会社本社に同社の松浦秀則代表取締役を訪ねて、「桃花台バス」に関するヒアリング調査を実施しました。同社訪問前には実際にバスにも乗ってみました。



「桃花台バス」は、名古屋造形大学とJR中央本線春日井駅の間で運行されているスクールバスの復便を路線バスとして開放するよう求めた地元の住民の要望を受けて実現したバスです。それまでは朝、あおい交通の営業所から春日井駅まで回送として送り込まれ、春日井駅から大学まで学生や教職員を乗せ、夕方以降は大学から春日井駅に学生や教職員を送り届けた後、やはり大学や営業所まで回送していました。この回送便に一般客を乗せるようにしたのです。まさに、あおい交通と地元住民の双方にとってメリットがもたらされたのでした。

松浦社長のお話しでは、「桃花台バス」は住民と会社の双方にとって"Win-Win"であることや、一律定額の乗合ジャンボタクシー「ミゴン」について熱く語って下さったことがとても印象に残っています。

私たちは「桃花台バス」の事例を見て、千葉ニュータウンで市民主導のバスを実現したいとの思いを強くしました。千葉ニュータウン住民との勉強会を重ねて、ついに同年10月7日(月)~13日(日)の1週間、バス社会実験を実施しました。乗車人員は目標に到達しなかったものの、実際に乗車された方々の満足度は高く、早期の路線バス化を望む意見が大半を占めました。



一方、兵庫県神戸市東灘区の住吉台地区は、六甲山ろくの傾斜地にあるにもかかわらず、住民の交通手段はマイカーなどに限られており、免許を持たない高校生や、車の運転が困難な高齢者も気軽に利用できるバス交通の登場が待望されていました。そんな住民の熱い思いが、意欲ある独立系バス事業者である、みなと観光バス(株)による「住吉台くるくるバス」の実現を導きました。今では多くの住民に利用される欠かせない交通機関となっています。

社会実験終了後も、私たちは千葉ニュータウン住民と検討を重ね、ついにこの4月に「生活バスちばにう」が正規の路線バスとして運行できる見通しとなりました。

「生活バスちばにう」は市民の手で交通機関を生み出した住吉台のスピリットに倣い、千葉ニュータウンでも市民の力で安価な交通手段を生み出したいと考えています。

「生活バスちばにう」の名称はすべてのステークホルダーの生活に役立ちたいとの思いを込めて、「生活バスよっかいち」の名称も参考に名付けられたものです。「生活バスよっかいち」とは性質を異にしますが、四日市のスピリットに敬意を表する気持ちを「生活バスちばにう」の名称に込めました。

そして、あおい交通、みなと観光バス、そして鎌ヶ谷観光バスの3社に共通するのは、「意欲ある独立系バス事業者」であるという点です。電鉄会社系列や公的企業でないからこそ、それぞれがしがらみに縛られずに、地域貢献のために大胆な事業を展開できているということなのです。

現在、千葉ニュータウンには高運賃の北総線しか事実上選択肢がありません。北総鉄道(株)の親会社は東証1部上場の京成電鉄(株)です。京成の平成25年3月期の当期純利益は219.73億円にも及びました。これだけの利益を計上している会社であるにもかかわらず、北総鉄道への線路使用料を実質的に支払っていません。「北総線値下げ裁判」では1審・2審ともに住民の訴えは退けられましたが、京成の企業行動は決してほめられるものではないことは確かでしょう。

企業は会計上の利益を計上しさえすれば、それで済むのでしょうか?株主だけでなく、顧客、従業員、および地域社会なども含めたあらゆるステークホルダーが満足することが重要であり、この点は伝統的な財務数値で評価することは適切ではないとの指摘もあります(Copper, S.[2004], Corporate Social Performance: A Stakeholder Approach, ASHGATE, 2004, pp.43-44)。

コーポレート・ファイナンスの教科書は、企業は投資を行う場合、その投資から生み出される期待キャッシュ・フローの現在価値から投資額を控除した余剰額(NPV)が正である場合に、企業価値が向上すると説き(Damodaran, A.[2002], Investment Valuation 2nd Edition, 2002, Willey, p.865)、NPVが正の場合に投資を行うことを正当化します。株主価値を重視する経営の下では、このことは当然視されているのです。

しかし、「生活バスちばにう」の運行主体である鎌ヶ谷観光バス(有)の徳永昌子専務取締役は、新たに2台のいすゞの中型路線バス「エルガミオ」を購入するに当たって、「思い切って買ってしまいました。もしうまくいかなければバスを売ればいいだけの話し。まずはバスを走らせることが大事だと思って決断しました」と述べています。徳永専務の言葉からは会社の利益を優先するという考えは感じられません。バス購入に当たって行ったのは簡単な収支見積もりであり、それも1日400人が利用すればバス購入費用と人件費、燃料費くらいは回収できるというシンプルなそろばんはじきだけです。

徳永専務の言葉にあるのは、自社の利益よりも顧客や地域の利益のために大胆にリスクを取るという決意です。社会実験でお客様からバスを待ち望む声を聞いたことが、徳永専務の決断を後押ししたと言えます。

自社の利益のために沿線住民に高運賃を強いる鉄道会社と、地域のために自社がリスクを引き受けようと決断して社運を賭けて新型バスを購入した小さなバス会社。どちらの会社の方が、社会に目を向けているのか。もはや言うまでもないことなのではないでしょうか。

※以下、過去の関連記事です。

「『生活バスちばにうミニ・シンポジウム』が開催され、コーディネーターを務めました」

「千葉ニュータウンバス運行を目指して行われたバス社会実験を振り返る」

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